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本物はこっちだよ

「で、カナタよ。旅行はどんな感じだったんだ?」


「あ、そうそう。シアちゃんには言ったんだけど、冬になったら一緒に旅行に行かない?俺達が泊まった宿に大部屋もあるみたいだし、大型の露天風呂もあるんだって。蟹が食えるって」


「おー、蟹か。そりゃいいな」


「ドワーフの職人も誘うつもりなんだけど」


「おお、ドワーフと飲みくらべ出来るな。そいつは楽しみだ」


「あとベリーカの人を誘うか迷ってるんだよね。一人に掛けたら皆くるとか言いそうだし。10人くらいまでがいいかなって」


「そうだな。それ以上の人数は収拾付かんだろうな」


「あとハポネのギルマスかな。トーマスの事知ってたよ」


「名前なんていうんだ?」


「知らない。ギルマスとしか呼んでなかったから。まぁ、トーマスは有名人だからランクが上の奴ならだいたい知ってるとか言ってたけど」


「余計な事を言いやがるやつだ。よし、そいつも誘え。飲み潰してやる」


「地元だけどいいよね?」


「いいんじゃねぇか。地元だからこそ泊まったことないだろうからな」


それはそうかもしれんな。


「じゃあだいたい休めそうな日決めといて」


「まぁ、俺とシンシアはいつでも構わん。1泊とか2泊とかそんなもんだろ?」


「そうだね」


「あら、私は誘ってくれないのかしら?」


「あ、一緒に行く?」


「ふふっ、混浴ならカナタくんと一緒に入ってあげるわよ」


「カナタ、混浴ってなあに?」


「男の人と女の人が一緒に入れる風呂のことだ」


「ダメっ、そんなのっ」


「あ、当たり前だっ」


「ふふっ、残念。じゃあ早めに言ってくれたらここ閉めるから」


と参加者が決まっていく。


その後、猟師町であった事とか話して宿舎に泊まる事に。


しまったな。着替え持ってきて無いわ。まぁ、明日朝にベリーカに寄って着替えたらいいか。


「クロノ、寝たら覗くからな」


「わ、解ってるわよっ」


ここのバスタブは寝っ転がらないとちゃんと浸かれない。寝たらすぐにちゅるんと滑って溺れる可能性があるからな。


クロノは寝てしまうかもしれないのでシャワーだけして出てきたようだ。先に寝てていいぞと言ってから風呂に入る。


あー、宿の風呂は良かったな。ベリーカの家の風呂も改装するかな。あそこもここと同じタイプなんだよな。ハポネなら深い風呂売ってるだろうか?工事はベリーカの職人ができだろうからそのうち聞いてみよ。寒くなる前にやらないとな。


と、風呂から出るとテーブルに突っ伏して寝てるクロノ。


寝室で寝ればいいのに・・・


クロノを抱き上げて、ベッドに寝かせてから自分も寝室へ。


そして再び悪夢にうなされる叶多。


「くそっ」


また汗が滲み出て血の臭いがまとわりついている。


シャワーを浴び直しても臭いがとれない。これは気のせい、これは気のせい。脱いだシャツは汗が滲んでいるのでもうそれを着たくない叶多。自分の汗がより血の臭いを放ってるような気がするのだ。そして上半身裸でベッドに座る。


カタカタカタ。目を瞑ると生首が襲ってくる。


くそっ


一度ベリーカに戻って・・・。いやダメだ。ここは安全だと思うが寝ているクロノを一人にしたくはない。俺がいるからとトーマス達も警戒体制は取ってないだろうし。


叶多は耐えた。そして何回もシャワーを浴び直す。


そうだ、クロノが風呂上がりに拭いたバスタオルが・・・。それもあいつの寝室か。


ベッドに座ると眠気を誘うので、リビングの椅子に座っている。


ダメだ。もう一度シャワーを浴びよう。


シャワーでザーザーと血を洗い流すように浴び続ける。こうしているとずいぶんマシだし、眠気も来ない。


叶多は立ったままシャワーに打たれ続けた。


「カナタ、カナタ。まだシャワー浴びてるの?」


ドア越しにクロノが話し掛けて来る。


「あ、ごめん。起こしたか?」


「どうしたの?」


「いや、血の臭いが・・・」


「わかった。もう出て来て」


叶多はシャワーを止めて身体を拭き、風呂場から出る。


「きゃっ」


「ごめん、シャツが汗だくでさ、それがもっと血の臭いに思えて」


叶多の顔は真っ青だった。


クロノはぎゅっと叶多に抱き付く。


「これで大丈夫?」


クロノは素肌の叶多の身体にくっつくのは恥ずかしかったが、あの顔を見るとそんな事は言っていられない。


そしてしばらくすると叶多は落ち着いて来た。


「ご、ごめん。ありがとう。もう大丈夫」


「本当?」


「あぁ」


「でも目を瞑ったらまた怖いの見えるんでしょ?」


「起きてるから大丈夫」


「一緒に寝る?」


ここのベッドはシングルベッドだ。二人で寝るには密着してないとダメだ。


「いや、そんなことしたら眠れないからいいよ」


「じゃ、ベリーカに寝にいく?」


「悪いけどいいかな?」


「うん」


と、二人でベリーカに戻った。


クロノが今着ていた服を脱いで叶多に渡す。


「し、下着は恥ずかしいから、ふ、服で我慢してね」


「ありがとう。じゃ寝るね。お休み」


「うん」


そして叶多はリビングのベッドでクロノの服を抱きしめながら寝ていった。


クロノはその姿を見て心が締付けられる。

こんなに辛そうななのに何もしてあげられない。私がここに連れて来てしまったから・・・


旅行の時に一度だけ一緒に寝たが、叶多はそれ以外は頑なにクロノと一緒に寝ようとはしない。ドキドキするからと言ってくれているが、間違いが起きないようにしてくれているのだろう。


自分を抱き締めたら落ち着いてくれる叶多・・・


寝ている叶多にそっと近付くと叶多はクロノの服をまるでそこにクロノを抱き締めるかのようにして眠っている。


クロノはそっと叶多の背中側に添い寝した。


(本物はこっちだよ)


そう心の中で囁くと叶多はクロノの方を向いてギュッと抱き締めた。すると眉間によっていたシワがスッとなくなり穏やかな顔になっていく。


「クロノ・・・」


そう呟く叶多。


「起きてるの?」


しかし返事は無く寝言のようだった。


クロノは自分のドキドキが叶多を起こしてしまうんじゃないかと心配したが叶多はそのまま穏やかに寝ていた。


叶多が目を覚ます前にバレないように離れようとしたが、叶多の胸の中は心地よく、クロノもそのまま寝てしまったのであった。



「うわっ」


叶多の叫び声で目が覚めたクロノ。


「どうしたのっ」


「ご、ご、ご、こめん。俺、無理やりクロノを連れて来ちゃったのか?」


「ふふふ、そうよ。離してくれないからそのまま寝ちゃった」


いつもの叶多に戻ったのがわかったクロノは少し意地悪してそう言った。


何度もごめんと謝る叶多に、クロノはクスクス笑って怒ってないよと返事をした。


急いで着替えた二人はギルドの宿舎に戻り、なんとか朝食の時間に間に合ったのだった。



「じゃ、明日また来るよ」


「おう、出るのは夕方だからゆっくりでいいぞ」


「朝からじゃないの?」


「アジトが分からんからおびき出す。賊が出る前に魔物に出くわす可能性もあるから気をつけておけ」


「了解」


そして、叶多はハポネに移動する。


「お兄ちゃんまた来てくれたの?」


「おう、キルトにお土産というか報酬を持って来てやったぞ」


「報酬?」


「そうだ。お母さんを守りきった報酬と、クロノを守っててくれた報酬だな」


「やったぁ!お菓子でもくれんの?」


「お菓子の方がよかったか?これ持ってきたんだけどな」


「え?本当にこれくれんの?」


「ちゃんと約束守れるならな」


「絶対に守るよ」


「まずはスピードを出さないこと、人が多い所で乗らないこと、海の近くでは乗らないこと、人に自慢しないこと。守れるか?」


「わかった。必ず守るよ」


「よし、いい子だ。じゃ、乗り方を教えてやるからな」


と、叶多はキルトにキックボードの乗り方をレクチャーしていく。


「そうそう。そんな感じだ」


「すっげー!こんなにスイスイ走れるんだね」


「ドワーフの職人が作った特別品だからな。絶対危ない乗り方すんなよ。お前が怪我しても他の人を怪我させてもダメだからな」


「ありがとうお兄ちゃん」


「おう。後でまた来るからデルモに会ったら話があるっていっておいて」



次は商業ギルドへ。


「お待ちしておりました。こちらの商会と直接交渉して頂いて宜しいですか。この紹介状をお持ち頂ければ大丈夫ですので」


場所を聞いててくてく歩いていく。


そこで、缶詰工場の話をして、どれぐらいの規模で作るかとか場所を確認してから見積もりを出してくれることに。一週間後に現地で落ち合うことを約束した。


漁港に戻ってデルモと打ち合わせ。数人の奥様達も参加だ。


「わかった。ライセンスは私が取ればいいのね」


「ライセンス代出してやろうか?」


「そこまでしなくていいよ。私の貯金から出すから」


「じゃ、一週間後な」


やることはこれで終り。


ギルドに行ってギルマスに冬の旅行の話をするとトーマスにも会いたいから参加するとの事。名前はゴードンだった。ドワーフの国へよって、ザイルとドグにも伝えるとふたつ返事でOKだ。


「クロノ、今日はゆっくりしようか?家でなんか作って飲む?」


「あの花火の時に飲んだシュワシュワのが飲みたい」


またハポネに戻って白とピンクを3本ずつ買って、ベリーカでステーキ肉とチーズ、バゲットを買って帰って帰った。



「美味しいっ」


クロノは喜ぶが叶多はチーズしか食べてない。


「お肉食べないの?」


「ごめん、ちょっと血の臭いがね」


「そっか、これもダメなのね」

 

「チーズとバゲットがあるから大丈夫だよ」


「これなら食べられる?」


と、クロノが横に座ってあーんしてくれた。


「あ、大丈夫だ・・・」


叶多は自分で食べてみると言って食べたら大丈夫だった。


「クロノが隣にいてくれたら大丈夫だ」

 

「じゃ、平気になるまで隣に座るね」


「うん、ありがとうね」


二人は家のテーブルに並んで座り、ステーキを食べ、白とピンクのスパークリングワインを楽しんだ。


「クロノ、先に風呂に入る?」


「わかったー」


すっかりご機嫌のクロノはフンフン♪と鼻歌を歌いながらお風呂に行く。


しばらくしてちゃんと出て来たので叶多も風呂に。


あー、しまった。ハポネで風呂探すんだったな。まぁ、次でいいか。


そして風呂から出るとクロノがリビングのベッドで寝ている。


「おい、寝室に行けよ」


と、声を掛けても起きない。仕方がないので抱き上げて寝室につれて行こうと思ったらそのままぐいっと引っ張られた。


「起きてんなら自分で・・・」


「一緒に寝よ。本物はここにいるよ」


「まさか昨日も・・・・」


「へへへ、バレた?」


「俺、うなされてたのか?」


「ううん、服を抱き締めてるから本物の方が良いかなって」


「そっか。ありがとうな」


そして狭いシングルベッドで二人は寝たのであった。


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