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第48話 第2王子ジョルジュ

あれから数日が過ぎた。オルアットには毎日驚くような報告ばかりであった。


グラスニカに公的ギルドが既にあると聞き探りに行かせれば、危険地区に指定された場所が驚くような町になっていた。そして、そこの中心に神像があり神の恩恵が貰えるとか、神像を奪おうとした教会の関係者に神罰が落ちたとか、すべてが信じられないような話だった。


そして役所の建物が一晩で綺麗な3階建ての建物になったと聞き、自分で見に行くと真実であったのだ。


オルアットは領主たちと和解できて良かったと胸を撫で下ろすのであった。



   ◇   ◇   ◇   ◇



何となくラナとクレアに監視されている気がしながらも、塩会議が無事に終わったと聞いて、すぐに役所の建物の入れ替えを済ませた。


グラスニカの領都は驚くほど活気に満ちている。


孤児院の子供たちが町の周辺で薬草採取を公的ギルドに依頼されて外に向かう姿を見たが、邪魔になるから声を掛けないようにクレアに注意される。


すぐにもエルマイスターに戻る準備をするように言われて、特にやることもなく、テク魔車から出かけられなかった。


何となく厄介者扱いされている気がするぅ。


仕方ないので、寝室で色々な検証を進めることにした。



   ◇   ◇   ◇   ◇



明日には全員が各地の領地に戻ることになって、領主の全員が役所の会議室に集まっていた。


「この役所は凄いのぉ」


ゼノキア侯爵が溜息交じりに呟いた。ハロルド以外は全員頷いている。


「しかし、自分の領地に作るとなると……」


カークは悩ましい表情で呟いた。


「そうです。アタル殿を領地に招かないと……」


カービン伯爵が核心に触れる。


ハッキリ言って役所と言っても、彼らの知る役所ではない。役所自体が魔道具と言えるものである。効率的で役人の人数も減らせる。その余った人材を公的ギルドに配置すれば、アタルの考える体制が自然と出来上がるのだ。


「マニュアルも凄いのぉ」


ゼノキア侯爵はマニュアルの有効性を認めていた。わかりやすくすぐに魔道具やシステムの使い方が分かるのである。それを見ながら説明すれば、慣れない相手でもすぐに対応ができるのである。


「国だけでなく世界が変わりそうですなぁ」


カービン伯爵も魔道具やマニュアルも含めて、今後のことに思いを馳せる。


「まあ、どちらにしろ、アタルに頼むのは無理じゃ。素材も時間も足りんからのぉ。しかしじゃ、早めに頼んでおかないと後回しになるからのぉ。わはははは」


ハロルドは他人事のように話した。


「気付けばこのようになっていたが、あの恐怖や目まぐるしさを考えると、同じことを頼むのは迷うなぁ」


エドワルドはすでにグラスニカはアタル的改革がいくつもされているのだ。ハロルドが来てからのことを、苦い思い出のように感じながら話した。


「とりあえず公的ギルドの窓口だけは設置してもらうように頼みましたが……」


カービン伯爵は呆然としながら話した。


ゼノキア侯爵とカービン伯爵、カークはエルマイスターの公的ギルドの職員を2名ずつ連れ帰ることになった。そして公的ギルドを各領地に設置することにしたのである。

しかし、それを聞いたアタルが、公的ギルドの建物ぐらいなら亜空間経由で売ってくれると言ったのだ。土地の用意と整地、設置方法はマニュアルを作ると言って……。


「アタル殿が来ないのは助かるのだが……」


カークが思わず本音を漏らす。口には出さないがゼノキア侯爵もカービン伯爵も同じ気持ちだった。


そこに役人が慌ただしくノックして入ってきた。そして驚きの報告をする。


「第2王子殿下が来られました!」


全員が呆気に取られて固まってしまう。そして、まだこれ以上何かあるのかと顔色が変わったのであった。



   ◇   ◇   ◇   ◇



第2王子のジョルジュは会議室に案内され一番奥の上座に当たる席に座った。背後には親衛隊が8人ほど控えている。


ハロルド達は立った状態で挨拶をした。


「止めてくれ、私が勝手に訪問したのだ。一応お忍びでもある。堅苦しい挨拶は遠慮してくれ。それにハロルドは私の師匠でもある。私がそういうのが嫌いなのも知っているだろ?」


「はははは、確かにその通りじゃな。この儂が礼儀を守れと言ったのはジョルジュ殿下だけですなぁ」


第2王子のジョルジュは政治的なことはあまり興味がなく、王位も兄が継ぐものと考えて剣術などの武術を磨くことが好きだった。まだ20歳だが、将来は将軍になることを国民から期待されていた。


幼い頃はハロルドが剣術を教えていたこともあり、毎年ハロルドが王都に行くと訓練を一緒にする間柄でもあった。


「そろそろハロルドには打ち勝って引退を迫るつもりだがな」


ジョルジュは楽しそうにハロルドにそう言った。彼は驚くほどの才能に恵まれ武術全般が好きであり、ハロルドが自分に勝ったら引退すると公言していたのである。


そして実力も大分近づいており、ハロルドも全盛期の力が落ちてきていた。しかし、新たな訓練で全盛期をはるかに凌ぐ実力になっていることをジョルジュは知らなかった。


ハロルドは負けるつもりはないが、王子のその真っ直ぐな性格は嫌いではなかった。そして護衛の親衛隊も心底ジョルジュに惚れ込んでいたのである。


「突然ですまなかった。塩会議の結果を国王も気にしていてなぁ。それにエルマイスターのことで急遽私が派遣された。その辺はハロルドと内密で話をしたい」


ハロルドの息子経由で宰相や国王が動き始めたのである。実は塩会議の結果を含めて、ハロルドはすでに王都には報告を済ませている。


「ふむ、それは大賢者の末裔に関する事ですかのぉ。それなら、ここにいる全員が事情を知っておりますのじゃ」


ジョルジュは少し考えてからハロルドに尋ねる。


「それは魔道具の事も含めて知っているということか?」


「その通りです。今もその非常識ぶりに全員が頭を抱えておったところじゃ、わはははは」


ハロルドの話を聞いてジョルジュはまた考えてから話した。


「それなら一緒にお話を聞きたい。正直どこまでが真実なのか陛下も戸惑っている。実際に確認できる魔道具があるなら見てみたい」


「殿下、覚悟はできていますか。常識が次々と壊れて恐怖さえ感じますよ?」


ゼノキア侯爵が真剣な表情でジョルジュに話した。


「ククク、それは楽しみだ。期待しておるぞ。それとグラスニカ侯爵、妻が一緒に来ておる。先にそなたの奥方に挨拶に向かった。突然で驚かすことになるが、エルマイスターに行くまでそなたの屋敷に滞在させてくれまいか?」


「もちろんです。ご遠慮なくゆっくりと滞在してください」


エドワルドの返事にジョルジュは頷いて感謝を述べた。


そして全員に座るようにジョルジュが言うと、それぞれが席に座った。そして話をしようとしたところで、カークが声を上げる。


「あっ、妃殿下に護衛の者が一緒にいますよね!?」


焦った様子でカークは護衛の者に声を掛ける。


「当然です。それに殿下が滞在することになるのですから、安全確認や護衛体制の準備をしているはずです」


護衛の兵士は何を当然の事を聞くのだと、不思議そうに答える。


「あ、安全確認じゃと! それでは馬車の中も確認するのか!」


「もちろんです。不審なものが居ないか確認するのは当然ではありませんか! それとも不審な人物でも馬車に隠しているのですか?」


「ち、違います! 不審ではありませんが危険かもしれません!」


エドワルドは混乱して余計に不安にさせるような事を言った。


「なんだとぉ、それでは妃殿下に危険があるということではないか!」


兵士は顔色を変えてエドワルドを怒鳴りつける。本来なら王家の親衛隊でも侯爵相手にそんな言い方をすることはない。兵士も妃殿下が危険だと聞いて焦っていたのだ。


「殿下、馬車には話の大賢者の末裔のような……、使徒のような人物が居ます。下手に手を出せばどうなるか……」


ハロルドもアタルが短絡的に行動するとは思っていないが、何分あのアタルである。


ジョルジュは国王からその人物と、良好な関係を築きながら真偽を確認してくるように命じられていた。


「す、すぐに、護衛に余計なことをしないように命じてこい!」


「儂も行くぞ!」


ハロルドがそう言うと部屋を出てアタルの所に向かうのであった。


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