第五話:学生寮には出会いが、
「ここが学生寮かぁ」
ノイズは学生寮の前に立ち、しばらくの間、その館を眺めていた。街の中にあるとは思えないほどの大きさがあり、ノイズはそれに圧倒されてしまう。また、街とこの学生寮は大きい塀で隔てられていて、何だか、ここだけ街の雰囲気とは混ざっておらず、ここで上手にやっていけるのか、少し不安な気持ちになった。
ノイズは、魔法学校に合格してから、まず入学手続きをして、それから制服の購入や、筆記用具などの学校生活に必要なものを一から買った。
母親と一緒に買いに行ったものの、二人ともどれを買うのが正解なのか分からず、朝早くから街に行って、帰って来たのは、すでに日が沈んでいた頃だった。
そして、遠い所から来る学生もたくさんいるので、生徒であれば無料で借りることのできる、この学生寮にノイズも住むことにし、この学生寮にやって来たのだった。
ノイズは、パンパンになった大きめの鞄を持ちながら、少しびくびくしながらも、学生寮の中へと入っていった。
中は思ったよりも綺麗だった。ほこりや、ゴミは見当たらず、自分の家ではよくあった、小さい穴などは特に無さそうだった。
入口は下駄箱になっていて、ノイズは自分の番号を、すでに配られた紙を見て確認しながら、自分の番号が書かれた下駄箱の中に自分の靴を入れた。
中に入って、すぐ左に管理人であるおばあさんが、窓越しに座っていた。
「すいません」
ノイズは鍵を受け取るためにおばあさんに話しかける。しかし、おばあさんは反応することなく、新聞を真剣な眼差しで、読み続けている。
「あのぉ! 申し訳ないんですけど!」
ノイズが大声でおばあさんに話しかけると、急に新聞をたたみ、ノイズの方をぎょろりと睨んだ。
「聞こえてるよ。ただ、今、すごく面白いところを見てたんだ。だから、無視したのに理解してくれないとはねぇ......」
「えぇ......。それは分からないですよ。でも、気分を悪くされたら、すいません」
ノイズは、困惑しながらも、自分が悪いと思い、謝罪する。
おばあさんはそんな姿を見て、手を叩きながら、大笑いする。
「そんな、怒ってないよ。いやいや、あんた面白いね。鍵受け取りに来たんでしょ? はい、これがあんたのだよ」
おばあさんはそう言いながら、窓の下の、小さい受け取り口から鍵を差し出す。
「えっ? まだ、何番か言ってませんよね?」
ノイズが、不思議そうに尋ねると、おばあさんは少し不敵な笑みを浮かべながら、
「私はね。こう見えて、人の心が読めるんだよ。すごいだろ?」
と、おばあさんがそう言った。ノイズは、おばあさんが何を言っているのか、よく分からなかったが、
「ありがとう」
それだけ言って、鍵を受け取り、自分の部屋へと向かった。
ノイズは、自分の荷物を少し引きずりながらも、歩いていく。もう少し近いところにあると思っていたが、ノイズの部屋は一階の突き当りにあり、想像以上に歩かされた。
その道中には、食堂や、図書室のような場所もあった。そういった、この寮に存在している施設は誰でも、自由に使うことができるので、ノイズはその場所をしっかりと覚えるようにした。
そうして、ノイズはしばらく歩いて、自分の部屋にたどり着いた。扉を開けて、中へと入っていく。
部屋自体は思っていたよりも、少し小さめであった。まず一歩道の通路があり、一番奥には、下部分が本棚、上部分がタンスになっている棚がある。また、右手には扉があり、その扉を開けると、中にはトイレとお風呂があった。自分の家とは比べられないほど白い、便器と浴槽で、ノイズは感動を覚える。
そのまま歩いていき、通路を抜けると、ベッドと勉強机がそれぞれ鎮座していた。それ以外の家具はなく、とてもあっさりしている。
ノイズは、そのまま適当な場所に荷物を置くと、ベッドに腰をかける。
「疲れたなぁ……」
ノイズは、そのままベッドに横になろうとしたが、まだ荷物を整理していないので、だるそうにしながら、立ち上がる。そして、ノイズは、荷物の整理を始めるのだった。
ノイズは、鞄から小さめのカレンダーを取り出した。鞄の中は、これで空になる。あれだけ重く感じたのにも関わらず、タンスに服をしまっても、まだ余裕があった。部屋の雰囲気も、自分がここに来る前と、ほとんど変わっていなかった。
ノイズは、そのカレンダーを、自分の机の上に置くと、一息ついて、部屋の空気を入れ替えるために、窓を開けた。
すると、突然ノイズの部屋の扉をノックする音が聞こえる。ノイズは、不思議な顔をしながらも、扉へと向かう。
そして、扉を開けると、そこには自分よりも背の小さい少女が立っていた。ノイズはその少女の顔をどこかで見たことがあったが思い出せず、少し二人は見つめあう。
すると、少女の方は、安心したのか、満面の笑みを浮かべながら
「こんにちは! やっぱり、君だったんだ。私、隣になったんだ! これからよろしくね」
その少女は、そう言った。ノイズは、誰なのかあまり覚えていないが、この溢れ出てくる明るいオーラは、一人だけ、思い当たる人物がいた。
「もしかして、マオ?」
ノイズが、そう聞くと、少女は嬉しそうに、首を縦に振る。
「覚えててくれたんだね。やっぱり、私たち運命感じちゃうよね」
「それは、ないかなぁ……」
「いやいや、そんなことないよ! 絶対に運命だよ! もし、これで同じクラスとかだったら、もっと良いのにね!」
「そうかもしれないけど……」
ノイズは、マオの雰囲気に押され気味で、終始困惑した顔をするのだった。一方で、マオは、何の悪気もなく、笑顔で会話するのだった。