商人として活躍
カナタが風呂から出ても部屋から出てこないクロノ。
カナタは残ったご飯をおにぎりにして唐揚げと共に布をかけて置いておき、そして部屋を出た。
クロノの機嫌が直って、寝室が別なら同居でもいいとクロノが言うならここで寝ようと思っていたが、口すらまともにきかないので宿に泊まる事にしたのだ。
魔物とか賊とか呼び寄せるんじゃないかと心配したが、何事も無さそうだし、クロノのハンター証には金貨2枚のお金が入っている。まぁ、なんとかなるだろう。そして受付にシンシア宛の手紙を残してきた。しばらく帰らないけど心配しないでと。
叶多は買い出しの途中で見付けておいた素泊まり銅貨20枚の宿に泊まる。部屋にはベッドしか無いけど寝るだけだから十分だ。昨日もほとんど寝られてなかったので爆睡した叶多なのであった。
翌朝からドワーフの国へ行き、昨日の酒屋へ。
「お?また買いに来たのか?」
「そう。昨日の酒がすごく喜んで貰えてね。また仕入れに来たんだ」
「仕入れ?」
「そう。ドワーフの火酒が欲しいという人たくさんいるんだよ」
「なんじゃお前商売人か?」
「昨日登録したばっかりだけどね。あ、あんまりたくさん買うと迷惑だった?」
「いや、なんぼでもあるから構わんが。商人でまとめ買いするなら早く言え。少しまけてやる」
「えっ、いいの?」
「あぁ、100本ぐらいまとめて買うか?」
「いや、まだ駆け出しだから仕入れのお金がそんなにないし、カバンに入るだけしか持てないから10本が限界だよ」
「ちっ、荷車も持ってねぇのか?」
「持ってないし、あれもけっこう重いだろ。こけたりしたらせっかくの酒が割れちゃうじゃん」
「なら、ワシの荷車を貸してやる。どこに売りにいくんじゃ?昨日の今日ならこの国じゃろ?」
「いや、昨日のはゴーレンのハンターギルドに卸したよ」
「は?ゴーレンじゃと?」
「そう」
「お前まさか転移魔法の使い手か?」
「似てるけどちょっと違うよ。まぁ、近道出来るってやつかな」
「どこにでも行けるのか?」
「多分」
「なら、ベーリカという国でトウモロコシって奴を仕入れて来てくれんか?」
「どれぐらい?」
「取りあえずこの荷車いっぱいじゃ」
「そんなの重たくて引けないよ」
「こいつは魔道具の荷車じゃから大丈夫じゃ」
「魔道具?」
「そうじゃ。人の力でもこれに満タン積んでも動かせるぞ。気に入ったら店を紹介してやる。ワシの紹介なら安くしてくれるぞ」
「ここに満タン仕入れるって仕入値どれくらい?俺、銀貨5枚しか持って無いんだけど」
「はぁ?貴様そんな持ち金でよく商売人になったな」
「まぁ、細々と稼ごうかと」
「店を持つのか?」
「いや、最強の護衛を雇う金を貯めたいんだよ」
「転移出来るなら護衛なんぞいらんだろ?」
「いや、ちょっと強い敵に宝物を奪われてね。それを取り返さないとダメなんだよ。少し隙を作ってくれたらなんとなりそうだから、その資金集め」
「ほう、盗賊かなんか?」
「いや、魔王なんだけどね」
「ブッ なんじゃ冗談か。商売人は口も上手いの。すっかり騙されるとこじゃったわガーハッハッハ」
いや本当なんだけど・・・
「まぁ、ええわい。ほれこいつで買えるだけ買ってきてくれ。報酬は火酒100本じゃ」
「え?昨日会ったばかりなのに仕入れ代金なんて預けちゃダメだよ。それにこれ金貨じゃん」
「お前さん、人を騙せるタイプじゃないじゃろ?」
「いや、いま魔王の話で笑ったじゃん」
「坊主、ドワーフは人を見る目は確かなんじゃ。職人の目って奴でな。それにお前はワシに怒鳴られても驚きも怖がりもせんかったじゃろ。そういう奴は自分に自信があるか、詐欺師かどちらかじゃ」
「詐欺師だったらどうすんだよ?」
「まぁ、職人の目が鈍ったという事で廃業じゃ」
そんな重責負わさないで・・・
「じゃ、預かっておくよ。今日か明日には仕入れてくるから。もしそれ以上掛かりそうなら戻って来てくれて報告するね」
「おう、気を付けて行けよっ」
マップでベーリカを指定して移動。借りた荷馬車はめちゃくちゃ軽い。自分で引いてるような気がしない。いいなぁ、これ。いくらぐらいするんだろ?これあったら運び放題じゃん。
ベーリカに到着すると穀倉地帯か広がる。ここ、小麦粉とか色々安そうだよな。
田舎街に入り、店を探す。
「すいませーん。トウモロコシの買付をしたいんだけど、ここって取り扱いあります?」
「どれぐらい必要なんだ?」
「金貨1枚分」
「そんなに買うのか?」
「そういう注文受けて来たんだよ。この荷車いっぱいになるかな?」
「その4~5台ぐらいになるぞ」
「じゃ、分けて運ぶから乗せるの手伝ってくれる?」
「おう、野郎共、積込だっ」
と、作業員がわらわらと出て来て荷車に山積みされていく。
「おい、あんちゃん、そんなひょろっこい身体で荷車引けるのか?」
「さぁ?」
と、あやふやな返事をして荷車を引くと簡単に動いた。
「すぐに戻って来るから待っててね」
と、ワープゲートを出して消えていく。初めは隠そうかと思ったけど、ここには何回も仕入れに来ることになりそうだがら最初からばらす事にした。
ドワーフの国の酒屋の前にいきなり出る。そのうち俺がワープ出来る事が知れわたるだろうけどもういいや。
「持って来たよー」
「もう、持ってきやがったのか」
「あと3回分あるから荷下ろし手伝って」
こちらもドワーフの職人達がわらわら出て来て荷下ろしをしてくれた。それを残り3回続ける。ベーリカの人達には小麦粉とか色々な穀物の値段を聞くとかなり安い事が判明。エスタートより安いのだ。バターや牛乳、生クリーム、チーズ、肉類も安い。次からここに仕入れに来よう。トウモロコシを販売してくれた人達がそれぞれ生産者を紹介してくれたので、仕入代金が貯まったらまた来ると約束する。
「あのトウモロコシはどこに卸したんだ?」
「ドワーフの国だよ」
「って事はこの荷車もドワーフの魔道具か?」
「借り物だけどね」
「これいくらだ?」
「値段聞いて来るよ」
「あと、火酒は手に入るか?」
「大丈夫だよ。1本銀貨1枚とかだけど」
「おぉー、銀貨1枚で手に入るのか。そいつを仕入れて来てくれんか?」
「いいよ。100本仕入れる事になってるから」
「よっしゃ、欲しい奴に声掛けとくわ。次はいつ来る?」
「明日には持って来れるよ」
「わかった。お前、明日宴会するから泊まってけ。いいなっ」
「え?泊めてくれんの?」
「ん?宿無しか?」
「まぁね」
「じゃあ、空き家をやるから好きに使ってくれ。で、ここの物を売りさばいてくれよ」
「わぁ、それ助かるよ」
という事で叶多はベーリカの一軒家をゲットした。
ドワーフの国に最後のトウモロコシを届けて今日の仕事は終わり。
「カナタ、ご苦労だったな。想定してた1/4の値段で仕入れられたぞ」
「それは良かったね。向こうもたくさん買ってくれたと喜んでくれてたよ」
「そうか、そいつは良かった。報酬の火酒100本は売れそうか?」
「明日もこの荷車貸してくれる?ベーリカで全部売れるかもしれないから、向こうに全部持っていこうかと思ってるんだよ」
「ほう、そんなに一気に売れるのか?」
「火酒って人気あるんだね。欲しい人に声かけてくれるみたいだよ」
「なら、樽でも売れそうか?」
「樽にはどれぐらい入ってるの?」
「だいたい瓶で30本じゃな。おそらく31~32本は入っとる。樽ままなら瓶代もいらんし、半額でいいぞ」
「じゃあ、酒屋とかで聞いてみるよ」
「今日はどうするんじゃ?」
「どっか宿探して寝るだけだよ」
「ほう、じゃ、うちに泊まれ。まだ売るばっかりで自分で飲んでおらんじゃろ?しこたま飲ませてやる」
「いや、俺酒はほとんど飲んだことは・・・」
「ガーハッハッハ。遠慮せんでええ。酒はドワーフにとっちゃ水みたいなもんじゃからの」
と、叶多は酒屋のドワーフの親父に無理矢理連れて行かれたのであった。
ーエスタートギルドー
夜になってようやく部屋から出てきたクロノ。
「カナタは?」
「あ、女神様。カナタさんはしばらく戻らないって手紙に書いてありましたよ」
「えっ?」
「女神様が自分といるの嫌そうだからって」
「なっ、何よそれっ。私そんなこと一言も言ってないじゃないっ」
「でも、昨日の晩御飯の時も女神様怒って部屋にこもって出てこなかったじゃないですか。せっかくカナタさんがご飯作ってくれたのに」
「そ、それはあんたがっ」
「カナタさんにお邪魔ですか?って聞いたら、気にすんなって言ってくれましたよ。勝手に拗ねてたの女神様じゃないですか?」
「う、うるさいっ。拗ねてなんかないわよっ」
そう叫んだクロノは走って行ってしまった。
「おい、シンシア。女神様を挑発するな」
「ダメですよ。女神様にはカナタさんのありがたさを身に染みて貰わないと」
「どういうこった?」
「カナタさんって戦闘能力無いんですよね?」
「そうだな」
「なのに女神様の為に1日に恐ろしい魔族領に3回も行って、ここのハンター達がビビって動けなくなるような相手にも躊躇せずに助けに行ったんですよ?普通そんな事出来ます?」
「そ、そりゃあまぁな・・・」
「私だったらそんな事されたらもうイチコロです。もう嬉しくて嬉しくて仕方がありません。それに心配してさりげなくご飯作ってくれるとか最高過ぎるじゃありませんか」
「カナタは飯まで作れんのか?」
「はい、とっても美味しかったです。異世界料理って奴ですよね。ここにも同じような食べ物ありますけど、美味しさは全く違いましたよ。ギルマスの好きなお酒にも合うと思いますよ」
「そんなに旨かったのか?」
「はい、女神様は一口も食べずに部屋に行きましたけどね。カナタさんはちゃんと女神様の分を残されてましたけど、女神様は食べずに捨てちゃったんじゃないですかね。優しくされて当たり前、命懸けで助けに行っても下僕呼ばわりするだけ。おまけに拗ねて口もきかない。カナタさん帰って来たくなくなるのわかりますよ。あーあ、カナタさん。私を選んでくれたらいいのに」
その頃、叶多は父親が飲んでる酒を舐めたぐらいの経験しか無いのに、火酒。いわゆる蒸留酒を飲まされていた。