おせっかい
「俺の勝ちね!」
べしっ
「痛ってぇぇぇ。ズルいぞカナタっ」
「いつまでもボサッとしてるからだろっ。勝ちは勝ちだ」
「よし、もう一回だ。今度は俺のメガデコピンを食らわしてやる」
「ちょっとぉ、もう止めなよ。私の方が重いから負けるって」
「お前は重くなんかないっ」
「ふっふっふ、なら今度は抱っこして勝負だ」
「えっ?えっ?えっ? ちょっとカナタ何言ってんの?みんな見てんのにこいつに私が抱っこされるなんて恥ずかしいじゃないっ」
「クロノ、飛ばすから捕まっとけよ」
「うん♪」
クロノをおんぶから抱っこした叶多はクロノを首にしがみつかせた。
「よーい どんっ」
「ズルいぞてめぇ。おら行くぞっ」
「ちょっとちょっとちょっと。キャアっ」
「待ちやがれっ」
「2連勝!」
べしっ
「お前ズル過ぎんだよっ」
「ばっか、俺はクロノを抱き抱えたまま魔物から逃げたりしてんだぞ。お前なんかに負けるかよっ」
「ちょっと下ろしてよっ。みんな見てんじゃんっ」
真っ赤な顔をする女の子。そう言われて皆を見ると生暖かい目でこっちを見ている。
「す、す、すまんっ」
慌てて女の子を下ろしたが、叶多はクロノを抱き上げたままだ。
「あ、あんたらいつまで抱き上げてんのよ?恥ずかしくないの」
「ん?軽いから問題ないぞ」
「違うっ、恥ずかしくないのって聞いてんのっ」
「もう慣れたぞ」
「ちょっ、ちょっと離れなさいよっ。見てるこっちが恥ずかしいわよっ」
「だってさ。降りろクロノ」
「んー、眠くなってきちゃった」
「じゃ帰って寝るか?」
「うん」
「ごめん、クロノが眠たくなってきたみたいだから、家に帰るわ。荷車は明日取りにくるから置いといて」
「ちょ、ちょ、ちょっと、あんた達が帰ったら私達だけからかわれるじゃないっ」
「慣れるから大丈夫だ。じゃまた明日なーっ」
叶多は誰か付いて来たら危ないのでしばらくそのまま歩いて行ったのであった。
「おい、お前ら。いつの間にそんな仲になったんだよ?」
様子を見ていた他の同世代の人達が早速からかいに来た。
「ちっ、違うわよっ」
「いいから、いいから。さ、ゆっくり話そうぜ」
「カナタっ!おいカナタっ!俺達を置いて行くなよっーーっ」
叶多は振り返らずに手だけ振って向こうへ歩いて行ってしまった。
叶多はふわふわしながらクロノを抱いたまま歩く。
「もう走らないからしがみ付かなくて大丈夫だぞ」
「ん、このままでいい」
「ポヨンが当たってるぞ」
「知ってる」
「恥ずかしくないのか?」
「恥ずかしいよ。カナタは嬉しい?」
「嬉しいぞ」
「ならこのままでいい」
そして二人で赤くなりながら家に帰ったのであった。
途中で寝てしまったクロノをベッドに寝かせて、叶多はシャワーを浴びる。こっちは真夜中だけど、ハポネはあと少しで夜明けだ。少しだけ寝て、荷車取りにいかないとな。
さっとシャワーを浴びた叶多はベッドに入るとすぐに寝てしまった直後に悪夢を見る。
「うわっ!」
身体が消滅した筈の生首が叶多に襲ってくる夢だった。
今さっきシャワーを浴びたはずなのに汗でじっとり濡れている。そしてその汗から血の臭いがしてきたのだ。
くそっ、これは気のせい、血の臭いなんてしてないっ。そう自分にいいきかせてもう一度シャワーを浴びた。
シャワーでは血の臭いが消えない。頭も痛むのでポーションを飲む。鼻に媚り付いた血の臭いが叶多を不快にさせる。やつらのやった罪状を思い浮かべ、ギルマスのいった血を吸う蚊を叩き潰すのと同じだと言われたことを思い出しても血の臭いは消えない。
これ、ヤバイな。トラウマって奴だろうな。
叶多は自分の状態を冷静に判断した。トラウマになっていざというときに動けなくなったらクロノを守れないかもしれない。
さっきまであんなに楽しかったのに・・・。悪夢で酔いが覚めた叶多。かなり酔ってはいたが記憶は飛んでいなかった。なぜ自分があんな事をしていたのかは理解出来ないが。
また鼻に媚りついている血の臭いはクロノをぎゅっとさせてもらったら消える。しかしまだ寝てるしな・・・
『嫁さんの下着でもポケットにいれとけ』
ハポネのギルマスの言葉を思い出す。
まだ洗濯してなかったよな・・・
叶多は脱衣篭に入れてあったクロノの服をとりだしてそれを抱き締めた。クロノの服は甘い香りがしていて血の臭いを消してくれる。
嫁さんの脱いだ服を嗅ぐとか変態だな俺は。
まだ寝られる時間があるから少し寝ておくか。と、ベッドに戻り、目を瞑ると生首がちらついてくる。くそっ・・・
たが、叶多はクロノの服を抱き締めるとスッと寝てしまった。
「ちょ、ちょ、カナタっ。何で私の下着を握ってんのよっ。馬鹿っ変態っ」
クロノに叩き起こされる叶多。
「あ、もう朝?」
「私の下着を返してっ」
「え?」
カナタの枕元にはクロノの服、手にはパンツを握っていた。
「わ、わぁっ!」
「何してんのよっ、馬鹿、変態っ」
「ご、ごめっ、また血の臭いがしてきてその、クロノの服を・・・」
「下着は?」
「服だけ持ってきたつもりだったんだけど、服に付いて来たのかもしれない・・・」
「何で握ってんのよっ」
「お、覚えてない。ごめん」
「もうっ。恥ずかしいからやめてっ」
「うん」
お茶を入れて飲む二人。
「服の事はわかった。でもパンツはやめてね。さすがに恥ずかしいから」
「ごめん」
「カナタ」
「だからごめんって」
「私と一緒に寝る?」
「ドキドキして眠れないから大丈夫」
「でも血の臭いしたり、怖い夢見たりするんでしょ?」
「そうだね」
「ドキドキして眠れないのと嫌な思いをして寝られないのとどっちがいい?」
「どっちも嫌だ。寝てないとまずい時あるし」
という事で、クロノが使ったタオルケットを翌日叶多が使うことにしたのであった。
俺ってこれがないと眠れなくなるとか、犬みたいだよな・・・。
パンとジュースの軽い食事を取ってからハポネに移動。こっちはすっかり昼前だが、そこら中に屍がある。あの後も飲んでたんだろうな。火酒が2樽とも空だし。
取りあえず荷車を置いといて商人ギルドへ行ってみる。
「缶詰の設備ですか。わかりました調べて置きますのでまた明日にお越し頂けますか?缶詰工場を運営されるならライセンスのランクを上げて頂かないとダメなのですが」
「出資するだけで、運営は任せるつもりなんだけど」
「では、運営される方の中からライセンスの取得をしてください。店舗扱いになりますので」
「了解です」
次はお土産の買い出しだ。スルメや魚の干物、味噌とかを買って行く。荷物がたまったら荷車へ乗せに行き、買い物を続けていくとあいつらが起きてもめていた。
「やっと起きたのか?」
「カナタ。聞いてよこいつ、昨日の事なんにも覚えてないのよっ。私を抱いた癖にっ」
誤解されるからそんな言い方やめとけ。
「だから覚えてねぇって言ってるだろっ」
記憶飛んでるみたいだし応戦してやろう。
「いやお前、嫌がるこいつを無理やり抱いたぞ。ちゃんと責任取れよ」
「う、嘘だろ・・・」
「お前、無理やり抱いといて覚えて無いとか最悪だな。みんな見てたからな」
「え?」
「そうよっ!あんな恥ずかしい思いをさせて覚えてないとか最低よっ」
「カナタ、冗談だよな?なっ、俺をからかってんだろ?」
「こんな事冗談で言うかよっ」
さーっと青くなる男の子。
「マジか・・・。すまん酔ってて覚えて無いのは本当だが、責任は取る。俺で良かったら結婚してくれっ」
「えっ?」
「無理やり抱いたからじゃない。ずっとお前が好きだったんだ。贅沢はさせてやれねぇかもしれないけど俺が一生お前を食わせてやるからっ」
「えっ? えっ? えっ?ちょっとちょっと、いきなり何言ってんのよっ」
「ダメか?」
「だ、ダメじゃないけど・・・」
「おーっ!オリバーがデルモに結婚を申し込こんだぞーーっ!」
それを聞いた他の連中が囃し立てる。
こいつらの名前、オリバーとデルモっていうんだ。缶詰工場より、ソースとかケチャップとか作った方が成功しそうだな。
「お前らっ茶化すなよっ」
「まだ生活出来るほど稼いでないじゃない」
「それな、ここに缶詰工場作って貰おうと思ってるから夫婦で働けばなんとかなると思うぞ。オリバー、この話は覚えてるか?」
「あぁ、そういやカナタが出資してなんとかと言ってたな」
「そうそう、もう商業ギルドで設備作ってくれる所探して貰ってるからな。後は誰か商人のライセンスを取ってくれ。デルモが取るか?」
「な、何よそれ?」
「ここの人達はまだ働く余力があるって聞いたからな、捕れ過ぎた魚とか商品にならない奴とか缶詰にすれば捨てずに済むだろ?売り先も考えてあるし俺も欲しいしちょうどいいとおもうんだ。設備の出資は俺がするからやってくれよ」
「本当にそんな事出来るの?」
「大丈夫。ここで売れなかったら俺が買い取って他所で売ってくるから。あとさ、あそこの食堂のおばあちゃんいるだろ?あの人に煮付けのレシピとか監修してもらってよ。それ缶詰にしたら絶対に売れるから」
「わ、わかった」
「で、結婚は受けるのか?」
「う、うん」
「わぁーーーっ!二人の結婚が決まったぞーーっ」
「もうっ、みんなからかわないでよっ」
「オリバー、良かったな」
「あぁ、ありがとうな。お前のお陰で踏ん切りがついてやっと言えたよ」
「しかし、プロポーズが一生食わせてやるってダサいなおい」
「う、うるせっ。食っていくのは重要なんだっ」
この辺も記憶飛んでんだな。
「デルモ、酔ってたとはいえ、みんなの前でなんてすまん」
「そうよっ!いつこけるか怖かったんだからねっ」
「こける?」
あ、バレたな。
「お前、デコ痛くないか?」
「あぁ、ズキズキする。二日酔いでこんなに頭痛くなるの初めてだ」
「それは俺にデコピン2発食らった痛さだぞ。俺も酔ってて手加減出来なかったからな」
「デコピン?」
「初めはおんぶ競争、2回目は抱き上げて競争だ。2回とも俺の勝ちだ」
「は?」
「クロノ、ちょっとおいで」
と呼び寄せてひょいと抱き上げる。
「ほらクロノは軽いからな。おまえ、デルモが重くて負けたんじゃないか?」
「えっ?あーーーーーっ!思い出したっ。お前ズルしたじゃないかっ」
「デルモ、よかったな。オリバーが思い出したぞ」
「わ、私ってそんな重かったかな?」
「重くないっ!重くなかったけど、お前を抱いたってもしかしてこの事か?」
「そうよ。みんなの前で恥ずかしかったんだからねっ」
オリバーはギロリンと叶多を睨む。
「嵌めやがったなお前」
「俺がなんか嘘付いたか?クロノも女神だったろ?」
「うるせーーっ!」
叶多はクロノを抱き抱えたままダッシュで逃げたのであった。
「オリバー、しっかり稼いでね。私も頑張るから」
「お、おうっ」
ったく、カナタのやつ。余計なお節介焼きやがって。
と、オリバーは新しく出来た友達を嬉しく思っていたのであった。