第十話:間に
「空で飛べば、三分でつく。飛べない者は誰かいるか?」
竜人はすでに窓を開け、窓枠に手をかけ、今すぐにでも、飛び出そうとしていた。
「私も飛べるよ」
そう言いながら、天使の翼を生やした少女は、席を立ち、窓を開ける。
「私は箒があるから、飛べます」
ウツイはそう言いながら、どこからともなく箒を魔法で取り出す。
「私飛べないよ!」
マオは慌てながら、頭を抱えている。さっきまでの悲しげな雰囲気は消えて、いつものマオに戻ったように見える。
「それなら、私が連れて行こう。そこの男はどうなんだ?」
「僕も飛べない。誰か連れて行ってくれないか?」
「それなら、私と一緒に行こうね」
竜人は慌てて近づいてきたマオを抱きしめると、一気に窓から外に飛び去っていく。
それに続いて、ウツイもほうきにまたがると、そのまま空へと飛び去っていく。
ノイズも急いで、天使の翼の生えた少女の下に駆け寄る。
「それじゃ、行こうね」
少女は、ノイズの手を握ると、そのまま空に駆けていく。
一度も空に飛んだことのなかったノイズは、最初のうちは目をつむっていた。しかし、飛んでいるうちに慣れてきた。
「絶対に手は離さないでね。ぺちゃんこになっちゃうからね」
少女は、急に物騒な事を言うので、ノイズは余計に怖くなり、逆に不安定になってしまう。
「後、自己紹介してなかったね。私、テンシって言います。名前の通り、天使です。よろしくね。ノイズくん」
少女は、前を向きながら、ノイズに自己紹介をする。
しかし、ノイズの頭は空を飛ぶという慣れないことに頑張って体を安定させようと意識することと、風が強すぎる事でいっぱいになっていて、その自己紹介は頭に入ってこないのだった。
ティーチはそわそわしていた。自分の担当するZクラスの生徒たちとこれから向き合っていく事への不安。そして、時間になっても自分のクラスの生徒たちがそろっていない事。その二つの事柄が、ティーチという一人の教師をそわそわさせている原因だった。
「ティーチ先生。少し、そわそわしすぎです。落ち着いてください」
隣の先生が、ティーチに向かって小声で耳打ちする。
ティーチは自分の様子が変だったことに気づき、少し顔を赤くする。
すでに入学式は始まっていた。校長の話が始まって数分が経過している。
その時だった。体育館の扉が勢いよく開かれた。そこには、五人の生徒の姿があった。
周りにいた保護者や、生徒、そして教員までもがその五人に視線が向かっている。
「すでに始まっていたか」
竜人は眼鏡を上げながら、ぼそっと呟く。ウツイやノイズも気まずさを感じ、誰とも視線が合わないように、顔を横に向ける。
「遅れてすいませんでした!」
マオは、体育館に響きわたる声で、謝罪をする。
校長は、ばつが悪そうな顔をしている。少し怒っているのか、肩を小刻みに震わせている。
「入学式からの遅刻ありがとうございます。Zクラスの生徒の皆さま。とりあえず、前方の方にあなた方の席がありますので、そちらに座りなさい」
校長は遅刻した生徒たちの事を皮肉りながらも、席に座るように指示をする。
五人は早歩きで席に向かった。
そうして、事件が発生しながらも、入学式は終わった。途中、どこからか笑い声が聞こえてくることがあり、ノイズはそれが恥ずかしくたまらなくなり、拳を自分の膝の上で握りしめながら、うつむいていた。
魔法学校の生徒たちは一組、二組と順番に教室に向かっていく。
その生徒たちの中には、Zクラスの生徒たちを見てクスクスと笑う人もいた。
「なんで笑うのかなぁ」
ノイズの隣の席に座っていたマオが、後ろを見ながら、不満そうにつぶやく。
「入学して初日から遅刻する奴なんて笑われて当然だろ」
ノイズは、大きくため息をつく。そして、背もたれによりかかり、腕を組みながら、天井を見つめる。
初日から遅刻とか、最悪だなぁ。
そんなことを考えていると、マオがノイズの肩を叩く。
「ねぇねぇ。あの紙が貼られてなかったのって何か変じゃない?」
マオは、ノイズの方を向いて、そんな話をし始める。
「何一つとして、変じゃねぇよ。たまたま誰か貼り忘れたんだろ。そんなことで怒ってたら、人生つまんなくなるぞ」
ノイズは呆れながら、答える。しかし、マオは納得できていないのか、頭を左右に揺らしている。
ある程度、生徒と保護者もほとんど帰り、Zクラスの生徒たちも教室に戻ろうと立ち上がると、校長先生がこちらに詰め寄って来た。
「さっき遅刻した生徒は誰かな?」
校長先生はZクラスの生徒たちの前に腕を組みながら立っている。
「私たちです」
マオ軽く返事をする。そして、正直に言うつもりはなかったのに、マオに指を指されたノイズは驚いて、マオの顔を直視する。
「後、私とテンシさん、ウツイさんもです」
竜人は、静かに立ち上がり、そう答えた。
「よし。その生徒たちはこれから行われる教科書配布等が終わり次第、体育館に集合し、体育館の片づけをすること。分かったか?」
「えぇ。嫌だなぁ」
それを聞いたノイズは思わず本音が漏れてしまった。
「嫌か。そんなに嫌なら、退学するか?」
校長のその言葉にはとてつもない圧力を感じさせた。
「やらさせていただきます」
ノイズは、顔を引きつらせながらも、笑顔で返事をした。




