第三十話:あの日の、
「もう、分からないよ!」
朝の授業も終わり、昼休みになって、ノイズは、自分の机の上に突っ伏して、弱音を吐いている。
「どうしたの? やっぱり、いい情報がなかったのが悩ませてる原因?」
「そうだよ。だって、街中で見かけた人がいるんだったら、後は逆算して、アサの通学路を特定すればいいだろ? でも、そもそも情報がないんじゃ、この後の調査を、進めようがないだろ」
ノイズは、投げやりにながら、マオにそう言った。
マオも、どういう助言をすれば、役に立つのか全く分からず、席に座ったまま、静かである。
「あの、実は、まだ言ってないことがあって」
すると、突然後ろからウツイがやってきて、二人に話しかける。
ノイズとマオは突然の来客に驚いて、ウツイに一斉に視線を向けた。
ウツイは、そんな二人の反応に戸惑って、一歩だけ後退する。
「そんな大事なことじゃないよ。ただあの日に私、アサさんと放課後会ったんだよね」
「それは本当か!?」
ノイズは、それを聞くと椅子から飛び上がって、ウツイの手を握り、キラキラした顔をしながら、ウツイの顔を覗き込んだ。
「……そんなに食いつくことかな?」
ウツイは、そんなノイズに引き気味である。
「食いつくよ。そりゃもちろん。で、何があったんだよ?」
ノイズは、そんなことは気にしないで、どんどんと前に前に踏み出して、ウツイと距離を近づけていく。
「話すから。話すから、離れてよ」
ウツイは、ノイズの体を押して、無理矢理距離を取る。そして、ノイズはそのまま自分の席に戻り、席についた。
「あの日のこと、みんな覚えてる?」
「あの日の事? ……あぁ、そういえば、ウツイが食堂で誰かに絡まれてたこと?」
「うん。それ。……実はね、私いじめられてたんだよね。少し前に」
ウツイはいつになく、神妙な面持ちをしている。ノイズとマオは、静かにウツイの話を聞き始めるのだった。
* * *
私は幼い頃から、魔法が使えていた。普通の人が魔法を使えるようになるまでには、それなりの時間、魔法を使う練習をしてから、最短でも魔法が使えるようになるには、半年はかかるとされている。
けれど、私の場合は、魔法という概念を教えられた時には、なんとなくで、すでに魔法が使えていた。どうしてかは分からなかったけど、この時から、私が普通とは違うのがなんとなく理解できた。
それのせいもあって、学校の中では常に浮いた存在になっていた。いつも、嫉妬、恐れの眼差しを向けられていて、友達なんて存在はいなかった。
そのせいで、人との接し方が分からなくなった。簡単にいえば、そういうことだけれど、実際は、私も恐れていた。みんなと同じように、みんなを恐れていた。
だから、みんなの願いはどんなことでも、叶えた。願いというと大げさだけど、宿題を代行するのは日常茶飯事だったし、何かを買ってあげたこともあった。つまり、私はみんなの奴隷だったのだ。
それが私にとっての普通だったし、何よりも、それが私がみんなにすべきことだと思っていた。だから、何だったってできた。ただ、いつからか、それがみんなの為になる事ではないことを悟った。
願いを叶え続けて気づいたけど、彼らは私の願いを叶えてくれることはなかった。ただ、友達になりたかったのに。なりたかったのに。いつからか、奴隷であることを受け入れて、自らにナイフを突き立てていることが正常になったのだ。
だから、私はこの学校に入学することにしたのだ。なぜか、その時の私はルーズコート魔法学校に入学すれば、彼らと別れられると信じていた。今になって思うけど、そう思わないと、自分を保てなくなっていたように思う。それくらいには、奴隷として生きるのが辛かったのだ。
そうして、この学校に入学して、Zクラスに来れて、本当に嬉しかった。これで彼らとお別れだと思っていた。ただ、それは数日で終わった。
私は、自分の部屋で使い魔を飼っていた。飼っていたというよりも、暮らしていたっていう方が正しいんだけれど。その子が、入学式から帰ってきたら、部屋からいなくなっていた。
その時は、あまり気にしていなかった。あの子は、どこかに消えては、夜になると帰ってくる、自由に生きていたから。でも、その日は夜になっても帰ってこなかった。
心配して、あの子が行きそうな所は、全部見て回った。でも、そのどこにも、あの子はいなかった。
部屋に帰ったら、もしかしたら、あの子がいるのかもと思ったけど、そんなことはなかった。
だからといって学校を休むわけにもいかないので、次の日は普通に学校に行った。そして、昼休みになって、食堂に行ったとき、並んでいると、突然話しかけられた。
「なぁ、ウツイちゃん。俺たちのこと覚えてるよな?」
その声は聞いたことのある声だった。振り返ると、彼らがいた。
「ごはん食べ終わったら、校舎裏に行くといいよ。面白いものが見れるから。後、放課後、一年一組に来て。やってほしいことがあるんだよね」
私は、何も言わずに、彼らの言葉を自分の耳に通した。
その時の私は、絶望に近い感情だった気がする。いや、それよりも面白いものというのが、自分の脳裏に思い浮かんでいるものだとすれば、私は彼らを許さないかもしれない。その感情そのものが、私にとって、一番嫌だった。
そして、何事もないと、自分に言い聞かせて、急いで、ごはんを食べ、校舎裏に行った。お願いだから。初めて神様に祈った。
もちろん、祈りは届くことはなかった。




