なんて事をしてくれたんだお前は
「お前っ!何勝手に異世界に連れて来てきてくれやがんだっ」
「すぐに終わるわよっ。ぐちゃぐちゃ言いなさんな。男の癖にっ。すぐに終わるわよっ」
はーーーーーっ?
なんて自分勝手な奴なんだ。神ってみんなこんなのか?
「本当にすぐに終わるんだろな?」
「もう、魔王なんてワンパンよ、ワンパン」
なんだよ、ワンパンで死ぬ魔王って。
「で、俺は何をすればいいんだ?」
「あんたには転移スキルを付けてあるから、ワープゲートを開いて始まりの地にある天界への入り口に私を連れて帰ってくれればいいのよ」
「お前、時と空間を司る神なんだろ?それぐらい自分で出来るだろが」
「あんた馬鹿なの?実体化したらそんな力が使える訳ないじゃない。あんた馬鹿なの?ねぇ馬鹿なの?」
ムカッ
「そんなマイナールールなんて知る訳ないだろが。で、勇者と賢者を召喚して魔王討伐目前なんだろ?その見物か?」
ここはすでに魔族領らしく、天界からいきなりここに連れてこられたのだ。
「マップって唱えて」
「何でだよ?」
「いいから早くっ」
チッ
「マップ」
ブオン
「うわっ、目の前に地図がっ」
「この矢印が私達。今居るところね。で、この赤い点が魔王。二つの青の点が勇者。ここに行って、私が魔王に止めを刺したら、ここの始まりの地に戻ってちょーだい」
「は?止め?なんで?」
女神のクロノが自ら止めを刺すという。何かその必要があるのかと思ったら、勇者の二人には魔王に止めを刺した方にご褒美として付き合う約束をしたらしい。だが、二人ともちょーナルシストで絶対付き合うのは嫌で、自分が止めを刺して約束を反古にするつもりの様だ。
「お前、クソ女にも程があるぞ。命懸けで戦った勇者の手柄を横取りするとか神のすることじゃねーだろ?」
「仕方がないじゃない。そもそもたかが人間の分際で女神と付き合おうとかどの口が言ってんのってかんじ?でも嘘は良くないしー」
彼方の奴、こんなのに憧れてんのか・・・
叶多はクロノを白い目で見ながら、元の世界に戻ったら友人の彼方に現実を教えてやろうと思った。
「で、転移ってどうすんだ?」
「行きたい場所を想像するか、地図で場所を指定してワープって唱えるのよ」
そう言われたので、地図で勇者達の近くに設定しワープと唱えた。
ブオン
目の前に魔法陣が浮かび上がる。
「それが入り口よ。中に入って」
言われた通りに入ると中は何も無い部屋というか空間だ。
「どうやってワープするんだ?」
「あっ、あっちよ」
少し離れた所に赤く光る魔法陣が見える。
そこまで行ってみる。
「この魔法陣に触って」
「こうか?」
ポンっ♪
軽い電子音のような音が鳴って魔法陣が赤から緑に変わった。
「これで出口が開いたの。で、注意点はあんたが最後に出る事。あんたが先に出るとゲートが閉じちゃうから」
「俺が先に出て魔法陣が閉まったら中にいる人はどうなるんだ?」
「さぁ?」
さぁ?ってこいつ・・・
「お前、この転移スキル危な過ぎるだろが。もしこの空間に誰か・・・」
「きゃーーっ!もう倒されちゃうかもっ」
こいつ人の話なんか聞いちゃいねー。まぁ、勇者がこいつと付き合おうが約束を反古にしようか知ったこっちゃねー。とっとと終わらせて早く帰してもらおう。
二人で出口から顔を出して覗いて見ると勇者達と魔王らしき者が戦っているのが見える。
あれが魔王?怖ぇぇぇっ。ゲームとかで見たような奴を現実で見たらあんなに恐ろしのか。あれに戦いを挑める勇者達ってすげぇな。
隣ではクロノがまだ俺と並んで顔だけ出して覗いている。
「おい、まだかよっ?」
クソ女神とはいえ、こうして顔が近くにあると緊張する。時野叶多は女の子に免疫がなかったのだ。
「もう少しよっ」
「死ねぇぇぇぇぇっ」
スババババババッンっ
剣士の方の勇者が魔王らしき者に会心の一撃を食らわす。
「やったか?」
「まだよっ」
今度は賢者の勇者だ。
「我が魔力を女神に捧ぐ、神の力を纏いて悪しき者打ち砕けっ!食らえっ!ゴッドランスッ」
ザスッ
天から巨大な槍が魔王らしき者を貫く。
「やばっ!ゴッドランスなんて使うんじゃないわよっ!もう魔王が死んじゃうじゃないっ」
そう叫んだクロノはゲートから飛び出して死にかけの魔王に向かって走って行った。
「食らえっ!聖なる針よっ」
クロノは聖なる針という剣の形をした時計の針のような者を魔王らしき者に投げた。
パスンっ
「ぐぉぉぉぉっ」
ドスン。
「きゃーーっ!やったぁぁっ!止めを刺したのは私だから二人ともご褒美なしねっ」
「えっ?女神クロノ・・・」
「クロノ様・・」
止めを刺したのは自分だからご褒美は無しと言ったクロノに呆気にとられる勇者の二人。
唖然とする勇者達を見て勝ち誇ったかのようにキャーハッハッハと高笑いするクロノ。
こいつほんとにクソ女だな・・・
「女神クロノ・・・」
「クロノ様・・・」
「何よ?ご褒美は魔王に止めを刺した方にあげるって約束だったでしょ?止めを刺したのは私だから二人にはご褒美は無ーしっ!どゆあんだすたん?」
「な、何を言ってるんですか?」
「何回も言わせないでっ。魔王に止めを刺したのは私なんだからっ」
「いや、あれは幹部であって魔王ではない・・・」
「へ?」
何ですと?
「ヤバいっ!次が来るぞっ!」
ドドドドドっと地響きと共に魔族の軍団が四方八方から現れた。
「クロノ様っ!下がってっ」
「きゃーーーっ!カナタっ!ワープっ ワープっ」
ええええええー?
魔族が使役する魔物達は一直線にクロノを目掛けて走ってくる。
ヤバいヤバいヤバいっ。巻き込まれる。
カナタは慌てて始まりの地を指定して入り口を開き、ゲートの中に入る。
「きゃぁぁぁぁぁっ」
魔族に追い付かれそうなクロノも飛び込んで来た。
「馬鹿っ、お前は勇者に守って貰えよっ」
「うるさいわねっ!さっさと出口を開けなさいよっ」
「うわっ!魔物まで付いて来た。いやぁぁぁぁぁぉ」
カナタは赤く光る出口に向かって懸命に走る。魔族領と始まりの地はかなり離れている。この転移スキルは移動距離が長いと空間も比例して出口が遠くなるようだ。推測距離約1キロメートル。
「女神クロノっ」
「クロノ様っ」
勇者二人は魔物に追われたクロノを助けようと魔物達を追ってゲートの中に入ってきてバンバンやっつけていく。
カナタはキャーキャー逃げるクロノを勇者達に任せて出口に向けて走る。
ハァッハァッハァッハァッっ。
こんなに全力疾走をするのは中学の部活以来だ。息が続かないが魔物に追い付かれたら死んでしまう。勇者達はクロノは庇うだろうけど、見ず知らずの俺を助けるとは思えない。それに出口を開けなければ。
走るのも久しぶりだから横っ腹が痛いし酸欠で気を失いそうだ。
ハァッハァッハァッハァッ
やっと出口の魔法陣だ。バンっと触って魔法陣を緑に変えた。出口を出ようとしてハッと止まる。自分が先に出たらクソ女神と勇者達をこの空間に閉じ込めてしまう。
「きゃーーーっ!」
クロノもよたよたと走って来た。
「クロノっ!早く来いっ。勇者達も早くここから出ろっ」
「うぉぉぉぉぉっ。女神クロノは俺が守るっ」
「クロノ様は私がっ」
勇者達は魔物を倒しながらこちらへと走って来る。
「もう少しだクロノ、走れっ」
「きゃーーーっ!」
コケッ
え?
ドンっ
ふらついた女神クロノは足がもつれ出口で待つカナタを突き飛ばしてしまった。
カナタの身体が出口から出ようとする。
その瞬間、クロノの悲壮な顔が目に入った。
クソっ
カナタは片足で踏ん張り何とか耐えようと頑張る。そして手をクロノに伸ばして間一髪クロノの手を掴んで自分に抱き寄せた。
ごろんごろんごろんごろん
カナタとクロノは抱き合ったままゲートの外へ。
フッ
そしてゲートの出口は塞がってしまった。
「あっ・・・・・」
「ふーっ、危なかったわねぇ」
「馬鹿っ!勇者達がまだゲートの中にっ」
「えっ?」
サーーーッと青ざめる二人。
「ちょっとーーーっ!あんたなんて事をしてくれんのよーーーっ」
「お前がこけて俺を押し出したんだろうがっ!あの二人どうなったんだよっ」
「知らないわよっそんなことっ」
「お前が俺に付けたスキルだろうがっ!何で知らないんだよっ。なんとかしろよっ」
「あの空間がどうなってるかなんて知ってる訳ないじゃないのーーーっ」
「いいから探せっ!お前は時と空間を司る神なんだろっ。勝手に召喚しておいて亜空間に捨てるなんて酷過ぎるだろうがっ。ここで能力使えないなら自分の世界に戻って探してやれっ」
「はっ、そ、そうね。じゃあ1回戻るわよっ」
「ったく、さっさとしろ」
二人はお前のせいだ、あんたのせいよっとギャンギャン言い合いをしながら天界への入り口へと進んだ。
「ほらさっさとしろ」
「うっるさいわねっ。あんたはオカン?オカンなのっ?」
女神がオカンとか言うな。
「あれ?あれ? 無いっ!無いっ」
「ほら、早くしろよ」
「私の神器が無いのよっ!あれが無いと天界への門が開かないのよっ」
「なんだよ神器って?」
「剣の形をした針よっ!」
「は?お前、それ、魔族の幹部を倒すのに投げたじゃねーか」
サーーーッ
更に青ざめるクロノ。
「取っ来てっ!取って来てよーーーっ」
「はぁ?何言ってんだおめーはっ。あんな魔物だらけの所に取りに行ける訳ねーだろうがっ」
「あれが無いと帰れないでしょーーーっ!取って来なさいよーーーーっ」
叶多の首を絞めて揺さぶるクロノ。
「だーーーっ!」
べしっ
「痛ったぁぁぁっ!なんでデコピンすんのよっ」
「お前が首を絞めるからだろうがっ。そもそも俺はあそこからここまで連れて帰ってくるだけの仕事だろうがっ。もう役目は終わっただろうがっ。早く帰してくれ」
「帰れないわよっ」
「は?」
「あんたもここから帰れないんだからねっ」
なんですと?
「ちっ。じゃあ取ってきてやるからここで待ってろ」
「さっさと取って来なさいよね」
こいつ・・・
こうして叶多は勇者達を亜空間に捨ててしまったまま、再び魔族領に行くはめになってしまったのであった。