第12話 ワルジオの誤算
クレアさん達が納得してくれたので、ついでに孤児院の子供たちの面倒もお願いする。
水筒を届けたり、昼食の食材を提供したりすることなど、護衛任務のついでに日課に組み込んでくれることになった。
安心して解体作業を精力的にこなし始めた頃、ハロルドさん達が教会関係者との話し合いで、教会関係者を追い詰めていることなどアタルは思いもしなかった
◇ ◇ ◇ ◇
ハロルド達の面談で、予想外の展開になったことに呆然とするワルジオであった。
教会に戻ろうと内門を抜けたところで、ワルジオはこのまま教会に戻るのは不味いと気が付く。
「おい、馬車を商業ギルドに向かわせろ!」
ワルジオの発言で、助祭も今の状況を考えるのであった。
「ワルジオ司祭、商業ギルドに行ってどうされるのですか?」
人に頼るだけの助祭に苛立ちを覚えながらも、ワルジオは説明する。
「後ろに積んであるポーションを、商業ギルドに買い取らせるのだ。少しでもポーションの代金を回収しないと、教会に戻れないではないか。それぐらい考えろ!」
イライラとしながら助祭に命令する。
「し、しかし、司祭の指示で商業ギルドに卸すポーションは半減させて、値上げすると先日伝えたばかりですよ」
「だからこそ、商業ギルドは喜ぶだろう。ハロルドの評判が良くなるのは腹が立つが、エルマイスター家が町中の事を考えて、納品数を減らしたと言えば筋は通る。
教会も商業ギルドの事を考えて、必死にポーション作成して用意したと話せば、商業ギルドに恩も売れるはずだ」
助祭はなるほどと頷いたが、気になる事を更に質問する。
「しかし、商業ギルドへの通常の納品数は100本で、馬車には200本もありますが、すべて商業ギルドに納めるのですか?」
すべて説明しないと理解できない助祭に、また苛立つが我慢して説明をする。
「冒険者ギルドの対応に問題があり、冒険者ギルドに納品する量を大幅に減らしたと言えば、商業ギルドで全部購入したとしても、ポーションを捌けるのは奴らも理解できるだろう。
値段が高くなっても数を捌けば、儲けが減ることも無くなるし、商業ギルドも立場が良くなるから感謝するだろう」
助祭は、この状況でも値上げを止めることなく、あくまで利益を追求するワルジオの考えに不安と尊敬が混じった気持ちで頷くしかなかった。
本当に商業ギルドがすべて買い取ってくれるのか疑問に思う助祭だったが、このワルジオ司祭なら何とかするだろうと思うのだった。
商業ギルドに馬車が到着すると、助祭は先に商業ギルドの建物に入り、ワルジオ司祭と急遽訪問したことを伝え、ギルドマスターに出迎えるように話すが、あいにくギルドマスターは不在で、数日前に自分と話をした副ギルドマスターが対応することになった。
しかし、教会の要求に相当不満に思っているだろう副ギルドマスターの対応で、大丈夫か不安に思う助祭だった。
◇ ◇ ◇ ◇
商業ギルドの副ギルドマスターのソルンは、最近の教会の横暴に不満が溜まっていた。
王都でもギルド職員として、教会の尊大と思える態度に苦労してきたが、プレイルの町の副ギルドマスターになってすでに5年になるが、2年前にこの町の教会のポーション管理部の責任者がワルジオ司祭になってから、教会の横暴は加速し始めた。
ワルジオ司祭はこの町に来てすぐに、ポーション卸価格の値上げを通告してきた。値上げをしたにも係わらず品質は少しずつ悪くなり、納品数を増やしてくれたのだが、商業ギルドがポーションを卸す商会から不満を言われることが多くなっていた。
そんな商会の不満の対応に苦労していたのに、数日前に助祭が更なる値上げと納品数の半減を教会の意向だと伝えに来たのだ。
そんな教会の横暴と言うより凶行に、怒りで怒鳴りつけそうになるのを必死に我慢した。
教会と揉めてはこの支部だけではなく、王都の商業ギルドにも迷惑が掛かり、自分の出世は永遠に無くなるから仕方ないと諦めるしかなかった。
ポーションの値上げと納品数の減少について、ポーションを卸している商会に説明と理解をお願いして回って、やっと一通り対応が終わって商業ギルドに戻ってくると、今度はワルジオ司祭が事前連絡なしに訪問してきたのである。
今度はどんな要求をしてくるんだ!
本来なら商業ギルドの正面まで司祭を出迎える必要があったが、既にそんな気力もなく、応接室ではなく会議室に通すように指示をする。
助祭とワルジオ司祭が会議室に入って来たが、二人は不満そうにしている。会議室に入るとさらに不満そうな顔をしている。
不満に思っているのはこっちだよ!
ソルンは教会のせいで、この数日は精神的にも追い詰められていたので、すでに我慢する余裕は無くなっていた。
「それで、事前連絡もなく、ワルジオ司祭様が突然お越しになられたのは、どのような要件でしょうか?」
嫌味を込めて話をするソルンに助祭が驚いて目を見開いている。
不機嫌な表情を隠すことなくワルジオ司祭が話をする。
「エルマイスター家が町中のポーションが減るのは良くないと、納品数を減らしてくれた。教会も商業ギルドの要求に少しでも答えようと、ポーション作成に努力したので、その報告に来たのだ」
それは吉報と言える話だったので、ソルンは不味いと思ったが、いまさら対応を変える余裕はなかった。
「それでは、いつも通りの値段と納品数を守って頂けるんですね?」
「そうではない。教会は無理をして用意したのだから、値段は助祭が伝えた金額になる。だが、納品数は倍の200本にしてやる」
丁寧な対応する余裕はなかったが、商業ギルドに長年働いてきたソルンは頭の中で利益を計算して、問題点にも気が付く。
「確かに納品数が増えるのは助かりますが、倍の納品数を捌けるとは思いません。やはり、価格と納品数はいつも通りでお願いします」
ソルンがそう話すと、ワルジオ司祭の顔が真っ赤になったので、怒っているのはすぐに分かったが、ソルンはこれ以上教会の都合で振り回されたくない思いの方が強かった。
これで教会との関係は終わりかな……。
ソルンはそう考えたが、なぜかワルジオ司祭はまるで怒りを抑えるようにして、話を続けてくる。
「冒険者ギルドの納品数は減らしたままだ。今回の原因である彼らにはしっかりと罰を与える必要がある。商業ギルドの納品数が増えても捌けるのではないか。面倒なら手数料だけ取って冒険者ギルドに商業ギルドが卸してやれば、利益も立場も手に出来るだろう」
ワルジオ司祭の提案は、胸糞悪い内容ではあるが、確かに商業ギルドの損になる話ではない。何か裏がありそうだと不安になるが、確証はないし商業ギルドに問題になるような事はなさそうである。
冒険者ギルドへの制裁なのか?
それなら商業ギルドは関係ない。商品さえ手に入れれば、元々ポーションは品薄で足りないくらいなので、何とかなるとソルンは考えた。
「わかりました。値上げした金額で200本買い取らせて頂きます。納品は何時になりますか?」
何故か助祭が露骨にホッとしている。
もしかして教会は何か困っていたのか?
今さら前言を撤回できないので、その事は気にしない事にする。
「外の馬車に用意してある。すぐに納品するから対応をしてくれ」
ソルンは少し驚いたが、たしか今日がエルマイスター家へ納品日だと気が付く。
でも、200本は多すぎないか?
まるでエルマイスター家への納品分が全部流れてきた不自然さに不安になる。それでも買い取って損は無いと話を進めることにする。
「では、職員に受取りと検品をさせましょう。私は支払いの準備をしてまいります」
そう話して会議室を出ると、職員に受取りと検品の指示をして、会議室にお茶とお菓子をもっていくように指示するのだった。
◇ ◇ ◇ ◇
商業ギルドの副ギルドマスターのソルンが部屋を出て行くと、ワルジオは不満を助祭にぶつける。
「あいつは何様のつもりだ。今回は仕方がないから我慢してやったが、あいつは絶対に追い詰めてやる!」
激怒するワルジオに助祭も困惑するが、確かにソルンの対応には疑問を感じる。彼は教会と揉めるつもりなのかと不思議に思う。
エルマイスター家の対応といい、何か得体のしれない何かに追い詰められているのは、我々ではないのかと助祭は不安を感じるのだった。
暫くするとソルンが戻って来たのだが、支払いの金は持っておらず、手には2本のポーションを持っていた。
彼の眼は血走っていて、明らかに怒っているのが助祭には分かった。
「おい、これはどういうことだ!」
商業ギルドの副ギルドマスターが、教会を相手に怒鳴りつけてくるのが信じられなかった。ワルジオと助祭は突然の事に反応できず固まってしまう。
「なんで50本以上がただの薬草の入った水で、一番効果のあるポーションが水で薄めたいつもの半分しか効果のない物なんだ!」
助祭は心当たりがあり顔が真っ青になる。しかし、ただの薬草に入った水については心当たりがなく不思議に思う。
「そ、そんな事はありえん! 教会に文句を、」
バリンッ!
「ここに証拠があるだろうがぁ。こんな詐欺を働いてただで済むと思うなよ!」
ソルンは持っていたポーションを投げてきた。幸い当たらなかったが信じられない暴挙に、ワルジオも助祭も真っ青になり、反論することもできなくなった。
「教会だろうが、明らかな詐欺行為をしてただで済むと思っているのか。このことは王都の商業ギルド経由で大司教に抗議させて貰う!」
それを聞いてワルジオは焦り出す。大司教に抗議されては不味い、教会での立場が無くなってしまう。
「ま、待ってくれ。ポーション作成の、」
「待てませんね。1日だけ待つから司教に説明に来いと伝えろ!」
何とかワルジオは抗議しようとしたが、商業ギルドの警備員に殴られて話す事すらできなくなり、叩き出されるように商業ギルドから追い出されてしまった。
そんなワルジオを見て、助祭はポーション作成の助祭の話を思い出し、すべての責任をワルジオにどうやって押し付けるのか考えるのであった。
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