もしかして・・・
「クロノっ! クロノっ!」
ちっ、あいつどこ行ったんだよっ。拐われたりしてないだろうなっ。
「クロノーーっ!」
「嬢ちゃん可愛いからおまけだ。ほら、銅貨5枚だよ」
モグモグ モグモグ
「お金はカナタが持ってるから」
「で、カナタってのはどいつだ?」
「あっちに・・・あれ?」
「おいおい、嬢ちゃん。可愛いからって金は払わないとダメなだぜ」
「私持ってないもん」
「ったく、カナタってのは本当にいるのか?」
「いるわよっ。カナターっ! カナタ!ーっ!」
ますます増えた人で叶多もクロノを見付けられず、クロノも叶多を見付けられなかった。
「嬢ちゃん、食い逃げは犯罪だぜ。どうすんだ?」
「カナターっ!カナターっ! もうっ、どこ行ったの?」
ぐすぐすっと半泣きになっていくクロノ。
この人混みだと見つけられんな。
叶多は屋台の後ろの茂みに入り、クロノを指定してワープした。
「クロノっ」
にゅるんといきなり現れる叶多。
「カナタっ。もうっどこ行ってたのよっ」
半べそをかいてるクロノ。
「お前が勝手にどっか行ったんだろっ」
ぐすっ ぐすっ
「お前は迷子の子供かっ」
「おい、あんちゃん。あんたがカナタか?」
「そうだよっ。クロノを泣かしたのはお前かっ?」
「ひっ、人聞きの悪いことを言うなっ。その嬢ちゃんが金払わずに串肉食ったんだよっ」
クロノを見ると両手に串肉を持って、片方は半分食っている。これ悪いのはコイツだな。
「すまん、俺の早とちりだ。串肉はいくら?」
「銅貨5枚だ」
はいと銅貨10枚を渡す。
「1本はサービスした奴だから5枚でいい」
「いや、疑った俺が悪かった。ちゃんと2本分払うよ」
「あんちゃん、ちゃんと彼女捕まえとけよ」
「悪かったね」
「お前なぁ。勝手にどっか行くなよっ」
「カナタがどっかに行ったんでしょっ」
「お前が浴衣がどこで売ってるか聞いて来いと言ったんだろうがっ」
「で、どこに売ってんの?」
モグモグ モグモグ
こいつ・・・
「聞いてる最中におまえがいなくなったんだろうがっ」
「しょ、しょうがないじゃないっ。いい匂いがする店から一本どうだいって声かけられたんだからっ」
「勝手にどっかに行くなって言ってんだっ。心配するだろうがっ」
「私がいないと心配?」
「当たり前だっ」
「んふふふふ♪」
何笑ってんだよコイツ・・・
「もう、俺から離れんなよっ」
「うん♪」
クロノはそう返事したあと腕を組んできた。ドキドキするからやめて欲しい。
で、店があるとしたらこの坂の下かな?
腕を組まれた叶多はギクシャクしながら坂道を下っていく。だが、見たことがない屋台を発見するとパッと腕を離してクロノが屋体に吸い込まれて行く。
コイツには鈴でも付けておいた方がいいかもしれん。
何軒も屋台をハシゴしてようやく下まで到着。ゴミ箱に串やら包み紙を捨てて、クロノの口の周りを拭いてやる。本当に子供の面倒を見ているようだ
お土産屋に入って浴衣を売っている所を聞くと、観光客向けにレンタルと販売をしている店を教えてくれた。
「レンタルとご購入どちらになさいますか?」
またここに返しにくるのも面倒なので購入することに。値段を見るとあまり差が無いのだ。
「ねーねー、これどっちがいい?」
服屋アゲイン。もうどっちも買えとは言わない。お祭りの為の浴衣なんて何着もいらないのだ。
違いがよく解らんが、早く決めて欲しいからこっちにしておこう。
「じゃあ、こっち」
「えーー?」
何だよそれ?
「お前がどっちがいいか聞いて来たんだろがっ」
「だって、こっちの方が可愛くない?」
「じゃあ、そっちにしろよ」
「えーー?」
もう訳が解らん・・・
「店員さん、どれがいいか決めてやってくれない?このままだとずっと決まらないから」
「ふふっ、いいですよ」
お客様にはこういうのがと店員さんがクロノに勧めてくれたのでホッとする。
ぼーっと待っていると、髪の毛のセット、髪飾り、帯、草履とか全部仕上げてくれたようだ。クロノのアップした髪とお化粧した姿を初めて見る。
ドキッ
「ど、どお?」
「い、いいんじゃないかな」
叶多は照れてしまった。さっき鈴を付けてやろうかと思ったクロノと雰囲気がずいぶんと違うのだ。浴衣マジックってやつだ。
「合計で銀貨12枚でございます」
え?
どうやらレンタル品はこういうのが全部セットになった値段。購入は浴衣単体の値段だったようで、セットにすると予想をはるかに上回る金額だった。
ハンター証で支払うと、ありがとうございました旦那様と言われた。まぁ、指輪もしてるしな。
で、外に出るとクロノは上機嫌で腕を組んでくる。
「ねーねー、カナタ。あれ食べよっ」
「絶対、浴衣にこぼすからダメだ。さっき洗い方聞いたけど、面倒臭いんだよ、それ洗うの」
「ケチッ」
「ケチと違うわっ」
「ぶーっ」
また腕を離して屋台に吸い込まれて行くので叶多は手をクロノの手を握った。これでどっかに行くまい。
「カナタ?」
「こうしてないとお前はすぐにどっかに行くだろ?」
「私と手を繋ぎたいの?」
えっ?
かーーーっと赤くなる叶多。
よく考えると浴衣の女の子とお祭りで手を繋ぐなんてデートそのものじゃないか。
「ちっ 違うっ。こうしてないとお前がどっか行くからだっ」
「んふふふふ♪」
恥ずかしいけど、こうしてないとまた見失うからな。
ふん♪ ふん♪とご機嫌なクロノの手は女の子らしく柔らかった。
「お前、本当に晩御飯食べられるのか?多分豪華な食事だぞ?」
「食べても食べなくても平気だがら大丈夫」
そういうものなのか?そういやギルドの宿舎で2週間ぐらい何にも食ってなかったみたいだしな。
つい、普通の女の子と勘違いしそうになるけど、こいつやっぱり人間と違うんだよな。
「ねっ、カナタっ!あれ食べよっ」
嬉しそうに手を引っ張って屋台へと行こうとするクロノ。ま、いっか。
買わされたのはかき氷だ。
「絶対に離れんなよ」
手を繋いだままでは食べられないので人混みを避けて道の端へ寄って立ち止まって食べさせる。人混みだと絶対誰かにぶちまけるからな。
「んー んー」
「どうした?」
「頭がキーンってするっ」
「いっぺんに頬張って食うからだっ。お腹痛くなっても知らんぞ」
といってもクロノがトイレに行ったのを見たことがない。いくらでも食べられて、何も食べなくても大丈夫。そしてトイレに行く必要も無いんだろうな。それって便利だな。
ドンっ
「キャアっ!」
クロノが誰かにぶつかられてかき氷を浴衣にぶちまけた。
「ちょっとぉっ!何すんのよっ」
「そっちがぶつかってきたんだろ?」
そう言った男はタチの悪そうなやつらだ。3人組か。どうして祭りにはこういうやつらが寄ってくるんだ?
「ぶつかって来た詫びにちょっと付き合えや」
「触んなっ」
「はあ?なんだこのひょろっこい男は?こいつのツレか?ならこの詫びどうしてくれんだ?」
「コイツはここで立ち止まってたんだよっ。どうやってお前にぶつかりにいくんだ。お前が詫びろっ」
「お前、女の前だからってカッコつけてたら痛い目に合うぞコラッ」
「コイツは俺の嫁さんだ。お前がコイツに手を出すなら俺に殺されても文句は言えんぞ」
「あーっはっはっは。お前みたいなヤツがどうやって俺達を殺すって言うんだよ?やってみろよっ」
「お前ら亜空間に捨てるぞ」
「なんだそれ?もっとましなセリフ吐けよっ。おらっ、こっちへ来いっ」
「キャアッ」
クロノの手を強引に引っ張る男。
ブチッ
叶多は切れた。
「触んなって言っただろうがっ」
叶多は男達の後ろにワープゲートを出してまず一人目をそこに蹴り込んだ。
一瞬にして消える男。
「何しやがったんだてめぇっ」
そう叫ぶ男も蹴り込む。二人目が消える。
クロノの手を掴んだ男が剣を抜く。
キャアっと周りの人が声を上げた。
「ぶっ殺してやるっ」
剣を振り上げた男の腹を蹴ると身体半分がゲートに入った。まるで身体が半分無くなったように見える。
「くそッ」
そう叫ぶ男はゲートから出ようとするが、身体の一部でも中に入るともう出て来れないみたいだ。これは初めて知った事実。ゲートの魔法陣も他の人には見えてないらしい。
「てめえッなにしやがった」
「亜空間に放り込むと言っただろ?そのまま出ようとしても無駄だ。ずっとそうしてるとゲートが閉じて身体が真っ二つになるぞ」
「ヒッ」
「中にそのまま入れよ。そしたら助かるかもな。亜空間に閉じ込められた後はどうなるかは俺も知らん」
「た、助けてくれっ」
「知るかっ。クロノを怖がらせたバチだ」
泣き叫ぶ男を叶多は蹴り込んだ。
ざわざわ ざわざわ。
タチの悪そうな男がいきなり3人ともこの場から消えて騒がしくなる人々。魔法か?とか聞こえて来る。
この場を立ち去りたいけど、誰かがゲートに入ったら巻き込んでしまうのでこの場で止まるしかない。
「クロノ、怖い思いさせごめんな」
叶多はハンカチでかき氷でべしょべしょになったクロノの胸元を拭いてやる。
むにょん
「ご、ごめんっ。そんなつもりじゃっ」
叶多の手に伝わる柔らかい感触。濡れた浴衣を拭くつもりがお触りをしてしまったのだ。
ぐずっ ぐすっ
「ご、ごめんってば」
「カナターっ。怖かったぁ」
クロノはジェイソンに襲われたことを思い出したようで泣き出してしまった。
何だ何だと余計に騒がしくなる。早く立ち去りたいかがゲートが開きっぱなしだ。
「クロノ、このゲートはすぐに消せないのか?」
「ヒック、ヒック。カナタがまだ入ってないからキャンセル出来る」
そうなのか。ならば・・・
「キャンセル」
クロノの推測では亜空間に閉じ込められても元いた場所に飛ぶだけらしいから、あいつらもこれでどっか行くだろ。
テレレレッレッレー♪
ん?なんだこの頭に響くファンファーレは?
聞き覚えのあるファンファーレ。ひょっとして?
自分のステータスを見る。
【レベル】13
やっぱりレベルアップのファンファーレか。これってもしかして・・・
「クロノ、ここから離れるぞ」
と手を引くとクロノがヒョコヒョコしか歩けない。
「ちょっと足見せろ」
クロノの足が鼻緒で擦りむけていた。おぶってやろうにも浴衣だと足を開けないので抱き上げてその場を去ったのであった。