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天才少年は魔法が使えないけれど、  作者: 阿田 雨
第一章
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第二十八話:昔話を


「ここで待っていてください。お茶を持ってきます」


 女性は、そう言いながら二つの椅子にノイズと機械仕掛けを座らせて、台所の方に消えていった。


「絶対に無理だと思ったのに、流石だね。私が期待してるだけあるね」

「いや、簡単だ。あの人は家族思いの人間だ。廊下に大きい家族写真が飾ってあった。そこから家族思いの人なのは簡単にわかる。にもかかわらず、捜索願を出していないのは変なんだ。となれば、公的機関に頼むのは難しく、また探偵も雇えないのだとしたら、僕たちが探し出すのをエサに釣ればいい」

「あの瞬間で、そこまで考えてたんだ。へぇ」

「たまたまだ。あれで閉め出されてもおかしくはなかったからな」


 二人は、女性に聞かれないようにこそこそと会話をする。


 家の中の雰囲気はとても暗かった。日が沈みかけているというのに、灯りをつけている訳でもなく、冷たい空気が部屋全体を支配していた。


 そして、しばらくの間待っていると、女性がお茶の入ったグラスを二つ持ってきて、テーブルの上に並べる。その女性は、そのまま二人とは反対側に座る。


 しかし、女性はすぐに話を始める訳ではなく、二人がお茶を飲んで一息つくのを待ってから、口をゆっくりと開いた。


「私たちの家系は元々、暗殺者の家系なのです」

「はぁ」


 ノイズは、そう言いながら、小さくうなずいた。


「ですが、アサはなりたくないようでしたがね」

「どうしてなんですか? なにかあったんですか?」

「まぁ、いろいろありましたが、なりたくない決め手になったのは、娘が最初で最後の暗殺の時だったでしょうか」


 ノイズと機械仕掛けは、お互いの顔を見合った後、身を乗り出して、その話を聞く姿勢を構えた。


 * * *


「お母さん。私は、家業は継がないから」


 そう娘が言ってきたのは、初めての暗殺から帰ってきて、次の日のことだった。


 私は、いつも通り台所で朝ごはんを作っている途中だった。包丁を握って、食材を切っていたが、それを聞いた途端、私は衝撃のあまり、手が止まってしまった。


 私は、手に握りしめていた包丁をゆっくりとまな板に置き、横を振り向いて、娘の方に顔を向けた。


「それは、どういうこと?」


 私は、できるだけいつも通りに接しようとした。娘はずっと前から、暗殺者として生きるための知識を教え込んできた。そして、立派な暗殺者になるために、昨日は初めて一人で依頼をこなしてもらったのだ。これで、娘も、私と同じような、それ以上の暗殺者になれる。そうすれば、自分の娘の将来は、確実なものとなる。


 ずっと、そう考えてきた。娘は私と同じようになる。そう信じて疑わなかった。だから、自分の娘を縛り続けてきた。縛る事こそが、真に自分の娘のためになる事だと。


 しかし、そんなことはしたくないと、面と向かって言われると、自分の今までが否定されたような気がした。いや、否定されたのだ。


「そのまんまの意味です。私には、もう人は殺せません」

「そういうことではなく、なぜなのですか?」


 多分、この時の私は、とても怖い顔をしていたはずです。けれど、それが認識できないほど、私の心は揺れ動いていました。


 娘は、少しだけ顔を私から背けて、


「昨日、殺した人間には家族がいました。けれど、私はそれを壊してしまったのです。どこからともなく現れて、綺麗に並べたドミノを途中で崩してしまったかのように。一つ崩せば、全てが倒れていき、崩壊するんです。もう私には、そんな事……」


 娘はそこまで言うと、膝から崩れ落ちるようにうずくまって、静かに泣き始めました。


 そこで気づきました。私は、すでに人の心を失っていたのです。家族を大切にしようと考えていたはずなのに。


 正しいと思ってきました。私も幼い頃から、そうやって教わってきたから。だから、疑うことを止めて、思考を停止させて、依頼という看板を借りて、ただひたすらに殺してきた。


 私は、娘に私の普通を押し付けていたのです。押し付けて、押し付けて、押し込んで。私は、自分の娘を殺そうとしていたのです。


 ですが、あの子は強かった。私の殺意を受け入れて、なおも自分を持っていたのです。


 娘は、その後も泣き続けました。そして、私はそんな娘に何といえばいいのか分かりませんでした。


 私は、どこかで落としたはずの物を拾えないまま、娘が泣き止むのを待ち続けました。


 待つことしかできなかった。


 * * *


「それから三日ほど経って、娘は魔法学校に通いたいと言いだしました。だから、私はそれを言われるがままに、許可しました。なぜ魔法学校なのかは分かりませんでしたが」


 アサの母親が、そこまで言い終わると、しばしの沈黙が始まった。


 ノイズと機械仕掛けはお互いのことをしばらく横目で見合い、少し申し訳ない顔をしている。


「あの。殺した人間がどんな人間だったかは知りませんか?」


 機械仕掛けは、勇気を出して、さらに身を乗り出して、母親に質問する。


「それなら、娘の部屋のどこかに顔写真を保存しているはずです。忘れないために。案内しますよ」


 母親はそう言って、席を立って、二人を二階に連れていく。


 そして、二階の一番奥の部屋の前まで、二人を案内すると、扉を開けて、


「中へどうぞ」


 そう言って、部屋の中へ、二人を入れた。


 部屋の中は、思っていた以上に散らかっていた。特に印象的だったのは、壁には無数の赤い点があることだった。


 床には、様々な紙が散らばっていて、足を踏み入れるのをためらう程だった。しかし、入ってきて、すぐに目がいってしまうほど、ベッドの上の天井には、大きな写真が貼ってあった。


 母親は、その写真を指さして、


「あれが、娘の最初で、最後の被害者です」


 と、言った。ノイズと機械仕掛けは、その写真を目に焼き付けるかのように、ただ眺めていた。


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