第三十一話:彼らは、
おとといまで、私と会話していたあの子は、学校裏に捨てられるかのように、端の方の草むらに、投げ捨てられていた。
どんな風に死んでいたかは、思いだせない。ただ、一つだけ言えるのは、あの子があの子である必要な部分のうち、残っていたのは頭ぐらいだったこと。それだけは覚えている。
私は、代わりのいる、使い魔をだき抱えながら、静かに泣き続けた。彼らにとっては代わりがいくらでもいるのだろう。代わりがいる、代わりがいる、代わりがいる、代わりがいる、代わりがいる。
そうやって、頭の思考を埋め尽くそうとしたけど、不可能だった。できる訳がなかった。今でも、そう考え続けているけれど、あの子が窓際にいるのを今でも、妄想してる。
初めてだった。こんな感覚をしたのは。
私は、あの子をその草むらにそっと置いて、埋めることもせず、その場を去った。
その後は、できるだけ冷静を装うとした。この感情が他の人にばれてしまえば、止められるのが分かったから。だから、吐き出したい言葉を、飲み込んで、その時を待ち続けた。
そして、放課後になって、私は一年一組に向かった。自分の杖を強く握りしめながら。
「きたよ」
私は、そう言いながら、教室の中へ入っていた。中には、にたにたとこちらを見ながら笑っている彼らのみがいた。
「どうだったかなぁ。あれ。面白かったでしょ? 叫び声がとっても気持ち良くてさぁ……」
私は、そう笑いながら言う彼らに向かって、ただ自分の杖を向けた。本当に殺すつもりだった。
私は、深呼吸をしながら、魔力を自分の杖に込めた。
その時だった。後ろから、誰かが、私の手を掴んでそのまま上に持ち上げた。
「ウツイさん、だったかな? あっているか? 殺意は隠さなければ、相手に気づかれるぞ。今回の場合は、彼らが馬鹿だっただけだ」
私は、驚いて後ろを振り返る。そこにはアサさんがいた。
彼らは、何が起こったのかを理解できず、未だにへらへらと笑っていた。
「あんた誰だよ? 今、面白いところだったんだぞ」
「そうか。面白いところだったか。確かに、しゃべり方から、ムカつく奴らだな。殺したくなるのも分からない事はないな」
アサさんは、冷静にそう言った。私は、掴まれた手を無理矢理はがそうとしたが、彼女の力は想像以上に強く、それは叶わなかった。
逆に彼らにとっては、アサさんの存在は面白くなかったようで、舌打ちしながら、
「お前ムカつくな!!」
そう言って、自分の杖を握りしめながら、魔法を行使しようとする。
「面倒なやつらだな」
アサさんは、そんな状況でも、さっきまで冷静さを失うことなっていなかった。私の事を、投げ飛ばすと、高く飛び上がった。
彼らの放った火炎は、まっすぐに飛んでいくが、その射線にはアサさんはいなかった。
アサさんは、そのまま一気に彼らとの距離を縮め、そのまま彼らの目の前に立つと、一人の少年の腹にめがけて、一発拳を叩きこむ。
そのまま、素早く一人、また一人と蹴りや、拳を的確に叩き込んでいく。あっという間に彼らは負けてしまっていた。彼らは立ち上がることもできずに、床に倒れこんでいる。
私はそれに呆気をとられて、さっきまでの殺意はどこかへと消えてしまっていた。
そして、アサさんはすべてが片付くと、こちらに近づいてきて、
「人を殺すときは、私のいないところでしろ。そうじゃないと、また君の事を止めるから」
そう言って、そのまま教室の外へと出て行った。私は床に倒れこんだまま、しばらく動けないでいた。
* * *
「これが、あの日の出来事」
ウツイは、長話が終わり、疲れてしまったのか、近くにあった椅子を引き出して、座った。
ノイズとマオはどう反応すればいいのか、困ってしまったのか、聞き終わっても、すぐには話ださなかった。
「そうだったんだね。なんか大変だったね」
「ううん。そんなことないよ。アサさんが止めてくれなかったら、私は、あの子の望まない姿になっていたかもしれないんだし」
ウツイは、微笑しながらそう言った。けれど、その言葉の中にはつらさも含まれているようだった。マオも、どこか苦しげな表情を浮かべている。
「ねぇ、ノイズはさっきから黙ったままだけど、何か言いなよ。ウツイさんは、勇気を出して、自分の事を話してくれたんだから」
ノイズは、意識がどこかへと行ってしまったのか、さっきから何も言わずに黙ったままである。
「いや、一つだけ気になることがあるんだ」
「気になる事って、何かな? 少し、私の話で分からない事があった? なんでも話すよ」
「そういう訳じゃなくて。なんで、アサは五階にいたんだ?」
ノイズがそう聞くと、ウツイは少し悩んで、
「分からないな。何をしに来たのかは、聞く余裕がなかったし。何よりも、気にならなかったから」
ウツイが、申し訳なそうに答える。ノイズは、頭を抱えたまま、何か考えことをしている。
そして、しばらくすると、ノイズは何かを閃いたかのように、急に立ち上がった。
「どうしたの、ノイズ? 何かわかった?」
マオが、不思議そうな顔をすると、ノイズは自信ありげに、
「分かったんだよ! あの日、どうやってアサを誘拐したのかがな」
と言うと、机の中から、紙とペンを取り出して、教室を、勢いよく出て行った。




