定食のご飯は大盛りで
「カナタは竜神祭に来たのか?」
「いや、魚食べに来たんだよ。お祭りはたまたまやってただけ」
「そうか。奥さん連れて出店の所に行くなら気を付けろよ。昨日事件があったらしくてな」
「事件?」
「あぁ、街のゴロツキ共の仲間がやられたらしくてな。やった奴を探してるらしい。あいつらタチ悪くてなぁ。可愛い娘とか見たら悪さしやがるから嫁さん危ねぇぞ。それだけべっぴんなら目を付けられてもおかしくないからな」
「忠告ありがとね。屋台は昨日堪能したから今日はやめとくよ」
「そっか。ならいいけどよ」
「父ちゃん、俺は夜連れてってくれんだよな?」
「あぁ。勿論だ」
家族でお祭りか。いいなぁ。うちはそういうのなかったからな。
昆布を取りに来るのは明日の昼過ぎと約束して、キルトを乗せて売店に戻る。
「まぁ、まぁ、すいませんでした」
「兄ちゃんすげぇんだよ。捨てる小魚売り物にしてくれたんだ」
「え?」
「鰯の小さい奴ですよ。商品化してくれた仕入れますから宜しくお願いします」
「あと、このお姉ちゃんは女神様なんだって」
「そうだよー!私は女神のクロノ」
「ふふふっ。本当に可愛らし奥さんですわね」
「お兄ちゃんも母ちゃんのこと美人だって父ちゃんに言ってたよ」
こら、ばらすな。
「あら、お恥ずかしいわ」
この奥さんとあの父ちゃんが同じ歳か。この世界の年齢はわからんな。
ここでサヨナラしてお婆さんの食堂へ。
「おや、また来てくれたのかい」
「うん、めっちゃおいしかったからね。煮魚も食べたかったんだよ」
「そうかね、なら煮魚定食にするかい?」
「ご飯大盛で!」
「お嬢ちゃんは?」
「イカの定食!」
そんなのメニューにねぇぞ
「ご飯はどうするかね?大盛にしとうか?」
「うんっ♪」
「うんうん、若い子はたくさん食べな」
イカ定食なんてしてくれるのか。
煮魚定食はキンメダイ。こってり煮付けでめちゃくちゃ旨い。ご飯大盛りで正解だ。
クロノのイカ定食はお刺身たくさん、イカフライ、煮イカ、イカの天ぷらだった。
これ、本当に銅貨10枚の定食か?
「おばあちゃん、これ量多くない?」
「せっかく外国から来たんじゃ。いっぱい食べて行きな」
やっぱりサービスなんだ。他の客の煮魚はキンメダイだけど、半身だ。そりゃあそうだよな。こんなに大きいキンメダイなんだから。悪いことしちゃったかも、と言いつつカナタはご飯をお代わりした。
「おばあちゃん、本当に銅貨10枚でいいの?」
「勿論じゃよ。また機会があったらきておくれ」
「絶対くるよ。今度冬になったら他の人も連れて来るから」
「そうかね、そうかね。待っとるでの」
「クロノ、ちょっと街に行くぞ」
「何しに?」
「現金が残り少ないから身分証から出したいんだよ。明日の昆布の支払いは現金だろうから」
とワープで繁華街へ。ギルドを探してお金を出してもらう。
ついでにどんな依頼があるか掲示板をみてみよう。
あ、これ。キルトの父ちゃんが言ってたゴロツキ集団のことか?
ギルドに討伐依頼が出てるってことは衛兵では対応出来ないってことか?
依頼内容はアジトの情報、出来れば殲滅か。
「あの依頼っていつから出てるの?」
「もうずっと前から出てますよ。下っ端は現行犯でちょこちょこ捕まるんですけど、情報は得られず、アジトがわからなくてイタチごっこなんです。この依頼受けてくれるんですか?」
「俺、Fランクのなんちゃってハンターだから無理だよ。今回ここに来てるのも旅行だし」
「この依頼ランク制限ないんですけど・・・」
「まぁ、何か情報入ったら報告ぐらいはするよ。ちなみに討伐証明は何になるの?」
「相手が死亡した場合は首です」
「え?首持ってくんの?」
「はい、死体そのものでも首だけでも結構です」
受付のおねーちゃんはそう平然と言ってのけた。ハンターってこういう世界なんだな。
金貨1枚と銀貨50枚を引き出した。これで明日の仕入れ足りるな。
まだ時間があるので他の依頼はどんなのか見ていく。
魔物討伐、護衛、警備、いなくなったペット探し、採取依頼、草むしり、ドブ掃除・・・
ハンターって何でもやるんだなぁ。ドブ掃除って・・・
「あ、ドブ掃除受けますか?」
「ハンターってこんな仕事するの?」
「ランクが低いうちはそういう仕事をしてポイント稼ぐ人もいますからね。後は社会貢献とか、そのまま使用人として雇ってもらったりとかで意外と需要あるんです」
なるほど、ハンターになりたくて登録する人ばかりじゃないってことだな。まぁ、俺達も身分証代わりに作ってもらったからな。
「カナタ、甘い物食べたい」
今さっきもりもり食ったとこだろが、と思いながらも街に出て店を探す。
「ここでいいか?」
入ったのは甘味所。
「何にする?」
「これとこれ」
おまんじゅうと抹茶か。
俺はアイスティーだけでいいや。
と注文したら、クロノの抹茶は本物の抹茶。こいつ作法とか知ってんのかな?俺も知らないけど。
クロノはまんじゅうを一口食べて抹茶を普通に飲む。そして嫌な顔をして俺のアイスティーと交換しやがった。
にっが・・・
こんなのだけ飲むのは嫌だな。まんじゅうを一口もらおうとしたらもうないじゃんかよっ。
「キャハハハっ。カナタの舌が緑色になってる」
「お前もだ」
そう言うと慌てて口を隠した。
食べ終わって外に出るとガラの悪そうなヤツラがウロウロしている。もしかして俺達を探してんのかな?それとも居なくなった仲間を探してんだろうか?もうちょっとプラプラしようかと思ったけどやめといた方がいいな。
「クロノ、ちょっとこっち来い」
と叶多はクロノを引き寄せて顔が見えないように抱き寄せる。
「ちょ、ちょっと。何すんのよっ」
「いいからこうしてろ」
と顔を隠したまま人目の少ない所に入った。
「こ、こんな所に連れ込んで何をする気なのよっ」
顔が真っ赤なクロノ。
「勘違いすんなっ。一緒の部屋で寝てんだろが。なんかするならとっくにしてるわっ」
と、叶多はワープゲートを出して移動した。