第28話 謀 略③
ハロルド達が尋問室に入ると、すでに拘束されたアドルとニュンヘル、ギャンが部屋の隅に座らせられていた。
彼らの後ろには拘束するための手枷が壁に垂れ下がっていたが、彼らは紐で手を縛られていただけであった。
3人はサバルの顔を見て息を飲む。騎士団の副団長であり、自分達が所属する第1部隊の隊長が顔を腫らしているのだから当然だろう。
「閣下、なぜ私達が、……サバル隊長!」
アドルは理由を聞こうとしたが、サバルからこれまでにないほど憎しみの籠った目で睨まれていることに気が付いた。
「お前たちは俺に嘘の報告をしやがって、覚悟は出来ているんだろうなぁ!」
そう話しながら近づいて来るサバルを見て彼らは恐怖で震え上がる。
怒りで血圧が上がり、腫れ上がった顔から止まっていた血が再び出血し、顔のあちこちから血が流れだして、悪魔のような顔になっていたのである。
「な、なんのことか、」
バキィーーー!
アドルが惚けようとした瞬間に、サバルの蹴りがアドルの顔に入った。その蹴りでアドルから衝撃的な音をする。
「こひゅー、こひゅー」
サバルの蹴りを顔面に受けたアドルは、顎が砕けてまともな呼吸が出来なくなり、異様な音を響かせながら必死に呼吸をする。
「おいおい、それではすぐに死んでしまうぞ」
「閣下、申し訳ありませんが、ポーションを出来るだけ多く譲っては貰えませんか。費用は私個人でお支払いします」
ハロルドに注意されると、サバルは自腹でポーションを買うと言い出した。
「何本ぐらい必要じゃ?」
「金貨で100枚分お願いできませんか?」
ハロルドは少し考えてから答える。
「……そうじゃなぁ、取り敢えず金貨50枚で60本用意させよう。それでどうじゃ?」
「はい、それでお願いします。もし足りないときは相談させてください」
サバルは頭を下げながら、ハロルドにお礼とお願いをする。
「わかった、それより、尋問の前にアドルが死んでしまうぞ。これを使え!」
ハロルドは答えると、腰のベルトのケースから密閉型のポーションを取り出して、サバルに投げ渡した。
「有り難うございます」
ポーションを受け取るとアドルの口の中にポーションを入れる。すぐにアドルの呼吸は楽になったようだが、1本では完全には回復しなかった。
その間にハロルドは騎士にポーションを取りに行かせる。
サバルは気にすることなく、ニュンヘルに顔を近づけ話す。
「先日の冒険者の尋問はお前たちも見たはずだし、お前達にも殴らせてやったろ。今度はお前達の番だよ、ふっふっふ」
サバルは狂ったのではないかと錯覚するほど狂喜に満ちた笑顔を見せる。
ニュンヘルは怯えて地面に頭を擦り付けながら訴える。
「も、申し訳ありません! 彼女たちだけ訓練をしていると思ったら、腹が立って嘘をついてしまいました」
それを聞いたサバルは、ニュンヘルの髪の毛を掴んで持ち上げると、顔を自分の顔の近くまで持ち上げて言う。
「そんな事の為に、仲間を貶めて騎士団に不和を持ち込んだのか? なら間違いなく極刑だなぁ」
バキィ、ボコ、バキィ、ボコ、バキィ、ボコ。
サバルは言い終わると同時にニュンヘルを何度も殴りつける。右、左、右、左と規則正しく左右の拳を使って連続で殴りつける。まるでエルマイスター家のお家芸でもあるように………。
「かひゅー、かひゅー」
殴られたニュンヘルは、鼻が潰され頬の骨が陥没して何本もの歯が折れてしまい、アドルとは少し違う異音を出して呼吸している。
「サバルよ、まだポーションの追加が来ておらん。もう少し抑えて、」
その時ポーションを取りに行かした騎士が、60本入りのポーション箱を持って戻って来た。
「おお、ポーションが来たぞ。これで遠慮はいらんな。おいお前、サバルが尋問したらポーションで治療してやれ!」
ポーションを運んできた騎士は箱を開けるとニュンヘルの治療をする。
サバルはそれを少し見て、次はギャンの方に移動する。
それを見たギャンは真っ青になり、サバルから目を逸らしてハロルドに訴える。
「閣下、すべてお話しします。私はカービン伯爵家の依頼でエルマイスター家の騎士団に入った者です。そこのアドルさんがまとめ役で、騎士団を混乱させるように言われて仕方なく、嘘の報告をしてしまいました」
ギャンが必死に説明をしている間に、サバルが近づいて来てギャンの髪の毛を鷲掴みにする。
「わ、私は仕方なく、……イタッ、報酬を定期的に受け取ってましたので、今さら断ることもできず、イタッ、何かするように言われたのは今回が初めてです!」
バキィ。
サバルは1発だけ殴るとハロルドを見る。
「これは面白くなってきたのぅ。しかし、カービン伯爵家とは特に諍いがあるわけでもないのに、変じゃのぅ」
ハロルドは楽しそうに話すが、目は笑っていなかった。
「閣下、カービン伯爵家とは王都に行く途中で立ち寄る程度、カービン伯爵家がエルマイスター家に密偵を送るとは解せません!」
アランがそう話すとハロルドは考え込む。
「確かアドルとニュンヘル、ギャンは冒険者としてプレイルに来て、その後騎士に採用されたはずです。アドルの妻は外から一緒に来ましたが、ニュンヘルとギャンは騎士になってから結婚していたはずです」
アランの話を聞いてハロルドは顔を上げて話をする。
「少しでも話に違いが出たら指でも手足でも切り落としてやれ。片目は残して置けよ、家族の尋問を見せないとダメじゃからな!」
「「はいっ」」
アランとサバルは大きな声で返事する。
「それと他の仲間が居ないか至急確認せよ!」
「「はいっ」」
「儂はアタルとクレアたちの所に行く、彼らに謝罪をせんとな」
「「申し訳ありません!」」
アランとサバルの返事を聞くと、ハロルドは部屋を出てアタルの所に向かうのであった。
◇ ◇ ◇ ◇
孤児院の子供たちと一緒に昼を食べ終わり、クレアさん達と待機所に戻って来た。
中に入るとハロルド様が、ラナさんにお茶を入れて貰い、テーブルに座って飲んでいた。
「おう、勝手に中に入らせて貰ったぞ」
ハロルド様は軽く右手を上げて話した。
「いえいえ、ご遠慮なく。それより今日はどうされたのですか?」
するとハロルド様が突然テーブルに手を付いて頭を下げた。
「今回はアランとサバルがアタルに迷惑を掛けた。それにクレアたちにも迷惑を掛けて申し訳ない!」
突然の事で焦ってしまう。
「えっ、えっ、ど、どういう事ですか?」
私だけでなくクレアさん達も驚いているようだ。その後、何があったのかハロルド様が詳しく話してくれた。
密偵とか凄いなぁ。
話を聞いて、変な事に感心してしまう。
しかし、この世界は思った以上に複雑と言うか大変だと思う。教会や冒険者ギルド、他の貴族や商業ギルドも少し怪しいし、腐敗と言うか権謀術策と言うか……。
「それで、まだ他にも変なのが紛れている可能性もある。クレアたちに迷惑を掛けたが、アタルの事をしっかり守ってやってくれ」
「はい、お任せください!」
うん、女性に守られるのは情けないと思うが、実際にまだこの世界の事を完全に理解していないし、自分に戦闘などは無理だと思う。
あっ、そう言えばこの前作った魔道具が役に立つかもしれない。
「もしかしたら調査に役に立つかもしれない、魔道具がありますよ!」
ストレージから魔道具を取り出す。
見た目は指紋と言うか手を丸ごとスキャンするような形をしている。
「これはなんじゃ?」
「これはですねぇ」
私は自分でも気が付かないうちに、ドヤ顔で皆の顔を見て説明を始めるのだった。
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