第7話 所有権譲渡と計画
クレアさん達はご機嫌で戻って来たが、待機所の中を見て驚いて、そして何故か溜息を付いている。
「アタル様、これは半日で作ったのですか?」
「まだ2階は完成してないけどね」
話をしながらカンターの反対側に移動して、シア達を立ち上がらせてやる。
「少しは自重してください!」
おうふ、クレアさんに叱られてしまった。
でも、誰が作ったのかバレないから問題ないよね?
「ごめん、ごめん。クレアさん達がゆっくり休める場所を用意したくてね」
んっ、クレアさん達が嬉しそうな顔をしてくれてる?
会話をしながらタウロに近づくと、タウロは顔を真っ赤にして涙目になっていた。
よく涙目になる奴だな、タウロは。
タウロの両肩を掴んで立ち上がらせながら洗浄を掛けてやる。
「時間も遅いし、今日の所は終わりにしませんか?」
クレアさんにそう尋ねると、クレアさんも他の人達と目を合わせて頷いている。
タウロは私を尊敬するような目で見つめてくる。
私は目で「男同士の秘密にしようと!」と伝えると、うまく伝わったのかタウロは何度も頭を縦に振り頷いた。
「それでは時間も遅いので、カルア達に子供たちを送らせます」
それなら私も一緒に行こうと言おうとしたら、
「アタル様には早急にお屋敷に戻って頂いて、ハロルド様とお話しして頂きたいと思います!」
反論できそうもない強い口調でクレアさんに言われてしまった。
カルアさんとあと2名が子供たちを送って行くのに待機所を出て行くと、私達も待機所を全員が出てクレアさんが鍵を取り出して、固まっている。
あっ、登録するのを忘れていた。
「すみません。鍵では無くて登録した魔力紋で開くようにしたんですよ。クレアさんの魔力紋を登録しましょう」
そう言ってノッカーに管理者として、魔力紋の新規登録を起動する。ノッカーのウルフの飾りの目が淡く青白く光る。
「ここに魔力を流してください」
クレアさんはカクカクと不自然な動きをしながらも、ノッカーに魔力を流して登録を終了する。同じようにシャルやミュウ、護衛の人達も登録する。
登録が終わるとミュウにノッカーに魔力を流させると、問題なく中の閂が外れて扉が簡単に開くのを確認した。
確認が終わりクレアさんの方を見ると、何故かこめかみを指で掴んで揉んでいる。他の護衛の人達も苦笑いしていた。
「アタル様、お屋敷に戻りましょう……」
なぜか疲れた顔をするクレアさんの事は気になるが、返事も待たずに歩き始めているので、仕方なく黙ってついて行く。
◇ ◇ ◇ ◇
エルマイスター家の屋敷に戻ると、レベッカ夫人が待ち構えていて、そのまま応接室に連れ込まれる。シャルとミュウはメイドさんに連れて行かれてしまった。
ハロルド様とセバスさんはクレアさん達と待機部屋に入って行くのが見えた。
クレアさん、お願いだから上手く説明を!
心の中でクレアさんに両手を合わせてお願いした。
レベッカ夫人と一緒に応接室に入ると、テーブルの上にたくさんの書類が並んでいた。
「こ、これは?」
「これは大賢者の屋敷やその周辺の区画を正式にアタルさんに譲る契約書や書類よ。この辺の書類は土地ではなく、建物や中の資産を譲る書類ね、資産と言っても大したものは無いから申し訳ないんだけどね」
とんでもない! すばらしいお宝が大賢者の屋敷にはありますよ!?
しかし、神様から譲ると言われたし、今後の事を考えると滅茶苦茶欲しい。
正直に話すべきだけど……。
迷ったが、結局書類にサインして魔力を流してしまった。
既にハロルド様のサインと魔力が流されていたので、書類は青白く輝いて同じ書類の1枚が燃え上がるように消えてしまった。
全ての書類に同じようにすると、最後に控えの束を渡しながら、レベッカ夫人は嬉しそうに微笑みながら言ってきた。
「これは契約内容の控えになるわ。アタルさんはあの区画の土地や建物、すべての資産を受け取る代わりに、3年以内にあの土地の問題を解決する義務を負う事になるのよ」
何故かしてやった的な表情でレベッカ夫人は説明してくれたが、そのことは書類や契約書に書かれていたのは確認しているので問題ない。
もしかして義務の説明をわざとしなかった!?
何となくレベッカ夫人の意図と企みが理解できた。
要するに破格の資産を譲るから、必ず問題を解決してもらいたいと思ったのだろう。もし完全に問題を解決できなければ、資産を返上してもらえるし、3年間は拘束できると思っているのかもしれない。
レベッカ夫人の表情から、極端な悪意は感じられないが、最悪はこの件を利用してアリスお嬢様との結婚でも考えている気がする。
ふふふっ、甘いですなぁ。
たぶん問題解決を優先すれば、数日で解決することも可能だ。しかし、あの魔力スポットを有効利用する為にも、最低でも1ヶ月ぐらいは必要だけどね。
それでも1ヶ月ぐらいで問題を解決できるので、レベッカ夫人の裏の思惑は失敗することになる。
まあ、問題が解決すれば損は無いと思っているだろうけどね。
それに裏の思惑を考えているなら、遠慮なく大賢者の資産を頂戴しても心は痛まないし、ほとんど領に還元するつもりなので問題は無いだろう。
私もレベッカ夫人に微笑み返すのであった。
◇ ◇ ◇ ◇
レベッカ夫人とお互いの思惑が上手くいったと、顔を見合って微笑んでいると、メイドさんが夕飯に呼びに来た。
食堂にレベッカ夫人と移動したが、ハロルド様とセバスさんが不在のまま、夕食を食べ始める。
シャルとミュウは孤児院の子供たちと仲良くなったことを話して、レベッカ夫人とアリスお嬢様が楽しそうに話を聞いている。
食事が終わりお茶を飲んでいると、ハロルド様とセバスさんが食堂に姿を見せた。
セバスさんはいつもと変わらない表情をしていたが、どこかいつもと違って見えた。なぜか殊更無表情になろうとしている気がする。
ハロルド様は渋い顔で私の顔を見ると話し始める。
「アタル、お前は明日の朝から話合いが必要じゃ。今晩は、もう儂は何も聞きたくないし、これ以上アタルの話を聞いたら、寝込んでしまいそうじゃ!」
ハロルド様はそこまで話すと、夕食を食べ始めながら私に部屋に帰れと言う。
そう言われては仕方ないし、自分も説教されそうな雰囲気を感じて、今日はさすがに聞きたくなかったので、黙って部屋に戻るのであった。
◇ ◇ ◇ ◇
部屋に戻ると、いつものように受け取った薬草でポーションを作り、シュガの実で砂糖をつくる。
レシピがあるので問題なくあっと言う間に完成してしまう。
MPが減少したのでモモン飴を舐めながら、今後の計画を考える。
大賢者の屋敷の魔法陣の効率化や改修なども最後に取り掛かる必要がある。先に作業をすれば、魔力が大量に溢れる事が考えられるからだ。
とりあえず周りの建物をすべて解体して収納することにする。魔力に溢れかえるあの場所なら、数日で更地にすることも出来るだろう。
その場所にどんな施設を用意するか検討を始める。
すぐに孤児院を作ることを思いつき、次に騎士団の施設を作ることを思いつく。
孤児院はもっと大きくして、収容できる人数を増やし、社会に出て仕事に付きやすいように、勉強や職業訓練が出来る環境があれば問題ないだろう。
騎士団の施設については、地下に訓練所を作り、普通の訓練施設と魔力を濃くして訓練できる施設を造る必要がありそうだ。それも優先的に造らないとダメだと考える。
クレアさん達の雰囲気からも必要そうだ!
その事を先に話しておかないと、作業の邪魔をされる気もするなぁ。
訓練施設とそれに付随する設備などの設計をして、更に孤児院の設計しながら、他の建物なども設計をする。
解体した資材で足りるとは思えないし、解体では手に入らないものも多いが、領で用意してもらった方が良いかもと考える。
全てを作って提供するよりも、仕事を回した方が経済的にも良いだろう。
設計した内容を、木材から紙を作って転写すると、待機所で使う設備や見本の設備を夜遅くまで作るのであった。
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