第十八話:眺めて、
「もう無理。走れないとか、そんなんじゃない。死ぬ。これ以上走り続けたら、確実にあの世に行ける」
ノイズは、息を切らしながら、地面にはいつくばって、死にかけている。
その先では、シャトルランが行われていた。遠くの方から、十一、と叫ぶ声が聞こえてくる。
「なんであいつら、あれだけ走れるんだよ」
ノイズは、目の前の生徒たちを恨めしそうに眺めていた。あの後、砲丸投げや、五十メートル走などの外でやる競技のほとんどが終わると、最後に残っていたシャトルランを、生徒全員で行っていた。
「そうでやんすよね」
隣には、体育座りをしながら、冷静にシャトルランをする生徒たちを見ているケミスがいる。
「ケミスに関していえば、まだ走れただろ?」
「いやいや、そんなことはないでやんすよ。おっ! よく見てください、ノイズ殿。Zクラスの女子たちが健気に走ってるでやんす。まだまだ、みんな余裕があるみたいでやんすね。このまま余裕がなくなって、汗だくになりながら、走るところをここから見られると思うと、心地いいでやんすね」
ケミスは、必死に女子たちを目で追いながら、少し興奮したように、ノイズに説明する。
ノイズは、そんなケミスに若干引き気味である。
「そうか。それならよかったよ」
「早く、ノイズ殿も、マオ殿をしっかりと見ていた方がいいと思いますでやんすよ」
ノイズは、少し息が整ってきたので、ケミスの隣に座りなおす。
「なんでだよ?」
「そのまんまの意味でやんすよ」
「そのまんまってどういうことだよ?」
「ちゃんと見ていないと、誰かにとられちゃうでやんすよ」
ノイズは、少し照れたのか、顔がほんのりと赤くなる。
「とられるって、まるで僕が、マオが好きみたいじゃないか」
「好きなんでしょう? ひとめぼれというやつでやんす。でも、あの子は、目の前からふいに消えちゃいそうでやんすよね?」
遠くの方から、二十回であることを告げる声が聞こえてくる。
「そうか? それだけはないと思うぞ」
「そうでやんすか? まぁ、ノイズ殿が言うのであれば、そうなんでやんすね」
ノイズは、シャトルランをぼんやり見ていると、ケミスが、ノイズの肩を叩く。
「どうしたんだよ?」
「見てくださいでやんす。あそこの奥の方にいる、可愛らしくて、小さいした子を」
ノイズは、目を凝らして、ケミスの指さした方を見る。そこには、健気に走り続けている少女が見えた。ケミスの言うように、小さい翼を生やしている。
「あの子がどうかしたのか?」
「知らないでやんすか? あの子は、自分たちのクラスのサキちゃんでやんす」
「へぇ。そうなんだ」
「興味なさそうでやんすね。まぁ、興味がなくても教えるでやんすけどね。彼女は、一般的なサキュバスよりも、人間の血が多く入っているので、非力でありながらも、よ……」
「それ以上は、大丈夫だぞ」
ノイズが、ケミスを止めてると、ケミスは迫真の顔で、ノイズの目を見つめる。
「この先が大事なんでやんすよ」
「全然、そう思わないけどな。というか、もう全員の事を知ってるのか?」
「もちろんでやんす。例えば、真ん中あたりで、もうすぐリタイアしそうな子が、ネクロちゃんでやんす」
ケミスはそう言いながら、にやにやしながら、ネクロの方を指さす。
「へぇ。どんな子なんだ?」
「ネクロちゃんは、簡潔に言えば、全てが小さい所が特徴でやんす。そういう所に、へ……」
「それ以上はいいぞ。多分汚い考えでもしてるんだろ」
ケミスは、再びノイズの顔を迫真の顔で見つめる。
「ここからが重要なんでやんすよ。なんで分からないでやんすか?」
「分かりたくもないよ」
ノイズは、そう言って、シャトルランを呆然と見ていた。その隣にいたケミスは目を輝かせながら、走っている人たちを眺めている。
「一応、他にも推しの子がいるんでやんすが、紹介してもいいでやんすか?」
「いいよ。他にはどんな子がいるのか知りたいし」
遠くから、六十二回を告げる声が聞こえる。ケミスは、手前側にいる女の子を指さす。
「彼女が、モノでやんす。あのケモ耳は天然ものでやんす。尻尾も犬みたいでかわいいでやんす」
「それ以上は言わなくて大丈夫だぞ」
「まだ何も言ってないでやんすよ? ノイズ殿はどんなことを妄想されていたんですかな?」
ケミスは、いやらしい顔をして、ノイズが何を言うのかを楽しんでいる様子だった。ノイズは、顔を赤らめながら、
「何でもないよ!」
と、強く言って、ケミスから顔をそらすのだった。




