第三十四話:対決
アンドは、体育館の倉庫から繋がっている、地下室への階段を一段一段下っていく。
カン、カンと一段ずつ降りるたびに、金属と金属がぶつかるような音が鳴っている。
そして、一番下までたどり着くと、一本道があって、その奥には一人の少女が椅子に座りながら、何か作業をしていた。
少女は、アンドがやってきたことに気づいて、
「やぁ、遅かったじゃないか、お兄ちゃん。私、待ちくたびれたよ。だって今日は」
「今日は、アサを完全に人の姿から、怪物の姿に変える日だからな。俺も楽しみだったよ」
アンドの声は決して楽しそうではなかった。いつも、冷たい声色だった。
少女は、近くにあった注射器を手に取って、立ち上がると、燃料タンクの蓋を開けて、その中の液体を、鼻歌交じりに、注射器の中へと入れていく。
「そういえば、お兄ちゃん。今日はお友達も一緒なんだね」
「そんなことはないはずだが?」
「いや、聞こえるよ。足音がね」
少女がそう言うと、階段から誰かが下りてくる音が聞こえ始めた。
アンドは、階段から距離をとり、長い一本道の途中まで、後退する。
どんどんと階段を下りる音が大きくなっていく。そして、階段からノイズとマオ、ウツイが現れた。
「おいおい。アンド。こんなものを地下に作ったら怒られちゃうだろう?」
ノイズは、地下室に着くと、アンドを煽るかのように話しかける。
「ノイズ、それにマオもウツイまで。ここがよく分かったな」
アンドは、冷たくノイズに返事をする。
「こちらとしては、もっと早く見つける予定だったんだ。でも、アンドが隠すのが上手で、驚いたよ」
「いつから、僕が犯人だと分かっていたんだ?」
「それは、君が僕のお見舞いに来たタイミングからだよ。君はあの時、用事があるから、グレンとは帰れないと言っていたね? なら、なんでも僕のお見舞いというのを優先したんだ? 君なら簡単に先生の誘いを断る決断ができたはずだ。つまり、君は用事を後回しにするほど、僕の状態が気になっていたんだ。君は知らなければならなかったのだろう? 僕がどこまで知っているのか。そして、あわよくば、全てを無かったことにするつもりだったんだろう?」
ノイズが、そう聞くと、奥にいる椅子に座っている少女は手を叩いて、笑い出した。
「君、すごいね! 頭がいいとか、そんな次元じゃない。人を疑うのが早すぎるよ。多分だけど、探偵の才能があるね!」
少女は、褒めているのか、それとも、呆れているのか。どっちが本心なのかはノイズには分からなかった。
ノイズたちは、一歩踏み出して、アンドの所へと近づいていく。
「多分だけど、用事っていうのは、アサと会うことだろう? そこで、アサの事を巧みにだまして、そのまま誘拐。そして、人形用の燃料を彼女に注射した。その後、学校に行かせたのは、彼女に自分の生徒を殺させるためとかだろうか? 多分、そんな感じだろう?」
ノイズが、そう聞くと、奥にいる少女は、椅子の手すりに手をついて、
「そうだね! 私たちは、あのクソ女に恨みがあるからね! 死ぬよりも苦しい思いをさせてあげようと思って」
と、笑いながらノイズの質問に答えた。ノイズは怪訝そうな顔をしながら、少女の方をまっすぐ向いている。
「ただ、一つだけ気になることがあるんだけど、聞いてもいいかな?」
「しょうがないなぁ。一つだけね」
「……なんで、アサを恨んでいるんだ?」
ノイズが、そう聞くと、少女の笑いは完全に止まり、質問の内容に呆れているのか、不愉快そうな顔を浮かべている。
「……それってさぁ。世界一つまらない質問だよね。殺人にはいつも悲しい背景が必要だと思ってるわけ? 恨みっていうのは、そんなにすごいものではないんだよ。人は人を簡単に殺すのに、挨拶を返してくれなかった程度の理由で十分なんだよ」
「そんなことはないだろ? 最低でも君の場合は?」
「いいや、それだけで十分だね」
少女はそう言い放つと、近くにあった何かのスイッチを押す。
すると、ノイズたちの後ろから鉄格子が降りてくる。反対側も同じように鉄格子が降ってきた。
「ねぇ、ノイズ。完全に退路が断たれちゃったよ」
マオは、ノイズの腕を掴んで、少し怯えている。ウツイは、自分の杖を取り出すと、強く握りしめ、アンドの方に向ける。
それだけだと思っていると、なぜか左側の壁が上にせりあがっていく。
その奥には、手には分厚い手枷がついていて、足にも枷がつけられている。それでもなお、強者としてのオーラはにじみ出ている。息を大きく吸い込む、一気に吐き出す。その息は白く、しっぽを一度上にあげて、下に振りかざし、地面に大きく穴をあける。
「ねぇ、ノイズあれってどう考えても、今から助けようとしてるアサさんだよね」
「多分な」
「ノイズさん。多分じゃなくて、そうですよ。殺意に満ち溢れていますけど」
三人は、その雰囲気に圧倒されて、その場を動けないままでいた。
その様子を笑うかのように、少女は手を叩いている。
「言っておくと、そのクソ女には数日ろくに食事をさせてないから、なんでも食っちゃうぐらいにお腹が空いてるよ! 頑張ってね!」
三人はそれを聞いて、絶望するしかないのであった。
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