第11話 採取と子供たち②
子供たちと別れて歩き始めると、すぐに川辺に到着する。
川は水量も少なく足場になる岩もあったので、それを使って反対岸に渡る。
草原に出るとヒール草もシュガの実も沢山あることは一目で分かる。取り敢えず採取はしないで見たことのない植物を調べていく。
すぐに角ウサギが襲ってきたが、クレアさん達が余裕で倒してくれた。カルアさんは角ウサギが襲ってくる前に私が気付いたことに驚いていた。
草原はあまり奥行きがなく川沿いに長く続いていた。
すぐに所々木が生えていたので20セメル程の太さの木を鉈で切ると収納した。今度はクレアさんも驚いたようだ。
その後も10本程の木を切り収納すると、伐採する音で角ウサギが8匹ほど襲ってきたが2匹はカルアさんが倒し、クレアさんが6匹倒していた。
お腹が空いて来たので採取は止めて来た方向に戻りながら聞く。
「クレアさん昼食はどうしますか?」
「アタル様のご都合に合わせます。護衛などの場合は昼を食べないことも多いので気にしないで下さい」
気にしないでと言われても気になる。少し考えてから聞いてみる。
「今日狩ったウサギを焼いて食べませんか?」
2人とも頭を縦に振って頷いてくれたので戻って川を渡る。
渡ると近くにある石や砂を収納していく。そして川岸から上がった場所で、土魔法を使い幅2メル程を50セメル盛り上げる。その上に収納した砂を出して、竹串を置ける幅に土魔法で固めていく。5分ほどで串焼き用の簡易竈の完成だ。
竈に採取した木を薪にして並べながら2人に話しかける。
「子供達に一緒に食べるか聞いてきてもらえます?」
そう言って2人を見るとまた驚いて固まっている。思わず苦笑しながらカルアさんと目を合わすと再起動して、
「わ、私が子供達に聞いてきます!」
カルアさんはそう言うと子供達がいる方に走って行く。
種火を小間隔で薪に火を付けていく。
高温で5分ほど時間指定した種火を見て、薪がなくても焼けそうだと思ってしまう。
ウサギ肉の竹串を竈に並べていくと12本程焼くことが出来そうだ。クレアさんに焼くのをお願いすると、遠くで子供達の歓声が聞こえてくる。
すぐにタウロが走ってきて遅れて他の子供たちがやってくる。やはりシアがリーダーなのか代表して聞いてくる。
「アタルのお兄ちゃん、本当に食べて良いの?」
「勿論だよ。仕事をお願いしているからね」
それを聞くとまた子供達は喜びの声を上げる。
「ただし焼くのを手伝ってくれるか?」
そう言うとすぐに何人かが手伝い始め、焼きあがると順番に渡していく。適度に交代するようにシアが子供達に指示していた。
「タウロ君はアタルの『おっちゃん』からご馳走になるのは嫌だろうな~」
「ア、アタル兄ちゃん」
タウロが目に涙を浮かべながら話しかけて来る。
「兄ちゃん、孤児院の先生にもおばちゃんと呼んで怒られたのに……、ごめんなさい!」
「タウロ君! 先生に言われたことは守らないとね。いい勉強になったろ! よし、これを食べなさい」
そう言ってタウロにも串焼きを渡す。
クレアさん達がジト目で見ているが気にしない!
料理アプリに開き、水筒にほんの少しだけポーションを入れてから水を入れる。同じものを5本ほど作る。
「食べると喉が乾くだろ。これに水が入っているから飲みなさい」
そう言って水筒を子供たちに渡す。
「あ~、これ飲むとお腹が温かくなる。疲れも取れるみたい」
「おー、美味しいものを食べたからそう感じるだけだよ」
結局アタルと子供達は1人3本ぐらい食べ、カルアさんだけは5本食べていた。
それまで採取した分を受取り、お金を渡そうとすると、受取を書いて欲しいとシアに言われる。
「アタル様、支払いは役所から払われますので、受け取った量を書いて渡せば問題ありません」
「でも、シュガの実は金額が決まってないだろ。幾らぐらいすれば良いかな?」
「一袋で銀貨1枚ぐらいは欲しいです。運ぶのに重いし、どうですか?」
シアが金額を提案してくる。
この子は頭の回転が良さそうだ!
「じゃあ一袋、銀貨2枚で買い取るように話しておくよ」
それを聞いて子供たちが嬉しそうに騒ぎ出す。
うん、子供はやはり元気で楽しそうじゃないとね。
食事を終え子供達が採取へ向かうと、アタル達はまたスライム採取に向かう。
更に手際が良くなり50匹以上採取できた。スライムはどれだけ居るのか不思議に思う。
その後は木を30本ほど採取し、竹林がある場所をカルアさんが知っていたので案内してもらい竹も大量に採取した。
採取の途中で角ウサギが結局12匹も襲ってきたがクレアさん達が狩って、私がストレージに収納した。
時間的には早いと思ったが、採取はこれで終了し子供達と合流する。
ヒール草は合計33束あり、シュガの実については10袋もあり、受取りをシアに渡す。
「「「アタルお兄ちゃん! ありがとう!」」」
「こちらこそ助かったよ。またお願いすることになると思うからよろしくな!」
一緒に町に帰るのであった。帰りながら色々聞いてみると驚くことがあった。
まず年齢を聞いてみて驚いた。12歳か13歳らしい。孤児院では12歳になると採取に参加するらしい。正直もっと幼いと思っていた。
シアは今13歳で今月の終わり頃に14歳になり、来月あと猫獣人のカティと狐獣人のフォミが14歳になるようだ。
14歳になると孤児院を出なくてはならず、それまでに冒険者のF級になるか仕事が決まらないと、仕事のある領に送られるらしい。
隣の領の農作業用の人手として送られるのが大半なのだが、孤児院出身の冒険者が隣の領で知った顔の孤児が奴隷商の馬車に乗っているのを見たらしい。此方に戻った時に孤児院で確認すると、送られたばかりの孤児だったらしい。
それを聞いたクレアさんがそれは有り得ないと言った。
「ハロルド様は斡旋費用を商業ギルドに払い、斡旋先の情報は商業ギルドからその都度受けています。それは以前に孤児が奴隷として売られたことがあり、そうならないように領主様は費用を負担しているのです」
「ということだ。私からも領主のハロルド様に聞いてみるよ。う~ん、それに何人か助手として雇いたいかな~?」
言い終わる前に猫獣人のカティが飛びついてくる。
「本当、本当の、本当に!?」
「ほ、本当だよ。まだ住むところとか準備できてないけどなぁ」
「その中に私は!?」
カティは必死に聞いてくる。シアとフォミも真剣な目でこちらを見て話を聞いている。
「そうだなぁ、シアはしっかりしているから買取などをしてもらいたいかなぁ? まだ解らないけどシアをリーダーにしてカティとフォミも雇うかな?」
その発言を聞いた他の子達も、自分も雇ってほしいと騒ぎ出し収拾が付かなくなる。クレアさん達が間に入ってくれてやっと収まってくれた。
一緒に子供たちと東門に向かって歩いて行く。子供たちは交代でアタルの腕を引いたりして懐いてくる。
アタルも調子に乗って頭を撫でたりしたが、獣人の頭を長めに撫でているとクレアさんに睨まれて自重する。
東門から中に入ると暫くは毎日買い取る事を伝えると、すぐに子供たちはお礼を言って違う通りに向かったのでそこで分かれる。
暫くはアタル達を見ながら手を振ってくれていた。
アタルも手を振りながら思わず呟く。
「子供の笑顔は最高だなぁ」
早めにハロルド様に住むところを探して貰おうと決心するのであった。
子供達を見送ると歩いてエルヴィス家の屋敷に戻って来た。屋敷に入るとセバスさんが迎えてくれた。
「アタル様お疲れ様です。夕食までお時間が御座いますのでお部屋でお休みください」
「わかりました」
そして護衛をしてくれたクレアさん達の方へ振り返り、
「今日はありがとうございました」
お礼を言うと二人は敬礼してくれた。
すぐにメイドさんの案内で階段を上がって行く。2階まで上がり下を見るとクレアさんとセバスさんが何か話しているようだ。特に気にせずそのまま部屋に向かう。
部屋に着くとソファに座り、スマートシステムでシュガの実を砂糖の結晶に変えていく。
◇ ◇ ◇ ◇
アタル様と挨拶をすると、すぐに彼は階段を上がっていく。それを少し見送るとセバス様に話しかける。
「セバス様、できれば今日のアタル様の件で、ハロルド様に直接ご報告したいと思っているのですが?」
「そうですか。では控室で少々お待ちください。ハロルド様に確認してきます」
セバス様はそう言うとすぐに歩き始める。
カルアの方を向いて促して控室に向かう。控室はちょうど応接室の反対側になる。
部屋に入ると幾つかのテーブルや机が並んでいる。
少し中に入ると座ることなく振り向きカルアに話しかける。
「事前に話していたと思うが、アタル様のことは全て極秘事項だ。隊内でも絶対に口外することを禁ずる」
「了解しました。しかし事前に少し聞いていましたが、アタル様は規格外の方のようですね」
「だからこそ極秘にせねばならないのだ」
少し待つとハロルド様が部屋に入って来る。挨拶をして護衛中のことを報告する。
「あやつは反省したと言っておったのに、全然自重せんみたいじゃな。まあ良いことに使っておるのじゃ、仕方あるまい」
「我々も子供達の為と思いお止め出来ませんでした。申し訳ありません」
「気にする事はない。仕方あるまいて。
それよりクレアはアタル専用に6名ほど口の堅いものを選出しておけ。専属にせぬと混乱が起きそうじゃ。
最初はクレアかカルアが必ず補佐するようにせよ!」
「「了解しました」」
敬礼するとハロルド様はすぐに控室を出て行った。それを見送ると二人で兵舎に向かうのだった。
◇ ◇ ◇ ◇
砂糖の結晶を作るのは数が多いので時間が思ったより掛かり、MPも3割ほどに減っていた。ちょうどメイドさんが呼びに来たので作業を中断して夕食に向かう。
いつもの面子で夕食を取り始める。少しするとハロルド様から問い掛けられる。
「そういえば孤児院の子供達に、肉の串焼きを食べさせたそうじゃな。カルアが美味しかったと言っておった。アタルは料理をするのか?」
「ええ、母が食堂をしていて13歳くらいから手伝っておりましたので。仕事を始めてからも、料理は好きなので自分で作ることが多かったですね」
「アタル様は何でもご自分でされるのですね。私もアタル様が作ったものを食べてみたいです」
アリスお嬢様に言われ、『ウサギのモモ肉のオーブン焼き』のレシピを使って作る。
「では食べてみますか? 後で食べようと作ったのがありますので」
「本当ですか! 食べてみたいです」
「取り敢えず出してみますね」
そう言ってストレージから『ウサギのモモ肉のオーブン焼き』を取り出す。
「まあ! 本当に美味しそう。セバス、取り分けて貰える」
レベッカ夫人も嬉しそうにセバスさんに指示をする。
「お任せ下さい。」
ハロルド様を見るとため息をついていた。また何かやってしまったのだろうか?
セバスさんは洗練された手際で、肉を切り分けて皆に出す。
「な、なんて美味しいの! 塩味もしっかりついていて、お肉も驚くほどやわらかい」
レベッカ夫人は気に入ったようで褒めてくれる。
自分でも驚くほど美味しく出来たと思う。料理スキルを使うと美味しくなるのかな?
ハロルド様も美味しそうに食べていたが、何か考えるようにしていてあまり話をしなかった。
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