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天才少年は魔法が使えないけれど、  作者: 阿田 雨
第一章
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エピローグ


 ノイズが目覚めると、そこは知らない白い天井があった。


 ノイズは起き上がると、そこが病室である事を確認できた。そして、自分は白い毛布を被りながら、ベッドの上で寝ていたことを知る。


 ノイズはすぐに肩に開いていたはずの傷口を手で触って確かめると、そこには何事もなかったかのように、自分の肌の感触があった。


 ノイズは、包帯すらも巻かれていない肩に不信感を感じながらも、自分が生きていることに安堵して、枕に頭を落とす。


 すると、病室の扉が開き、そこからアサがノイズの所へと歩いてきた。


「お目覚めか。結構早かったな。大丈夫か?」


 アサは、社交辞令を述べるように、その言葉を並べた。アサの背中には、ドラコのような羽が生えていている。地面に、自分のしっぽを引きずりながら、アサはノイズのベッドの隣までやってくると、近くにあった椅子に座った。


「その腕、どうしたんだ?」


 ノイズは、そう言いながら、アサの腕を触る。その腕は竜のような分厚い皮で出来ている訳でもなく、人間のような柔らかい肌というわけでもなく、機械のように、鉄でできた腕をしていた。


「あぁ、これか。もう、何をしても元の姿に戻れるわけではないと医者から言われてな。あの腕だと、日常生活に困るだろう。だから、切り落として、代わりに義手をつけたんだ。ただそれだけのことだよ」


 アサは、平然のことかのように言うが、その行為がどれだけの勇気が必要なのか、ノイズは何となく察するのだった。


「そうなのか。へぇ」


 ノイズは正しい返答が考えられず、とりとめのない返事をするのだった。


「大丈夫そうなら、それでいいんだ。私の迷惑事に巻き込んでしまって申し訳なかったな。何よりも、君は死にかけたんだ。どれだけ謝っても許されることではないことをよく分かっているつもりだ。ただ、もう一度だけ言わせてくれ。本当に申し訳なかった」


 アサは、そう言うと、深く頭を下げる。そのまま顔を上げることなく、数十秒が経っても、アサが頭を下げ続けた。


 ノイズは、逆にこちらが申し訳ない気持ちになり、


「全然気にしてないから。顔上げてよ。そういえば、あの後どうなったんだよ?」


 と、アサに向かって言うのであった。それを聞いたアサは、顔をゆっくりと上げ、


「アンドは、ウツイの攻撃によって壊れてしまっていたみたいだった。少女は、捕まって、今頃裁判にでもかけられるだろう。そうなれば、彼女は立派な犯罪者だ。いや、それは違うな。今も立派な犯罪者だな。……そんなものだろう。それじゃあ、私はこれで」


 アサはそう言うと、立ち上がって、病室を去ろうとした。その時だった。


「ちょっと待ってくれないか? 少しだけ僕の話を聞いてくれないか?」


 ノイズは、アサの手を掴むと、そのまま座っていた椅子に座りなおさせた。


「……いいぞ。それが罪滅ぼしになるのならば」


 アサは、少し悩んで、ノイズの願いを了承すると、そのまま椅子に戻る。


「なぁ、アサは全部知ってたんじゃないか?」

「……知ってたというと?」

「こういう結末になるかは知りようもないけど、君が化け物に変えられて、何もかもを失う物語を、君は知っていたんじゃないか?」

「どういう意味だ?」


 アサは、怪訝そうな顔をしながら、ノイズの顔を見つめる。ノイズは冷静に語り続けた。


「君の部屋を見せてもらった。君の部屋には、君が殺した家族の写真が大きく貼られてあった。君は、その中にいた少女が自分を恨んでいるのを分かっていた。そして、少女が君に復讐しようとしていることも、想像できた」

「何がいいたいんだ?」

「僕はてっきり、君が魔法学校に入ると聞いたから、少女がアンドを送ったと思っていたんだ。でも逆だったんだろう? 少女がアンドを魔法学校に入学させるから、君が魔法学校に入ったんじゃないか? 俺を襲いかかった時、君はまだ自我が残っていたんじゃないか? だから、すぐには食べないで、ドラコを待ったんだろう?」


 ノイズは、アサの顔をじっと見ながら、質問する。ノイズが喋っている間も、アサは顔色一つ変えることなく、ただその言葉を嚙みしめるように聞いていた。


「そんなことはない」


 アサは、その質問を切り捨てるかのように、きっぱりと答えた。


「……そうだよな。そうだよな! 何かごめんな。変な事聞いちゃって」


 ノイズは、空気が悪くならないように、頭を数回なでながら、作り笑いを見せている。


「ただ、一つ言えるとしたら、この結末は私にとっては最悪だったということだけだ」


 アサは、悲しいともいえないような、どこか悔しいという気持ちも含まれているような、微妙な顔をすると、そのまま席を立って病室を去っていった。


 病室には、開いた窓から生暖かい風が、流れ込んでいた。

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