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天才少年は魔法が使えないけれど、  作者: 阿田 雨
第一章
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第三十四話:対決


 アンドは、体育館の倉庫から繋がっている、地下室への階段を一段一段下っていく。


 カン、カンと一段ずつ降りるたびに、金属と金属がぶつかるような音が鳴っている。


 そして、一番下までたどり着くと、一本道があって、その奥には一人の少女が椅子に座りながら、何か作業をしていた。


 少女は、アンドがやってきたことに気づいて、


「やぁ、遅かったじゃないか、お兄ちゃん。私、待ちくたびれたよ。だって今日は」

「今日は、アサを完全に人の姿から、怪物の姿に変える日だからな。俺も楽しみだったよ」


 アンドの声は決して楽しそうではなかった。いつも、冷たい声色だった。


 少女は、近くにあった注射器を手に取って、立ち上がると、燃料タンクの蓋を開けて、その中の液体を、鼻歌交じりに、注射器の中へと入れていく。


「そういえば、お兄ちゃん。今日はお友達も一緒なんだね」

「そんなことはないはずだが?」

「いや、聞こえるよ。足音がね」


 少女がそう言うと、階段から誰かが下りてくる音が聞こえ始めた。


 アンドは、階段から距離をとり、長い一本道の途中まで、後退する。


 どんどんと階段を下りる音が大きくなっていく。そして、階段からノイズとマオ、ウツイが現れた。


「おいおい。アンド。こんなものを地下に作ったら怒られちゃうだろう?」


 ノイズは、地下室に着くと、アンドを煽るかのように話しかける。


「ノイズ、それにマオもウツイまで。ここがよく分かったな」


 アンドは、冷たくノイズに返事をする。


「こちらとしては、もっと早く見つける予定だったんだ。でも、アンドが隠すのが上手で、驚いたよ」

「いつから、僕が犯人だと分かっていたんだ?」

「それは、君が僕のお見舞いに来たタイミングからだよ。君はあの時、用事があるから、グレンとは帰れないと言っていたね? なら、なんでも僕のお見舞いというのを優先したんだ? 君なら簡単に先生の誘いを断る決断ができたはずだ。つまり、君は用事を後回しにするほど、僕の状態が気になっていたんだ。君は知らなければならなかったのだろう? 僕がどこまで知っているのか。そして、あわよくば、全てを無かったことにするつもりだったんだろう?」


 ノイズが、そう聞くと、奥にいる椅子に座っている少女は手を叩いて、笑い出した。


「君、すごいね! 頭がいいとか、そんな次元じゃない。人を疑うのが早すぎるよ。多分だけど、探偵の才能があるね!」


 少女は、褒めているのか、それとも、呆れているのか。どっちが本心なのかはノイズには分からなかった。


 ノイズたちは、一歩踏み出して、アンドの所へと近づいていく。


「多分だけど、用事っていうのは、アサと会うことだろう? そこで、アサの事を巧みにだまして、そのまま誘拐。そして、人形用の燃料を彼女に注射した。その後、学校に行かせたのは、彼女に自分の生徒を殺させるためとかだろうか? 多分、そんな感じだろう?」


 ノイズが、そう聞くと、奥にいる少女は、椅子の手すりに手をついて、


「そうだね! 私たちは、あのクソ女に恨みがあるからね! 死ぬよりも苦しい思いをさせてあげようと思って」


 と、笑いながらノイズの質問に答えた。ノイズは怪訝そうな顔をしながら、少女の方をまっすぐ向いている。


「ただ、一つだけ気になることがあるんだけど、聞いてもいいかな?」

「しょうがないなぁ。一つだけね」

「……なんで、アサを恨んでいるんだ?」


 ノイズが、そう聞くと、少女の笑いは完全に止まり、質問の内容に呆れているのか、不愉快そうな顔を浮かべている。


「……それってさぁ。世界一つまらない質問だよね。殺人にはいつも悲しい背景が必要だと思ってるわけ? 恨みっていうのは、そんなにすごいものではないんだよ。人は人を簡単に殺すのに、挨拶を返してくれなかった程度の理由で十分なんだよ」

「そんなことはないだろ? 最低でも君の場合は?」

「いいや、それだけで十分だね」


 少女はそう言い放つと、近くにあった何かのスイッチを押す。


 すると、ノイズたちの後ろから鉄格子が降りてくる。反対側も同じように鉄格子が降ってきた。


「ねぇ、ノイズ。完全に退路が断たれちゃったよ」


 マオは、ノイズの腕を掴んで、少し怯えている。ウツイは、自分の杖を取り出すと、強く握りしめ、アンドの方に向ける。


 それだけだと思っていると、なぜか左側の壁が上にせりあがっていく。


 その奥には、手には分厚い手枷がついていて、足にも枷がつけられている。それでもなお、強者としてのオーラはにじみ出ている。息を大きく吸い込む、一気に吐き出す。その息は白く、しっぽを一度上にあげて、下に振りかざし、地面に大きく穴をあける。


「ねぇ、ノイズあれってどう考えても、今から助けようとしてるアサさんだよね」

「多分な」

「ノイズさん。多分じゃなくて、そうですよ。殺意に満ち溢れていますけど」


 三人は、その雰囲気に圧倒されて、その場を動けないままでいた。


 その様子を笑うかのように、少女は手を叩いている。


「言っておくと、そのクソ女には数日ろくに食事をさせてないから、なんでも食っちゃうぐらいにお腹が空いてるよ! 頑張ってね!」


 三人はそれを聞いて、絶望するしかないのであった。



 


 読んでくださりありがとうございました。


 次の投稿は今日の夜八時半頃になります。


 面白いと感じたり、続きを読みたいと思ってくださった方はお待ちいただけると幸いです。

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