女の子は軽い?
「ん?どうしたの?」
目を覚ました叶多。男の子も女の子もお互いが拗ねている。
「あ、クロノ。膝枕しててくれたんだろ?ごめん、重かったろ?」
「大丈夫よ」
「まだ火酒残ってる?」
「飲むの?」
「いや、まだみんな飲むならもう1つ取りに帰ろうかなって」
「おい、カナタ。取りにかえるってお前外国人なんだよな?」
「そうだよ。ベリーカって所に家がある。そこの納屋に火酒を置いてあるんだよ」
「どうやって取りに行くんだよ?」
「ワープして取りに行くからすぐだよ。じゃ取ってくるから待ってて」
と、叶多はクロノを荷車に乗せてワープゲートを開く。
「危ないから付いてきちゃダメだよ。出る前にゲートが閉じたら閉じ込められるかもしれないから」
と言い残して空間に消えていく。
「な、な、な、俺酔ってんのか?」
と、叶多が消えた空間に手を出してみる。
「うわっ、手が消えたっ」
と手を引っ込めようとするが抜けない。
「なっ、なんだよこれっ。たっ、助けてくれっ」
「ちょっと、なにやってんのよっ」
と女の子が男の子の腕を引っ張るが抜けない。
叶多は出口を開けた後、念の為に後ろを振り替える。
「あ、腕入ってんじゃん。付いて来んなって言ったのに」
と、戻って出ている腕を引っ張ると男の子と女の子がずるんと入ってきた。
「付いて来たら危ないっていったろ?知らずにゲート閉じたら腕無くなってたんだぞ」
「な、な、な、何よここ?」
「亜空間。クロノがいるところが出口。時間制限あるから行くよ」
と二人を連れて行くことに。
先に皆を出して、そこで待たせて家の中に入り、警報を解除する。
「こ、ここどこ?」
「俺達の家。はい、その酒樽を荷車に乗せて」
「いやいやいやいや、なんだよこれ?」
「ワープ。ハポネからベリーカまで来たんだよ。空間を繋げるっていうのかな?」
「転移魔法ってやつか?」
「多分そんな感じ」
「本当に違う国に来たのか?」
「外に出でみる?」
と連れ出してやるとそこにはハポネと全く違う景色が広がっている。
「カ、カナタっ。なんであんたこんなの出来るのっ」
「クロノが俺をそうしたんだよ」
「え?」
「こいつは女神だって言ったろ?時と空間を司る神様なんだよ。今は何にも能力が使えないから普通の女の子と変わらんけどな」
「女神様って、カナタの女神様ってことじゃなくて・・・」
「本当の女神様だよ。名前もクロノだろ?」
「じ、じゃあ魔王を倒すって言ってるのも・・・」
「本当だって言ったじゃん。俺は女神を守って魔王を倒すのが使命というか、今の所俺しか無理そうなんだよね」
「じゃあカナタは神の下僕・・・」
「下僕言うなっ」
「だってさ、だってさ。神様と人間が結婚とかおかしいじゃん」
「・・・そうだね、おかしいね。じゃ、酒持って戻るよ」
と叶多達は皆の所に戻った。
「おい、カナタ。俺と腕相撲してくれ」
「いいけど」
と勝負するも叶多は敵わない。元の世界ではまぁまぁ強い方だったがこっちに来たら弱い方だ。
「お前、こんな弱っちくて魔王を倒すとか無茶言ってんのか?」
叶多は女の子とキャーキャー言いながら酒飲んでるクロノを見てこう言った。
「俺はクロノを守ると約束したし、守ってやりたいんだよ。ずっとあんな風に笑顔でいられるようにしてやりたい」
「カナタ、それはクロノが女神様だからか?それとも惚れてるからか?」
「俺達は結婚していると言っても形式上の事で男女の関係じゃないんだ。俺は人間であいつは神様。人間の済む世界で合法的にクロノを守る為だけの結婚だ。惚れてるとか好きだとかは言えないかな」
「お前・・・それ辛くないのか?」
「クロノが人間の女の子だったら良かったなとは思うよ。まぁ、そう思ってもあいつは女神だし俺は人間だ。それは叶わん事だ。だから俺があいつにしてやれることはあいつを守ることだけ。だから強くならないとな。身体も心も」
「カナタお前・・・」
「お前もあの子の事が好きならちゃんと捕まえとけよ。俺達と違って人間同士なんだからちゃんとした結婚も出来るだろ?」
「あぁ、悪かったな初めに突っかかって」
「焼きもちだろ?気にすんな」
「うるせぇっ」
「ところでお前、なんで好きだと言ってやらないんだ?」
「漁師の収入は博打みたいなもんでな。不漁が続いたらすぐに食えなくなるんだ。みな苦労してんだよ。だからといって他の仕事が出来る訳でもねぇ。今は親父の船でやってるけど、結婚したら借金して船買って自分で家族を食わしていかないとダメだろ?家とかも必要だし」
「ここは奥さんも働くんだろ?」
「網の繕いとか海藻売ったりとかな。あの昆布やワカメとかは共同でやってるけど季節もんだし、たいした金にもならんよ」
確かに金貨1枚で大量にあったな。
「まだみんな働く余力はあるのか?」
「あぁ」
「ならここで缶詰作りしてくれないかについて?売れない魚とか取れ過ぎて余る時あるだろ?」
「あぁ、獲れない時は全くだし、大漁の時は値段も下がるし余るな」
「ならそれで缶詰作ってくれよ。ハンターギルドや移動商人達に売れると思うぞ」
「誰がそんな設備を揃えられるってんだよ。みんなかつかつなんだぞ」
「俺が投資してやるよ。返済は缶詰でいい。俺はそれを売り捌いて儲けるから。自分達で売って金で返してくれてもいいけど」
「はぁ?何でお前がそこまでしてくれんだよ?」
「俺が欲しいからに決まってんじゃん。海の魚食えるところ少ないんだぞ。生魚はここに来ないと食えないけど、缶詰ならいつでも食えるじゃん。酒のつまみにちょっと食いたい時とかにもいいし、移動してるときの飯にもいいからな」
「お前はワープってのでいつでも来れるんだろ?」
「俺はな。だけど他のやつらは違うだろ?それに商人の仕事を減らしてハンターとして修行をしないとダメだからな。ストック出来る商品じゃないと売りにくい。それにここでも土産物屋とかハンターギルド、商人ギルドに置いて貰えば絶対に売れるって。売れなかったら全部買い取ってやるから」
「い、いいのかよ?」
「オイルサーディン、ツナ、サバの味噌煮とか作ってくれ。俺はそれが食いたい。それに冬場は蟹捕れるんだろ?足取れたやつとか商品にならない奴を全部缶詰にしたら捨てずに済むぞ」
「なるほど」
「今まで捨ててたやつが金になるならお前も嫁さん食わしていけるだろ。頑張って魚捕ってくれよ」
「わかった。俺も頑張るわ」
「おうっ。俺が一生お前を食わせてやるとか言ってやれ」
「ダサいプロポーズだなおい」
「ばっか、ちゃんと食ってけるのは重要なんだぞ」
「そりゃそうだ。よし、俺達も飲もうぜっ」
「おうっ」
世界は違っても同世代のやつとは気を使わずにこうやって話せる。元の世界とは全然違う大人の会話だけど。
キャーハッハッハッハとクロノの笑い声が聞こえて来た。ご機嫌だな。クロノも俺とだけじゃなしに女の子同士で楽しく出来るのはいいことだ。
男同士で飲んでるところにクロノと女の子がニヤニヤしながらやってきた。
「カナタって変態なんだって?」
「は?」
「クロノのパンツをマジマジと見てるらしいじゃん」
「ちっ、違うっ!あれはこいつの下着を干してる時に、こんなに小さいんだなと思っただけだっ」
「下着を干してる?カナタが?」
「こいつ何にも出来ないからな」
「え?もしかしてカナタがクロノの下着を洗ってんの?」
あ・・・
「あんた旦那に自分の下着洗わせてんの?」
「ち、違うわよっ」
何が違うんだ?
「こいつ、脱ぎっぱにするからな。嫌でも目に入るんだ」
「カナタの馬鹿っ!なんでそんな事を人に言うのよっ」
「何回言っても聞かないお前が悪いんだろっ」
「でも人前で言うことないじゃないっ」
あ、男がここにいるんだった。
「こら、お前。クロノの下着を想像すんなっ。バチ当てるぞっ」
「そ、そ、想像なんてしてねぇっ」
「想像するならこっちのにしとけっ」
と、叶多は女の子を指差す。
「ちょっとカナタっ!何で私の下着を想像されなきゃなんないのよっ」
「こいつがクロノの下着を想像して赤くなるほうがいいか?」
「い、嫌だけど」
「なら、別にいいじゃん。俺はこいつにクロノの下着を想像されたくないからな。お前の下着を想像してもらえ」
「それもいやーーっ」
「か、カナタはこの子の下着を想像してるんじゃないでしょうね?」
「ん?して欲しいのか?」
「嫌よっ」
「下着なんて服と変わんないんだろ?」
「そ、それはそうだけど、なんか嫌なのっ」
とぶーっとむくれるクロノ。
女の子は女の子で真っ赤だな。俺はとんだセクハラをしているのかもしれない。
「ごめん、ごめん。でも先にパンツの話をしだしたのそっちだろ?」
「だって、どんな生活してんの?って聞かれたから」
「そうだ、ご飯もカナタが作ってんだって?」
「外食も多いけどね。家ではそうだよ」
「仕事もして家事も全部カナタがやってるの?」
「クロノは何にも出来ないからな」
「しんどくない?」
「別に」
「もしかしてそばに居てくれるだけで良いってやつ?」
「んー、別にクロノに何かしてくれとかはないかな」
「足が痛くなったり、歩くの嫌になったら抱っことかおんぶもするんだって?」
「こいつの足、柔らかいんだよ。だからすぐに靴ズレ出来たりするからな。それに軽いから抱っこもおんぶも苦にならないし」
「軽いっていっても私より少し小さいけど、カナタはそんな力あるほうじゃないでしょ?」
「いや、本当に軽いんだよ。ちょっとクロノ、こっちきてみ」
と、クロノを呼び寄せ高い高いをする叶多。
「な、こうやって持ち上げる事も出来るんだよ」
「ちょ、ちょっとカナタ下ろしてよ」
「なんだよ、お前が高い高いして欲しいって言ったじゃないか」
「そ、そうだけどっ」
「あんたらバカップルよね?」
「いや、軽いって証明を・・・。女の子ってみんなこんな軽いの?」
「し、知らないわよっ」
「カナタ、私って軽い?」
「いや、他の女の子がどうかなんて知らないぞ。女の子にこんな事したことないし」
「当たり前でしょっ。普通そんなことしないわよっ」
「ちょっとお前こいつを持ち上げてみてくれよ」
「な、何で俺がそんな事をしなきゃなんねーんだよっ」
「お前俺より力あんじゃん」
「力あるとか関係ねーだろっ」
「なら、俺がこいつを持ち上げて試してみるわ」
「えっ?えっ?えっ?。止めてよっ。わ、わ、私は重いんだから」
「な、何でカナタが他の女の子を持ち上げるのよっ」
「あ、こけたらあぶないか。ならおんぶでいいや。ちょっと乗ってみて。俺、レベル上がって力付いて来たような気がするんだよね。今のクロノもいつもより軽かったし」
酔ってるカナタはしゃがんで女の子におぶされと言う。女の子もさっきクロノがおんぶされると嬉しそうに話してるのを聞いてどんな感じか興味があった。
「の、乗ればいいの?私は重いと思うけど」
「だーいじょうぶ だーいじょうぶ。もしこけてもポーションあるから」
「な、何でカナタがこいつをおぶるんだよっ」
「ん?お前がやらないって言ったからじゃん」
「じゃ、俺もクロノをおぶるぞっ」
「それはダメ。クロノは俺のだから触んな」
「それならお前も触んなっ」
「ならお前がおぶってみてくれよ。軽いかどうか試したいんだよ」
「しっ、仕方がねぇなっ。ほれっ」
「お、重いとか言わないでよねっ」
「お前ぐらい片手でも持てるわっ。いいから早く乗れよっ」
女の子は赤くなりながらおぶさった。
「お、重くない?」
「お、お、重くなんかねぇ」
男の子は背中に男のロマンを感じて真っ赤になっていた。
「よし、競争しようぜ。クロノ、ほら乗れ。おんぶしてあそこまで競争だ。負けたらデコピンな」
「何でそんな事をしなきゃなんねーん・・」
「よーい、どんっ」
「あ、汚ったねえ。待ちやがれっ」
「きゃーーっ。ちょっとちょっとちょっとぉぉ」
「なんだあいつら?キャッキャうふふじゃねぇか」
「あんた、私らもやってみるかい?」
「馬鹿言ってんな。お前なんて重くて乗られたら潰れちまうわっ」
「言ったわねっ。本当に潰れるかどうか試してやるよっ」
「よせっ、馬鹿やめろっ」
叶多達がきゃーきゃー遊んでいるのを見て、あちこちの漁師夫婦たちが同じような会話をしていたのであった。