ど、ど、ど、どうしよう
はぁ、大丈夫かな俺?
ゲートの中の空間をテクテク歩きながら作戦を考える。ゲートの出口はさっきクロノが魔族の幹部を倒した場所に設定。上手く行けばあの幹部に神器が刺さったままだ。こっそりゲートから外の様子を伺って魔物が居ない隙を狙って拾ってくる。出口からはこの空間には入れなさそうだから、ここにいる限りは安全だ。
叶多は持久戦を覚悟しながら出口に向かって歩く。
ん?
なんか出口の赤い光が点滅したような気がした。
そしてじーっと見ているとまた点滅した。
分かりやすくしてくれてんのかな?
と思っているとだんだん点滅する速度が上がっていく。
ピコーン ピコーン ピコーン
これもしかしてカラータイマー的な?
はっ!だとするとヤバいんじゃ?
ピコーン ピコン ピコン ピコン ピコ ピコ・・・
ヤバいヤバいヤバいヤバい。
もし出口の魔法陣が消えてしまったら俺までこの空間に閉じ込められてしまう。クロノも天界に帰る事が出来ないから永遠にこのまま・・・
だーーーっ!時間制限あるなら有ると言えっーーーーーー!
叶多は慌てて全力ダッシュをする。
そしてピコピコ点滅を繰り返してすっと消えそうになった魔法陣に間一髪タッチ。
魔法陣は緑に変わった。
やっべぇぇ。危うく本当に閉じ込められる所だったわ。帰ったらクロノにチョップしてやる。
出口からそっと顔を出して外の様子を伺うと倒れた幹部の回りに魔物が集まってうろうろとしている。アイツが使役していた魔物だろうか?かなり強そうだ。これ、あそこから離れないんじゃね?
魔物はこちらに気付いて無さそうなので仕方がなくしばらく様子を見る事に。
ドスン、ドスン、ドスン
ん?
地響きがする方向を見ると幹部より更にでかく。そして恐ろしい姿をした奴が近付いて来るのが見えた。
ヤバッ!アイツが魔王なんじゃないか?
叶多は慌てて出口から顔を引っ込めた。
ガタガタ ガタガタ ガタガタ
アイツが放つ威圧感は見ただけで震えが止まらない。
無理無理無理無理っ。あんなの倒せっこない。さっさと神器を回収してクロノに勇者を探させねば。
そう思った叶多は意を決してもう一度顔を出す。すると魔王らしき者は倒れた幹部に向かっているようだ。
もしかして神器を回収するつもりなんじゃ?
ヤバい。あいつの手に渡る前に回収しなければっ。しかし、どうやって・・・
叶多は考える。ここから出てあの幹部に刺さった神器を回収してソッコーでゲートを開いて逃げる。それでミッションクリアだ。
落ち着け、落ち着け。こそっと外に出れば気付かれる事なく作戦は成功する。
そして、そっと出ようとした時に緑になっている出口の魔法陣が激しく点滅しだした。
ヤベッこいつにも時間制限あるのかよっ。叶多は想像した。もしかしたら顔だけ出しているときに魔法陣が消えたら首チョンパされるのでは無いかと。
「うわぁぁぁぁっ」
思わず声をあげて外に出てしまった叶多。
その声に気付いて魔物が一斉にこちらを向く。そして魔王らしきものが走っていき神器を掴んだのが見えた。
しまった!
「逃げろっーーー!」
叶多はクロノのいる場所を想像したままゲートを開いて飛び込んだ。
そして赤く光る魔法陣を目指して走るとしばらくして魔物達もゲートの中に雪崩れ込んで来る。
ヤバいヤバいヤバいヤバいっ
「いやぁぁぁぁぁぉ」
本日3回目の全力疾走。
魔物は俺より足が速い。絶対に追い付かれる。叶多は走った。今まで生きて来た中でこれ程全力で走った事はない。
しかし、魔物は迫り来る。
「お父さん!先に旅出つ不幸をお許し下さいっ。俺は訳のわからん亜空間で魔物に食われて死にますっ」
・・・
・・・・
・・・・・
「って、そんなのは嫌じゃぁぁぁっ」
人間は本来の力にリミッターをかけている。が、迫り来る死の恐怖に叶多のリミッターは解除された。
「うおぉぉぉぉぉっ」
叫び声をあげる叶多のスピードが上がり魔物からなんとか逃げ切れそうな時に出口の魔法陣にタッチする。
早くっ 早くっ!
ポン♪
緑に変わる僅かな時間がとてつもなく長く感じられた。
魔法陣が緑に変わった瞬間に魔物達が一斉に叶多へと襲い掛かったが間一髪で避ける叶多。
ドドドドドドっ
魔物達は勢い余ってどんどんと外に出ていく。
「ふぅ、助かった」
魔物達は叶多に目もくれずどんどんと外へ出ていく。
「きゃぁぁぁぁ」
「うわぁぁぁぁっ。いきなり魔物が街の中にぃぃぃぃぃっ」
ヤベッ!
「ハンターを集めろっ!スタンピードだぁっ」
「あわあわあわあわあわあわっ」
叶多は始まりの地にスタンピードを巻き起こしてしまった。どんどんと魔族領から入ってくる魔物達はそのまま街へと出ていく。
このまま俺がここにいるとまずいっ。
叶多は意を決して走ってくる魔物に股がり外へと出た。古い漫画で見た少年院でのワンシーンのように。
「うわぁぁぁぁっ!魔族まで現れたぞーーーっ」
「ええっーー魔族だって?どこ?どこっ?」
魔物に股がってキョロキョロすると、皆自分を見ている。
「え?俺?」
「魔族めっ。街中でスタンピードを起こしやがってぇぇぇぇ。殺れぇぇっ」
「違うっ!違う違う違うっ」
「ちょっとあんたっ!何やってんのよっ」
「クロノっ!違うんだこれはっ」
叫んだクロノに気付いた魔物は一斉にクロノを見た。そして叶多が股がる魔物もクロノに襲い掛かる。
「きゃぁぁぁぁっ。なんで私を襲うのよーーっ」
「知るかよっーーーーっ」
クロノは走って逃げ、それを追いかける魔物達を引き連れ街の外まで出た。
そこで叶多は魔物から飛び降りてゲートを開く。行き先は目に付いた小高い丘の上だ。
「クロノっ!こっちだ」
「きゃぁぁぁぁぁっ」
魔物に追われるクロノの手を掴んでゲートの中へ飛び込む。
出口は数十メートル先だ。
「カナタっ、ダメっもう走れないっ!」
「あーもうっ」
叶多はクロノを抱き上げて走る。
クロノは思ったよりだいぶ軽い。
魔物に追い付かれる寸前で魔法陣をくぐって外にでると魔物も飛び出そうとした。
その時にフッと魔法陣が消え、魔物は首チョンパされた。
テレレレッレッレー♪
「ひっ」
目の前に魔物の首が落ちてビビった叶多その効果音に気付かない。
「ふぇー、助かったぁ」
魔物の首が動かない事を確認した叶多は安堵のため息を付く。
「いつまで触ってんのよっ」
そう言われてはっとする。クロノを抱き上げたままだったのだ。
「だっ、誰が触ってるかっ。お前が走れないって言うからだろっ」
べしっ
叶多はクロノを降ろしてチョップしておいた。
「痛ったぁっ!何すんのよっ」
「お前のせいで死にかけたんだからなっちょっとは反省しやがれっ」
ぎゃーぎゃーわめくクロノにチョップの姿勢を取るとようやく黙った。
「で、神器は?」
「魔王みたいな奴が持って行っちまったよ」
「ど、ど、ど、どうすんのよっ」
「知るかよっ」
「あんたが魔王を倒して来なさいよーーーーっ」
べしっ
「あほかーーっ。無理に決まってんだろうがっ!誰かに勇者スキルを付けて頼めっ。俺は自分まで亜空間に閉じ込めてしまうような転移スキルしかねぇんだぞっ。戦闘能力なんてあるわけねぇだろうがっ」
「じゃああんたにスキル付けるから倒して来なさいよね」
「なんで俺なんだよっ!この世界に剣とか魔法使える奴いるんじゃねーのかよ。そいつらに頼めっ。運ぶぐらいはやってやるから」
「嫌よっ!そんなことしたらこの世界で女神から愛されてるとか勘違いしたらどうすんのよっ」
「勘違いされても、『何勘違いしてんのよ、人間ごときがぷーくすくす』とか言えば済む話だろっ」
「うわっ、あんた最っ低。よくそんなことを思い付くわね。引くわー」
「お前が勇者に似たようなことをしたんだろうがっ」
叶多は怒りで頭が破裂しそうだ。
ひっひっふー
ひっひっふー
こんな事をしている場合ではない。さっさと用件を済まして元の世界に帰して貰わねば。
「さっきの街に戻してやるからさっさと誰かにスキルを与えて終わらせろっ」
「えいっ」
クロノは叶多の胸を叩いた。
「は?おい、お前、今何やった?」
「もう面倒だからあんたに勇者スキルを付けたわよ。さっさと倒して来なさいよね」
「はーーーーっ? 何しちゃってくれてんだテメーーっ!」
「ふふん、これであんたが勇者よ。とっとと魔王を倒して来なさいよね。私の下僕なんだから褒美も要らないわよねっ」
「頼まれても誰がお前なんかと付き合うかーーっ。俺はもっと優しくておしとやかな子がタイプなんだっ。お前みたいなクソ女なんか大っ嫌いなんだよっ」
「あんた私を抱き上げた時にドキドキしてたじゃないっ」
「あれは走ってドキドキしてんだよっ!お前こそ照れて真っ赤な顔してたじゃねーかっ。なんですか?神の癖に人間ごときにドキドキしたんですか?ウブなんですか?」
小馬鹿にしたように焚き付ける叶多。
「キーーーッ!誰があんたなんかにドキドキするのよっ。あれは走ってきて顔が火照ってただけよっ」
真っ赤になって怒るクロノ。
そのままぎゃーぎゃー言い合う二人。
「クソっ、こんな事をしてる間に日か暮れてしまうわっ」
「だったらさっさと行きなさいよ」
「勇者ってもなぁ、剣も魔法も使った事ねぇんだぞ。まともに戦える訳ねーだろうがっ」
「大丈夫、大丈夫。自分のステータス開いて、それを選べば使えるようになるんだから」
「ステータス?」
「そうよ、早く開きなさいよ」
「どうやるんだよ?」
「ステータスオープンって唱えるのよ」
「ステータスオープンっ」
フォン
おっ、目の前にステータスが出てきた。
【名前】カナタ
【年齢】永遠の17歳
【スキル】ワープ
【レベル】12
【称号】間違われた人
「おいっ、勇者スキルとかどこを見れば出てくんだよ?」
「ちゃんと出てるでしょっ」
「どこだよっ」
「だからどこだよっ」
「もー、ステータスぐらいちゃんと自分で見なさいよねっ。ほらここに・・・」
近い近い近いっ
叶多の顔のすぐそばに顔を近付けてステータスを見るクロノ。
そして叶多の方を向いて、
「ど、ど、どうしようっ」
クロノはサーーーッと青ざめたのであった。