第二十九話:準備室にて、
ノイズは、次の日、学校の理科準備室へと来ていた。理科準備室の扉を二回ノックし、そのまま中へと入っていく。
中に入ると、そこにはケミスが椅子に座ったまま眠っていた。
「おはよう」
ノイズが扉の所から声をかけると、ケミスはびっくりして、椅子から飛び上がった。そのまま床に尻を打ちつける。
「痛! ……ちょっとさぁ。ノイズ殿、驚かせないでくださいよ」
ケミスは、尻を触りながら、立ち上がって、椅子に座りなおす。
ノイズは、手のひらを合わせながら、
「ごめん。ごめん」
と、軽く謝罪する。
ケミスは、ため息をつきながらも、散らかった机を漁って、一つの本を手に取って、ノイズに手渡すように、本を差し出した。
ノイズは、ケミスの椅子の横まで近づいて、その本を受け取る。
すると、ケミスは、その本を上からめくりながら、あるページの所で手を止めて、貼ってある写真を指さす。
「これでやんす。物質名は正直どうでもいいでやんけど、これを使えば、人間を半ドラゴンにすることができるでやんす」
「へぇ。そうなのか」
「しかも、これは燃料としてよくつかわれるでやんすから、入手難易度もそこまで高くはないようでやんす」
ノイズは、ケミスの話を聞きながら、そのページの隅から隅までを確認していく。
「へぇ。これ機械人形によく用いられるのか」
「そうらしいでやんすね。だから、人形に燃料を補給するには、特別な場所を借りて行う人も多いらしいでやんす。まぁ、少量だと、人間の抗体がどうにかしてくれるでやんすけどね」
「そうなのか。ありがとうな。忙しいところ、こんなことしてくれて」
ノイズが感謝を述べると、ケミスはめんどくさそうな顔をしながら、
「そうでやんすよ。最近は人の身長をいじれる薬を作ってるでやんす。その研究が全然終わってないでやんすから。その作業を放置して探してあげたんですから。一応、これなんでやんすけど」
ケミスは、そう言いながら、目の前の試験管を指さす。そこには桃色の液体が入っていて、少し泡を立てている。
「なんか、変な色をしてるな」
ノイズは、苦笑しながら、その試験管を見つめている。しかし、ケミスは、不服そうな顔をしながら、
「そんな言葉で済ますでやんすか! 僕の叡智の結晶を・・・・・・」
「ごめんよ。そんな悲しい顔するなよ」
「まぁ、いいでやんすよ。べつにおこってないでやんすし。そういえば、誰が犯人かはもう分かったでやんすか?」
ノイズは、それを聞かれて、少し悩んだ後、
「まぁ、検討はついてるな」
と、冷静に答えるのだった。
「それなら、よかったでやんす。僕も役に立てたみたいでやんすからね」
「あぁ、感謝してるよ」
ケミスは、椅子の上を回りながら、ノイズから背を向けて、部屋の奥にある小さい窓の外を眺めている。
「それじゃあな。ホームルーム遅れるなよ」
ノイズは、そう言いながら部屋の外に出ようとテクテクと歩いていく。ケミスは、何かを言うわけでもなく、ただ窓の外の青空を眺めていた。
ノイズはそのまま部屋の外に出て、教室へと向かった。
ノイズが、教室に着くと、すでにドラコと、テンシとモノが席に座っていた。
「おはよう」
ノイズは、教室に向かって挨拶をする。
「おはよう」
テンシとモノは声を揃えて、そのあてのない挨拶に返答する。
そして、テンシはゆっくりと席を立って、ノイズの所へてくてくと近づいてくる。
そして、ノイズの隣までやってくると、その邪魔だと思うぐらいの大きさの天使の羽を縮こませながら、
「実はね、昨日みんなでアサちゃんの情報を調べたんだけど、何も得られなかったんだよね」
「えっ。それって本当? ほとんどの人に聞いた?」
ノイズは、少しくらい、例えば一人か、二人くらいはアサの事を見ている情報があってもおかしくはないと思っていた。
だから、その情報は、ノイズからすれば予想外のことだったのである。
「昨日はみんな、夜遅くまで、いろいろな人に聞いて回ったんだけど、本当にいなかったんだよ。ごめんね、ノイズくん。役に立てなくて」
テンシは何度も何度も、ノイズに向かって謝り続けるのだった。
ノイズは、それをなだめながらも、何一つとして情報が残っていないことに焦りを覚えるのだった。




