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天才少年は魔法が使えないけれど、  作者: 阿田 雨
第一章
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第三十六話


 ウツイは、ノイズの近くまで行き、どうにかしてその傷を治そうと、傷口の部分に治癒魔法をかけている。


 しかし、その傷は深すぎるのか、傷口が塞がることはなく、その部分からどんどんと血が溢れている。


「……もう大丈夫だよ、ウツイ。もう無理だよ」


 ノイズは地面に横たわりながら、ウツイの手を除けようと、自分の手を、ウツイが強く杖を握りしめている手に向かって伸ばすも、途中で力尽きて、ノイズの腹あたりに落ちていく。


「……絶対に助けるから。もう死んでほしくないよ。誰にも」


 ウツイは涙をこらえながらも、自分の杖に、自分の持っている魔力全てを注いでいく。


 それでも、ノイズの傷が塞がることはなかった。さっきよりも出血の量が少し減ったぐらいの変化しかなかった。


 そして、通路の方から自分の体を壁で支えながら、ゆっくりとマオが歩いてきた。


 さっきまでマオの手で燃えていた炎は消えている。


「……ウツイさん。ノイズは、死んじゃうの? どうにかできないの? ねぇ。ウツイさ……」

「どうにかしようとしてる! でも、無理だよ。私の魔法じゃ、彼の傷は癒せないの!」


 ウツイの瞳にはすでに涙が溢れてきている。マオは、今まで聞いたことないウツイの悲痛の叫び声を聞いて、驚いてる。


「分かった。私がどうにかする」


 マオはそう言うと、倒れているノイズの隣までどうにかして近づくと、ウツイと場所を変わる。


 そして、マオは手のひらをノイズの傷口に向けて、押し当てる。そのまま目を瞑って、何かに祈るように、黙り込んでしまった。


 ウツイは固唾をのみながら、その様子をじっくりと見守っていた。


「終わった」


 マオが、小さい声で、そう呟くと、ゆっくりと傷口に押し当てていた手を除ける。


 ウツイが、ノイズの傷口を確認する。すると、そこに開いていたはずの穴は塞がっていて、あふれ出していた血は止まっていた。


 ウツイはほっとして、一気に体の緊張がほどけて、床に手をついて、座り込んだ。


 その瞬間、マオは眠るかのように、ウツイの膝に、頭を落とした。


「疲れたよね、マオちゃん。今は寝てていいよ。後は、私がどうにかするから」


 マオは、それを聞く前に、小さく寝息を立てながら、静かに眠りついた。


 次の瞬間、通路を塞いでいた鉄格子が急に、上へとせり上がった。


 ウツイは、そっと膝に乗ったマオの頭を除けて、自分の杖を握りしめると、少女のいる部屋へと歩き出した。


「黙って見てたけど、すごいね、その子。まるで、あの人しか使えない魔法を使ってるみたいだったよ。そうは思わない?」


 少女は笑いながら、ウツイに問いかけるも、ウツイは聞く耳を持っていないようで、黙ったまま、椅子に座っている少女に向かって、ただ歩き続けた。


「君も、すごいよ! 私が作り出した最強のお兄ちゃんを簡単に倒しちゃんだからね。本当に、やめてほしいよ」

「……言いたいことは、それだけ?」


 ウツイは静かにそう言うと、杖を少女に向ける。少女は慌てる訳でもなく、ただ笑いながら椅子に座ったままである。


「それだけって。そんなセリフは初めて聞いたよ。追い詰められてるのかな、私? どう思う? 私って追い詰められてる?」

「……知らない」

「知らないって、酷いなぁ」


 そして、ウツイは少女の目の前までやってくる。そして、少女の顔に向けて、まっすぐ自分の杖を突き立てる。


「もう、諦めて。まだ、何か策があるんでしょう? じゃなかったら、そんなに余裕はないはず」

「いや、残念だけども、もう策は尽きてるよ。何もやることはない。本当だよ?」


 少女はそう言いながら、両手を上げて、降参するポーズをとる。そして、にやにやと笑いながら、


「でもね、ひとつだけ言いたいことがあるんだよね。聞いてくれるかな?」

「いいよ。最後に一つだけ、聞いてあげる」


 ウツイは、冷たくそう言いながら、杖を強く少女に押し当てる。


 それから、少女は笑うのを止めて真剣な面持ちで語りだした。


「私はね、アサという女に全てを奪われたの。あいつは暗殺者として、私の家にやって来た。そして、私の両親を殺した。そもそも、私の両親は有名な人形作家でね。様々な人形をこの世に生んできた。でもね、天才だったからね、頑固な人たちだったんだ。自分たちの信念に曲がったことで人形を利用する奴らの事を許せなかったの。そのせいもあってか、私の両親は何個か大事な依頼を断ってるのよ。その中に、私の両親を恨んでる人がいたみたいなんだ。それで、それでね、うちの両親は死んじゃった! 本当に、突然死んじゃったんだよ! すごいでしょ! 人間ってこんな簡単に死んじゃうだなぁ。その時、初めて知ったよ!」


 その話を語っている少女の目には涙が浮かんでいる。それでも、狂気のお面を被り続けている。


「ねぇ、ウツイさん。君に尋ねるよ。私はどうすればよかったの? この恨みをどこに捨てればよかった? ねぇ。誰も教えてくれなかったよ? ねぇねぇねぇ。私は君からしたら、狂気的な誘拐犯とでも、思ってるんでしょう? でもね、でも、私の抱えていたこの感情はどうすればよかったんだよ!? なぁ、聞いてるんだろ! 答えろよ!」


 少女は、強く、悲愴感を漂わせながら、ウツイに質問する。ウツイは、答える訳でもなく、ただ自分の杖を少女に向けていた。


「なんで答えないんだよ! お願いだよ! 答えてよ! 私の両親が死んでから、私はずっと孤独だったよ。親戚は私を引き取ってくれるわけでもなく、すぐに売り飛ばされたよ。嫌な事も全部、笑顔でやったのに、返ってきたのは、罵詈雑言。しまいには暴力だよ。そんなの恨むしかないじゃないか。恨むしかないじゃないかよ! なんで、アサは許されて、私は許されなんだよ? なんで、あいつには、仲間ができるんだよ? 私は、どこで間違えちゃったんだよ! どこで……」


 少女は立ち上がり、ウツイに抱きついた。ウツイは少女のいた場所に向かって、ずっと杖を向けたままである。


 その部屋には、ひたすらに少女の泣き叫ぶ声が響き渡っていた。


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