プロローグ 召喚
ふぁーあ、眠っ・・・
俺は時野叶多17歳、高校2年。来年の大学受験に向けて勉強中だ。
今は同じ高校に通う腐れ縁の夢野彼方と登校する途中だ。漢字は違うが、こいつとは同じ名前という事で一緒にいることが多かった。
夢野彼方は《女神と勇者のドキドキダイアリー》というゲームを徹夜でやっていたようだ。
《女神と勇者のドキドキダイアリー》は心優しき美しい女神が魔王率いる魔族に苦しめられている民を救うために勇者を召喚し、見事に魔物を倒した勇者と女神が恋に落ちるというゲームだ。キャラセレクトは魔剣を操る剣士か大魔法を操る賢者をセレクト出来る。
剣士は俺様系キャラ、賢者はクールで知的キャラだ。また、自分が女神になって勇者と賢者が自分を巡って争うという選択も出来る。新作とはいえ古典的なゲームは男女問わず人気があった。
「彼方、また徹夜でゲームやってたのかよ」
「おー、全キャラでクリアしたわ」
「お前、ほんっとに好きだよなあのゲーム」
叶多も進められてやってはみたが、全然面白くなかった。なぜ他の世界に召喚されて戦わにゃならんのだ。自分の世界なんだから女神が自分で魔王と戦えってんだ。
「女神って、見てくれは可愛くてもクソ女だろうが。勝手に召喚してそいつの人生狂わしてんだぞ」
「だってよぉ、あの女神様めっちゃ可愛いじゃん。あんな可愛いかったら何でも言う事聞いてやるぜっ」
「見てくれに騙されて身を滅ぼす男がいるんだよ」
「それはそれで幸せだろ?身を滅ぼすぐらい可愛いんだぞ?」
「お前は馬鹿か。それにどんなに可愛くても現実にいない女神に入れ込むとか正気かおまえ?」
「いいんだよっ。あんなチート能力くれた挙げ句に恋人になってくれんだぜ。憧れるじゃんかよっ」
「お前、昔から全く変わらんな。空から女の子が降って来るかもしれないとかずっと上見てたりしてたよな」
「うるせぇ。そのうち落ちて来るかもしれんだろが」
「ばっか、本当に落ちてきたら事件だろが。飛び降りて来た奴の巻き添え食って死ぬぞ」
「嫌な事を言うなよ。お前は本当に夢もロマンも無いやつだな」
「ロマンより目の前の事だ。来週の期末テスト大丈夫かよ?」
「あー」
「お前中間もぼろぼろだったろ?」
「俺はやれば出来るんだよっ」
「やらねぇから出来なかったんだろが」
「お前はオカンか。いちいち正論を言うなよ」
「お前、大学どころか留年するんじゃねーか?」
「そのうち俺は召喚されて夢の世界に行くからいいんだよっ」
夢野彼方は現実逃避をするのが好きだった。ゲームはそれを叶えてくれる素敵な世界。時野叶多はそれを呆れて聞いていた。
「あーあ、女神様が召喚してくれねぇかな。もう、下僕でも何でもいいわ。あんな女神様に言われたら何でも言う事聞くのになぁ」
(本当?)
「え?叶多なんか言った?」
ブオン
ゲームやアニメで見るような魔法陣みたいな物がいきなり足元に出現した。
ズボッ
「うわぁぁぁぁぁっ」
・・・・
・・・・・
・・・・・・
「なっ、なんだここは・・・?」
「ようこそ、我が下僕のカナタよ」
「は?誰お前?」
「私は時と空間を司る神クロノ」
「神?」
目の前に現れたのはとても可愛らしい少女。なんだこれは?俺は変な宗教の勧誘にでもあってんのか?幸せを祈るから目を瞑って下さい的な?
「俺は宗教には興味がないんだよっ。勧誘なら他の奴にやれっ」
「興味無いってなによ?私の言う事は何でもきくと言ったわよね?下僕でも良いって」
「言ってない」
「嘘よっ!確かに下僕でも何でも良いって言ったじゃないっ」
「言ったのは俺じゃないっ!彼方が言ったんだっ。人違いだっ」
「えっ?あんたの名前なんて言うのよっ」
「叶多だ」
「何よ、合ってるじゃない」
「あんなふざけた事を言ったのは夢野彼方、俺は時野叶多。人違いだって言ってんだろがっ」
「ふーん」
「なんだよ、ふーんって?」
「同じ名前ならどっちでもいいじゃない」
「よくねーわっ。学校に遅刻するだろが。早く元に戻してくれっ」
「大丈夫よ。あんたの居た世界は時間を止めてあるから」
「は?時間を止める?何言ってんだお前?」
「お前なんて、気安く彼女みたいに呼ばないでよっ」
「はぁ?誰が彼女みたいに呼んだんだよ」
「私はクロノ。クロノ様とお呼びなさい、下僕カナタ」
「誰が下僕じゃ。いいから元の所へ返せよ。下僕が欲しいなら夢野彼方を呼べ。あいつはこういうのを望んでたんだから言う事聞いてくれるぞ。ちなみに俺はクソ女神はすかん」
「クソ女神って、誰の事よ?」
「お前に決まってんだろが。勝手に召喚して人の人生狂わすなっ。早く元に戻せっ」
「誰がクソ女神なのよーーっ」
「うぐぐぐぐぐぐっ。首絞めんなクソ女神めっ」
べしっ
「痛ったぁぁぁぁっ!あんた女神になんてことすんのよっ」
「お前が首絞めるからだろうがっ」
「またお前って、呼んだーーーっ。何よ、あんたの彼女になってなんかやんないんだからねっ」
「誰が彼女にしたってんだ。自意識過剰かてめぇはっ」
「何よっ!私はあんたと違ってモテモテなんだからねっ。勇者と賢者が私を取り合って・・・」
まるであのゲームみたいだな・・・
「もう勇者と賢者がいるなら俺はいらんだろ。さっさと戻せ」
「もう時間が無いわっ。もうあんたでいいわ。行くわよっ」
「知るかよっ!そんな事、勝手に・・・うわぁぁぁぁっ」
こうして時野叶多は人間違いで召喚され、女神クロノに無理矢理連れ去られて行ったのであった。