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天才少年は魔法が使えないけれど、  作者: 阿田 雨
第一章
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第十二話:掃除


 あの後は何事もなく、教科書を配られ、今日は帰宅ということになった。


 しかし、ノイズを含めた遅刻組とグレンは体育館に来ていた。


「この量を六人かぁ」


 ノイズは、体育館を入口から見渡し、その量の多さに、肩をすくめた。


「まぁ、とりあえず分担しようか」


 隣から、竜人が眼鏡を上げながら冷静に言う。


「そういえば、あなたの名前聞いてないね。せっかくだし、教えてよ」


 後ろから、テンシがひょいと顔を出しながら、竜人の顔を見つめる。


「……確かにな。私はドラコだ。よろしく」


 ドラコは再び、眼鏡を上げながら、自己紹介をする。


 すると、ノイズが気合を入れるために、手を叩く。


「よし。それじゃあ、僕とマオとグレンで前の方やるから、テンシとウツイとドラコは後ろの方をやろうか」

「うん。それでいいよ」


 テンシが元気に返事をする。そして、周りの様子をきょろきょろと確認する。他の人も納得したような顔をしている。


「それじゃあ、みんなで頑張ってやろー!えい。えい。おー!」


 テンシはそう言いながら、拳を天高く突き上げた。マオとグレンもそれに続く。他の三人も遅れて、ためらいながらも、拳をあげるのだった。


 ノイズとマオは、体育館の前側に並べられた生徒ようの椅子を、ステージの前に待機したグレンの所へと運ぶ。そして、グレンはステージ下に空いた穴に椅子をどんどんと並べていく。


「もう疲れてきたなぁ」


 ノイズは、始まってから十分経った頃、少し休憩するために片づけなくてはならない椅子に座る。


 一方のマオは、疲れなど知らないのか、一度に四脚の椅子をせっせと運んでいく。


「なんで、すぐにスタミナ切れちゃうのかな?」


 マオがノイズの方に近づいて、不思議そうな顔をしながら、そう聞いてくる。


「僕は、あんまり体力がないんだよね。あんだけ父親の作業を手伝ったはずなんだけどね。最近、運動してなかったから、体が鈍ってきたのかも」

「うーん。そういうことなのかな。でも、体力はつけた方がいいよ! 今日の放課後、私の部屋まで来て、そうしたら一緒に走ってあげるから!」


 ノイズはそれを聞いて、すぐに断ろうと思い、顔をあげると、そこには満面の笑みを浮かべた、善意に満ち溢れたマオがいた。


「わかった」


 それをみたノイズはすぐにそう返事をしてしまうのだった。折角、教科書を読みこんでこようと思ったのに、これは早くは帰してくれなさそうだった。


 そうして、椅子を運び終え、体育館の掃き掃除も終わり、六人が体育館の外に集まった。マオが背伸びをしながら、


「ようやく、終わったね!でも楽しかったなぁ」


 と、達成感にあふれた、満足した顔を浮かべている。


「確かにな。みんなと一緒にやるのは楽しかったぜ。特に、ウツイの魔法で箒を操ってくれたおかげで、思ったよりも掃き掃除が速く終わったよ。さすがだな」


 グレンはそう言いながら、ウツイの肩を組む。


「そんなことないですよ」


 ウツイは照れながらも、その声色はどこか嬉しそうだった。


「それでは、また明日会おうか。さようなら」


 ドラコは眼鏡を上げながらそう言うと、すたすたと帰っていく。


「じゃあ、私も帰るね。みんなまた明日」

「うん。また明日」


 テンシが手を振りながら、帰っていく。ノイズたちも手を振り返す。


 そうして、テンシが見えなくなると、


「それじゃあ、私も帰ります」

「おっ。じゃあ、俺も一緒に帰ろうかな。ノイズたちはどうする? 一緒に帰るか?」

「いや、俺たちはまだ帰らない。先に帰ってていいよ」

「そうか分かった。それじゃあまた明日」


 グレンとウツイも帰っていく。ノイズは、その後姿を見ながら、手を振る。なんとなく、二人は良い感じの関係性になりそうな気がした。


「よし。それじゃあ、マオ。職員室行くぞ」

「うん」


 ノイズとマオはそう言うと、校舎の方を振り返り、職員室を目指した。


「多分だけど、ティーチ先生の方が貼り忘れたんだと思ってるんだが、何でそんなに悩んでるんだ?話をしに行くのが恥ずかしいとか?」


 ノイズとマオは、職員室に行く途中、ノイズがマオに質問を投げかけた。


「うーん。確かにそれもあるけど、何か変な所がある気がするんだよね……」


 マオは、確証はないが、何か引っかかるものがあるらしい。


 そんな話をしていると、すぐに職員室に着いた。


 マオは職員室の閉められた扉をこんこんと叩く。そうして、扉をゆっくりと開く。


「すいません。ティーチ先生はいらっしゃいますか」


 マオが大声で言うと、一番奥の窓際に座っていたティーチ先生が、積まれた書類の上から顔をひょいと出す。そして、席を立ち、こちらに近づいてくる。


「何かな? 私に用事があるって」


 ティーチ先生は、なぜ呼ばれたのかは分かっていないようだった。


「実は、体育館の集合の紙が貼られていなかった件に聞きたいことがあるんです」


 そこまで言うと、ティーチ先生の顔がどんどん青ざめていく。


「あぁ。そのこと……。うん。誰だろうなぁ。貼り忘れたの。私は担当じゃないんだけどな……」


 ティーチ先生は、生徒たちの目を見ないように、あらぬ方向に顔を向けながら、そう答えた。


 ノイズは呆れて、ため息をつくと、


「先生が犯人なんですね」


 と、冷然と告げるのだった。ティーチ先生は、


「いやぁ。犯人というか。だって貼ったはずなんだけどね。なんか、貼られてなかったというか」


 と、指と指をつんつんさせながら、苦し紛れの言い訳を繰り返すのだった。


「先生。みっともないですよ」


 マオが、ティーチ先生に冷たい一言を放つ。


 ティーチ先生も、その一言に心を砕かれて、しょんぼりした様子になる。


「ごめんね。全部、私が悪いの。昨日貼ったはずなんだけど、貼り忘れてたみたい。明日、ちゃんとみんなに謝るから。今日はありがとうね」


 肩を落しながら、そう言うと、自分の席にゆっくりと帰っていくのだった。


「なんか、可哀そうだな」

「うん。なんだかこっちが悪い気分になってきちゃった」

「まぁ、いいじゃねぇか、マオ。とりあえず一件落着だ。さっさと帰ろう」

「うん!いいよ。そういえば、一緒に体を動かす話は終わってないからね。ちゃんと、準備し終わったら、私の部屋に来るんだよ。分かったね?」


 マオがそう言うと、ノイズはすぐに帰宅するために歩きはじめる。マオもそれに続く。


「まぁ……。考えておく」


 ノイズは、マオの顔を見ないで、それだけ言うのだった。


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