二十四話:保健室にて、
「お見舞いに来たよ!」
保健室の扉から、マオが元気いっぱいに現れる。
保健室にいた生徒たちが、一斉にマオの方に視線を集める。教員も驚いて、少し止まっていたが、すぐにマオに近づいて、静かにするように注意するのだった。
「すいませんでした。ノイズはどこにいますか?」
マオは、丁寧に謝る。そして、ノイズの休んでいるベッドまで案内される。ノイズの休んでいるベッドの周りはカーテンで囲まれていて、中は見ることはできなかった。
マオは、恐る恐るカーテンを開く。そこには、家でくつろぐように、寝ているノイズの姿がそこにはあった。ケガは大したことがないのか、痛がっている訳でもなく、一冊の本を読んでいた。
「何してるの?」
マオは、安堵の表情を一瞬浮かべたものの、すぐに呆れた顔をするのだった。
「本を読んでるんだ。見ればわかるだろ?」
「分かるけどさ」
マオは、近くにあった椅子に座る。
「結構心配だったんだよ。何だか意味なかったみたいだったね」
「心配してくれてありがとうな」
ノイズは、マオに感謝をすると、本を閉じて、体をゆっくりと起こす。
「そういえば、あの後は大丈夫だったのか?」
「ウツイさんが、魔法で元通りにしてくれたよ。その後は普通に授業があったよ。初めて授業ってものを受けたけど、あんなにも、面白い物だったとは知らなかったよ」
「そっか。お前の家庭も何だか複雑そうだな」
マオは、その言葉を聞いて、怪訝そうな顔をする。
「どういうこと?」
ノイズは、そのさまがおかしくて、微笑む。
「ちょっと笑わないでよ! というかどうして笑ってるのかぐらいは教えてよ!」
マオは、ノイズの体を揺らしながら、不満そうな顔をする。ノイズの笑い声は、どんどんと大きくなる。
次の瞬間、カーテンが大きく開かれる。そこには、アンドとグレンの姿があった。
「いちゃつくなって。一応ここは保健室だぞ」
グレンは、二人の様子を微笑みながら、注意をする。
ノイズとマオは恥ずかしくなって、ゆっくりと距離をとっていく。
「荷物だ」
アンドは、片手で持った鞄を目の前に持ってくる。ノイズはベットの上でそれを受け取る。
「ありがとうな、アンド」
「担任に頼まれた。そしたら、この男もついてくると言ってきて、二人で来た」
アンドは冷たく、ノイズに報告する。冷たいというよりも、こういう時にどういう顔をすればいいのか、分からないだけのような気もするが。
「そんな冷たくすんなよ。そんなことよりも、ノイズが元気そうでよかったよ」
「別にどうってことはないよ。二人とも本当にありがとう」
ノイズは、ベッドの上で、二人にお辞儀する。グレンは、少し嬉しそうな顔をしている。
「褒められることはしていない。担任に頼まれただけだからな」
しかし、アンドは、変わらず冷たかった。グレンは、そんなアンドの肩を組んで、
「そんなこと言うなよ。これから一緒にクラスとして生活していくわけなんだから、もっと仲良くしていこうぜ! そうだ。俺と一緒に帰らないか?」
「すまないが、今日は用事があるんだ」
アンドは、グレンの手を除けると、そのまま帰っていく。グレンは、急いで荷物を持って、
「それじゃあな、ノイズ。ちゃんと元気になれよ」
そう言いながら、アンドの後を追っていく。そんな二人を見ながら、マオとノイズは可笑しくて、笑ってしまうのだった。
「そろそろ、私も帰るね。また明日」
そして、マオも帰ろうと、荷物を持って椅子から立とうとした。しかし、ノイズは、そんなマオの手を掴んで、
「ちょっと待ってくれ」
と、深刻そうな顔で言うのだった。マオは、そんなノイズの姿を見たことがなく、一瞬身動きが止まってしまうが、もう一度椅子に座りなおす。
「どうしたの? もしかして、アサさんの事が気になってるの?」
マオがそう聞くと、ノイズは、ゆっくりと頷く。
「あいつは、このままでも帰ってくると思うか?」
「……それってどういうこと?」
「アサは、このままいなくなっちゃうんじゃないかと思うんだ。何もしないままだったらな」
マオは、ノイズの話をただ静かに聞いていた。
「なぁ、マオ。二人で、アサの事を探さないか?」
「……ううん。二人じゃだめだよ。私たちができる事なんて、そんなにあるわけじゃないしね。ましてや、人を救うのなんて、できっこないよ」
「そっか……」
ノイズは、マオの話を聞いて、肩を落としている。マオも、そんな話をしてしまって少し後悔しているのか、悲しげな雰囲気を漂わせながら、うつむいている。
マオは、大きく息を吸い込むと、
「でもね、みんなと一緒なら。一緒なら、何でもできると思うんだ!」
「えっ?」
「私は、いつも一人だったから、誰か助けてくれるわけでもなかったけど。でも、ここには私を含めて十五人のクラスメイトがいるんだよ! そうしたら、何でもできるよ。二人だけとか、たった一人で抱え込むぐらいだったら、みんなで一緒にアサさんのこと探そうよ!」
マオは、一生懸命になりながら、ノイズに自分の思いをぶつける。ノイズは、そんな姿を見て、驚くも、すぐに大声で笑い出した。
「ちょっとどうしたの? 今の笑い所じゃないでしょ?」
マオは、そんなノイズに完全に困惑している。
「いや。何でもないよ。そんな真面目に言われても、困るよ。でも、確かにそうだよな。……うん。そうだよな。よし! 明日から、あいつのことを探すぞ」
ノイズはそう言いながら、マオの頭に両手を添えて、髪の毛をくしゃくしゃにしていく。
「ちょっと、急にどうしたんだってば」
マオは、その手を除ける訳でもなく、しばらくの間、ノイズと笑いあっていた。




