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第7話 エルマイスターの現状

レベッカ夫人にハロルド様達が叱られて、すでに10日以上過ぎた。あの日からハロルド様もジョルジュ様も、自分達の仕事を終わらせてから訓練するようになった。


レベッカ夫人が王子であるジョルジュ様にあのような態度で大丈夫か心配したが、レベッカ夫人が寝物語で事情を教えてくれた。


レベッカ夫人とジョルジュは昔からの知り合いというか、レベッカ夫人が侯爵令嬢だった頃から知っているらしい。

王宮で幼いジョルジュ様をレベッカ夫人は遊んであげたこともあったようだ。そしてメリンダさんは昔からレベッカ夫人を慕っており、2人の中を取り持ったのもレベッカ夫人だったらしい。


だからレベッカ夫人は公には敬称で王子夫妻を呼んではいるが、実際には2人ともレベッカ夫人には逆らえないということだ。


あのレベッカ説教事件のあと、王子夫妻は逆に緊張が無くなったのか、王族らしい振舞いがなくなってしまった。


まあ、色々と落ち着いたと言えるのかなぁ。



   ◇   ◇   ◇   ◇



領都プレイルは日々良くなっていた。

人が益々増え、辺境とは思えないほどの賑わいを見せている。


冒険者ギルドも、またまた状況が変わったようだ。

新たに着任したギルドマスターは王都に帰ってしまい、ギルド職員もほとんどが冒険者ギルドを辞め、町で普通に生活を始めてしまったのだ。

残ったのは前任のギルドマスターのレンドと、職員が5人だけになっている。ほとんどの冒険者はギルドに近づかなくなり、彼らは暇になると孤児院の子供たちと薬草採取しているようだ。


教会は関係者が王都に戻ることになり、建物を領主であるハロルドに返却した。教会の建物は領主が用意して、教会に無償で貸し出すのが慣例だったのだ。

すでにポーションを製造する錬金術師に逃げられた教会は、自分達の生活費を稼げなくなっていた。収入源はポーション販売以外で寄付もあったのだが、寄付もポーション目当てだったから、結果的には寄付も無くなってしまったのだ。


このままでは教会が維持できないとハロルド様に泣きついた。しかし、司教はその時初めてハロルド様に、グラスニカで起きたことを教えられて知ったようだ。天罰を恐れたのか、じり貧になったのかはわからないが、その数日後に王都への帰還と教会の建物の返却を司教は申し出たのだった。


今は私が教会の改修作業を進めている。ハロルド様は随分と迷ったようだが、レベッカ夫人にそれ以外はありえないと言われ、諦めた表情で頼んできた。


商業ギルドはグランドマスターが、新任のギルドマスターと職員5人ほど送り込んできた。

着任と同時に今までいた職員は全員商業ギルドを辞め、公的ギルドに移った。それでも新任のギルドマスターは文句も言わず、取り敢えず約束した賠償金をエルマイスター家に払った。そして売られた孤児の探索もどのような調査を始めたのか、これからどのように対応するのか計画書も同時に提出したのだった。


商業ギルドはエルマイスター領内の仕事はほとんどないが、他領から来た商人の窓口となるため、忙しく仕事をしているようだ。


これまで好き勝手してきた教会は無くなり、冒険者ギルドは存在意義がなくなり、かろうじて商業ギルドだけまだギリギリ活動している状態になったのである。


もうエルマイスター領都は以前とは全く違う町に生まれ変わった感じだ。



   ◇   ◇   ◇   ◇



いつものように朝食を食べにダイニング行くと、いつものようにみんな揃っていた。


ラナが俺の姿に気付くと焦ったように近づいてきて耳打ちする。相当に焦っていたのか文字念話するのを忘れたのだった。


内容を聞いて私も驚く。


え~と、そんなこと私に言われてもどうしたら……。


メリンダ様を見るといつもと変わりなく、レベッカ夫人と楽しそうに談笑している。


う~ん、本来は本人しか気づかないからなぁ……。


それぞれが持つ魔道具やギルドカードを見れば、自分のステータスが確認できるのは全員が知っている。他人がステータスを見ることは、ある程度制限して、魔道具と本人の同意が必要になるようにしている。

しかし、この屋敷の管理者であるラナやクレアは、屋敷内の相手ならステータスの確認ができるのだが、公表はしていない。安全対策として秘密にしているのだ。


そうなると俺が気付いたことにしないとダメなんだろうなぁ……。


迷った末にレベッカ夫人に任せることにした。レベッカ夫人に文字念話で報告する。


文字念話を受けたレベッカ夫人は、それを読んだのか驚いた表情になった。そして、私に文字念話で『朝食後、リビングで話すわ』と送ってきた。


私は朝食を食べながらジョルジュ様を見る。ハロルド様達と能天気に今日の訓練について話が盛り上がっているようだ。



   ◇   ◇   ◇   ◇



朝食が終わり、レベッカ夫人は話があると言って、全員をリビングに移動させる。


朝の訓練に向かおうとしていたジョルジュ様やハロルド様達は不満そうな表情をしている。


メリンダ様を挟むようにレベッカ夫人とラナが座る。反対に筋肉馬鹿トリオが座ったが、不満そうな表情を見せている。ジョルジュ様は口を尖らせ、駄々っ子のような表情をしている。


完全に王族の雰囲気はないなぁ……。


屋敷に住むようになり、地が出てきたのかジョルジュ様は完全にハロルド化している気がする。


「レベッカ様、最近はやるべきことをしてから訓練をしていますよ!」


ジョルジュ様は、また叱られると思ったのか牽制するようにレベッカ夫人に言った。


「あら、大切な話があるのに、殿下は聞きたくないというのですね?」


レベッカ夫人は冷ややかに尋ねた。


「い、いや、そういうわけでは……」


即座に撃沈したジョルジュ様を、ハロルド様とグラハドール様が左右から太腿の辺りを突いている。


あの二人はジョルジュ様を盾にして、訓練に行こうとしているな。


気付いたのは私だけではなかった。レベッカ夫人が寒気のするような微笑みを浮かべて話した。


「それではお好きにしなさい。お義父様もグラハドール様も訓練に行きたいなら、行ってもよろしいのですよ?」


ハロルド「わ、儂は話を聞くつもりじゃ!」

グラハドール「私もお話を聞かせていただきます!」

ジョルジュ「あっ、ずるい! 私も聞きます!」


年寄りは変わり身も早いなぁ。


ジョルジュ様は裏切った二人を納得のいかない表情で睨んでいる。


「そう、ではそこで聞いていなさい」


レベッカ夫人は冷たく三人にそう言い放つと、メリンダ様を優しく見つめて話し始めた。


「メリンダ様、ご自分の魔道具でステータスを確認してくださる?」


正確には魔道具ではなく王族用のギルドカードだ。試しに作った物を王子夫妻には渡してある。


メリンダ様はレベッカ夫人のお願いに、意味が分からず戸惑っている感じだ。それでも自分のステータスを表示したのか目の前を見つめ始める。


おっ、ステータス画面を開いたな。

あっ、肝心なところを通り過ぎた!

あぁ、気付いていないみたいだぁ。

おおっ、もう一度見直すようだな。

あっ、気付いたな!


他人には見えないステータス画面を、メリンダ様の行動を見て予測する。そして最後にステータスの上部を見て、目を見開き、両手で口を押えた。そして次第に目には涙が溢れだした。


「メリンダ、どうした!」


涙を零すメリンダ様を見て、ジョルジュ様が声を掛ける。


「ジョルジュ、……子供を、さ、授かったわ。グスッ」


「何っ! さ、産婆を呼べ! あ、あと警備の強化もしろ! 国中に触れを出せ!」


ジョルジュ様は立ち上がると興奮して叫び始めた。


「落ち着きなさい! 産婆など早過ぎよ。あんまり騒ぐとお腹の子に良くないわよ!」


レベッカ夫人に叱られて、ジョルジュ様は慌てて自分の口を塞いだ。そして腰が抜けたようにソファに腰を下ろす。


ハロルド様も嬉しいのか座ったジョルジュ様の背中を何度も叩いている。横ではグラハドール様も泣き始めていた。


「妃殿下、おめでとうございます」


「「「おめでとうございます!」」」


レベッカ夫人が優しくメリンダ様にお祝いの言葉をかける。すると部屋にいた使用人たちやお付きが一斉に祝いの言葉を述べたのであった。


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