第3話 ポーション職人
「それで、なんの話をしておったのじゃ?」
「レベッカ様がアタル様にアリスお嬢様の婚約をお願いしておりました」
ハロルド様の質問にセバスさんが答えた。
「なんじゃと、アリスに結婚はまだ早い! それに歳が随分と離れておるではないか? まだ知り合ったばかりの男にアリスを嫁になんかできるはずなかろう。母親のお前がそんなことを言うとは何事じゃ!」
ハロルド様は意外としっかりとした考えをしてるじゃあ~りませんかぁ。
「お義父様、まだ知り合ったばかりの男にクレアを嫁にしようとしたのは、どちらのお方でしょうか?」
うん、確かにそれは言える。
「なっ、ダメじゃ、ダメじゃ。アリスはずっと儂と暮らすんじゃ。嫁には絶対ださん!」
ただの爺馬鹿だった。
「ちょ、ちょっと待って下さい。なんでそんな簡単に、部下や娘を得体の知れない男の嫁に薦めるのですか?
この国や領の事は良く知りません。それでも私の常識では異常ことだと思いますが、これが普通の事なのでしょうか?」
「「あっ」」
ハロルド様はバツの悪そうな表情をして、レベッカ夫人は恥ずかしそうに顔を赤くしている。
セバスさんがまた笑いを堪えている。
ハロルド様とレベッカ夫人はお互いに顔を見た後、私の方に向き直ってハロルド様が話をする。
「すまなかったのぅ。アタルの言う通りじゃ、会って直ぐにクレアを嫁に薦めたり、レベッカがアリスを薦めたりするのは非常識な事じゃな」
ハロルド様そこでお茶を一口飲んで話を続ける。
「しかしじゃ、アタルの存在がまず非常識なんじゃ!」
「えっ、それは、どういう事でしょうか?」
「あれほどの量のポーションを、当たり前のように他人に提供するのは、間違いなく非常識な行為じゃ」
そうなんか~い!
何となく気付いていたけど、やはりポーションは自分が考える以上にこの世界では貴重なのかな。
「あれほどの質のポーションを自分で作ったというアタルは、間違いなく非常識な存在じゃ」
………。
聞いてないよぉ~。
「確かに儂は領主として、アタルのポーションを作る能力が欲しいと思ったのは事実じゃ。しかし、休息所で話した通り、クレアと結婚するのに相応しい男と思ったのも本当の事じゃ。無理強いをするつもりは絶対にないし、命の恩人であるアタルを困らせるつもりも絶対にない。
だから、クレアの事は真剣に考えてくれないか?
あと、レベッカが何と言ったかは知らぬが、アリスに手を出したら命の保証は出来ぬぞ!」
色々あり過ぎて分かり辛いが、クレアさんの事は真面目にお願いするけど、爺馬鹿だからアリスに手を出すなってことかぁ。
「私も少し焦って変な事をお願いしたようね。私が領政を実質的に管理しているから、ダンジョンの事とか辺境で危険な事とか考えると、どうしてもアタルさんの事が欲しかったのよ」
私を欲しかった……!
惚れてまうやろぉ! 違う、違う!
「でも、娘やシャルちゃんとミュウちゃんの話を聞いて、変な貴族に嫁に出すぐらいなら、アタルさんと結婚したほうが幸せになれると思ったのよ。
お義父様も嫁に出すなら、遠くの貴族より身近なポーション職人の方が良いんじゃないかしら?」
えっ、私ってポーション職人なの?
「いや、しかし、……まだアリスには早い!」
爺馬鹿は健在だ!
「あ、あの~、私としてもアリスお嬢様はさすがに幼過ぎるかと……。それに嫁捜しをしていると言っても、そこまで焦っている訳でもありませんし、利害関係ではなく愛情で結ばれたいかなぁ~と…」
何故か全員が苦笑している!?
「あらあら、アタルさんは純粋なのねぇ。でも結婚は現実よぉ。生活が出来なければ愛情なんてきれいごとだし、嫁が何人も増えれば大変よぉ。ふふふっ」
な、なんか怖いっ!
免疫の少ない自分にはまだ早すぎるのか?
それに、……嫁が何人も!?
ハーレムやぁーーー!
そんなの28歳童貞にはミッションインポッシブルやぁ。
「まあ、アタルも少しずつ学んだ方が良いのぅ。女は、」
「お義父様ぁ、女は何でしょうか?」
「い、いや、何でもない。それよりセバス、頼んでいた物は用意してあるか?」
ハロルド様も女性には弱い?
「勿論で御座います。こちらに」
セバスさんはお盆のようなものを差し出した。その上には三つの布袋が置かれていて、ハロルド様はそれを手に取るとテーブルの上に置いた。
「アタルが提供してくれたポーションの代金じゃ、金貨で150枚を用意させてもらった」
そんなにも貰えるの?
しかし、レベッカ夫人の話でポーションが1本金貨3枚だとすると、多すぎる訳ではなさそうだ。
でも、……ぼったくり感が……。
その辺に生えている葉っぱで、スマートシステムで作ると驚くほど簡単にポーションが出来るし……。
如何しようかと考えていると、ハロルド様が追加で説明をしてくれる。
「普段は教会から、ポーションは1本あたり金貨3枚で購入しておる。提供してもらったポーションは2、30本分ぐらい、もしくはそれ以上だったと思う。それに効果も普段使うポーションより高いと感じたので、1本金貨5枚で計算させて貰った。もし不満ならあと50枚ほど用意させよう」
さすがに追加は……。
「不満というよりも、私が自分で作成したポーションですので多すぎると思ったのです。しかしハロルド様のお気持ちも理解できるので50枚だけ頂けますでしょうか?
残りは出来ましたら亡くなった方のご遺族にでも差し上げてください」
ハロルド様も少し考えて答える。
「わかった、100枚は遺族に追加で渡そう。そういえば遺体も預かって貰っていたのぅ。
…では明日の朝食を済ませてから兵舎に持って行って貰おうと思う。アタルには申し訳ないが明日頼めるか?」
「わかりましたそれでお願いします。あと討伐した魔物はどうしましょうか?」
「それはアタルの好きにしてもらって構わない。あの状況では道の外に捨てるくらいしか普通は出来まい。片付けずにすんで助かったぐらいじゃ。もし希望するなら領で買い取ってもかまわん」
魔物の素材についても検証してみたいなぁ。
「──魔物については少し検討させてください」
「ゆっくりと検討してくれて構わん。ただ時間を掛けすぎると腐るから早めにな。」
収納スキルは腐るのかと思い、ストレージは状態保存で腐らないが、逆にそのことが問題になりそうだと心配になる。
「それと少し聞きたいことがあるのですが?」
もう少しこの世界と言うか、常識的な事も含めて色々聞いてみたい。
「なんじゃ、なんでも遠慮なく聞いてくれ」
ではポーションの事を教えて欲しい。
いつの間にかポーション職人と認定されて、アタルはそう考えるのだった。
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