第34話 儚い願望……
色々とスッキリとした気分で公的ギルドに向かう。
クレアも恥ずかしがった割には積極的に検証には協力してくれた。公的ギルドに向かう馬車の中でも機嫌が良いのを感じる。
取り敢えず検証結果は良好であった。私としては検証というのは言い訳だったが、魔力の回復も早まったことは確認できたのは良かった。
公的ギルドに到着して中に入ると、クレアはラナたちの様子を見に隣の神像区画に行ってしまった。
私は公的ギルドの職員に案内されて、2階の会議室に行くのであった。
◇ ◇ ◇ ◇
会議室に入ると公的ギルド職員とグラスニカ領の役人の代表が揃っていた。すぐに気になっていたことを尋ねる。
「建物やシステムに問題はありませんか? 他にも足りないことがありましたら遠慮なく言ってくださいね」
勢いで始めてしまったこともあり、可能な限り協力するつもりである。公的ギルドの人が答えてくれた。
「今のところ問題は出ていないようですね。なにかありましたら報告書を送るようにします」
ギルド職員の人は笑顔で答えてくれた。
「いやぁ、信じられないくらい順調で驚いています。公的ギルドの管理システムは事務作業が非常に楽で助かっています。それに、獣人の人達も驚くほど協力的で、非常に助かっています!」
少し興奮気味に役人の人は答えてくれた。
まあ、初めて使うとそんな感じになるよねぇ~。
ギルド職員も温かい目で彼を微笑んでみている。彼もついこないだ同じような気持ちを味わったのだろう。
「孤児院はすでに稼働を始めました。すでに子供たちや孤児院の職員も新しい孤児院に移動が終わっています。孤児院の職員は福祉ギルド(仮)の職員として登録も終わり、追加で獣人の職員も雇用しました。テク魔車は一度片付けて頂いて問題ありません」
えっ、どういうこと!?
孤児院が順調なのは安心だが、テク魔車を片付けるのは何故だろう?
「え~と、もしかしてテク魔車の子供たちも一時的に孤児院に移動させたんですか?」
移住希望の獣人の子供たちが大半だったはずだ。確かにテク魔車に押し込めておくのは可哀そうだとは思う。
しかし、ギルド職員も役人の人達も驚いた表情をしている。お互いに目を合わすと、ギルド職員の人が説明してくれた。
「あ、あのぉ、ラナ様には伝えてあると思うのですが、孤児院ができたことでエルマイスターに移住せずに残ると大半の子供たちが言いまして……」
「と、特に獣人の孤児たちが、獣人の神の像がここにあるから残りたいと……。ラナ様もそれは良かったと言ってくださいまして……」
何ですとぉーーー! 私のケモミミ天国計画がぁ!
獣人の神の像があるのだから、そうなることは自然なのかもしれない。それなら、エルマイスターにも獣人の像を創るか!?
い、いや、個人的な願望は良くない! こ、子供たちのことを一番に……。
「は、働ける子やもうすぐ成人する子は、福祉ギルドの職員として雇う方向でラナ様が調整して下さっています。冒険者を希望する少年たちはエルマイスターに移住するようです」
私が露骨に落胆したのが分かったのか、役人の人は焦った表情をして追加で説明してくれたようだ。
くっ、何となくラナが俺から獣人を遠ざけてる気がするぅ。
ラナが獣人たちを無理やり残そうとしているとは思わないが、自然にそういった方向に導いている気がするぅ。
「う、うん、子供たちに一番良い方向で、お、お願いします……」
役人の人はホッとした表情を見せている。しかし、ギルド職員の人は何となく冷めた目で見ている気がするぅ。
エルマイスター領のケモミミ天国化構想を思い浮かべながら、そんなことをしてはいけないと心に誓う。
でも、獣人が多いのだから、少しは……。
願望と自制が心の中で戦っている。そのせいでギルド職員と役人からの話が頭に入ってこなかった。
◇ ◇ ◇ ◇
ネストルが宿舎に戻ったが、会議室で話は続いていた。
「ハロルド殿、あれでは追い詰め過ぎです! これでは彼が隣国に逃げるかもしれませんよ!」
「し、しかし、これまでのことを考えるとつい……」
ハロルドもカークに指摘されて口籠る。
「そうじゃ、あれでは追い詰め過ぎではないか! これだからお前は何も考えていないと言われるのじゃ!」
ゼノキア侯爵も追い打ちをかけるように責め立てろ。
「しかし、ゼノキア侯爵も戦争するのが当然のような発言をしていましたよ。途中まではいい感じにできていたのに残念ですなぁ」
カービン伯爵がゼノキア侯爵に忠告する。ゼノキア侯爵も申し訳なさそうな表情になる。
「まあ、こうなっては仕方ありません。彼が逃げてくれても困ることはありません。あとは彼が少しは頭が回ってくれることを祈りましょう!」
エドワルドの話に全員が頷いた。
「それより、あの馬鹿が行動を始めた時の準備をしようかのぉ」
ハロルドは先程の失敗を忘れたように話し始める。全員がジト目でハロルドを睨むが、ハロルドは気にせずに収納から幾つかの箱を出した。
箱にはそれぞれの家名が書いてあり、それぞれに渡していく。
「箱の中には魔道具の腕輪が入っているはずじゃ。手に取って魔力を流せば専用の魔道具になるはずじゃ」
それぞれが箱から腕輪を取り出すと、魔力を流して自分の腕に嵌める。
腕輪は簡易版スマートシステムになっており、収納や文字念話だけでなく、公的ギルド経由の売買ができるようになっている。
すぐに他のみんなは文字念話でお互いやり取りを始めた。すぐにカークが呟くように話した。
「この文字念話があるだけで、領地間の連絡がとてつもなく便利になりますなぁ。これだけでも国の在り方が変わりそうですね……」
他の皆も文字念話を止めて、カークの話に頷いている。
「まあ、そういうことじゃが、もっと驚く事ばかりになるはずじゃ。詳細は収納にマニュアルが入っている。よく読んでくれ。それと契約書にも目を通して、領地に戻るまでに署名して文字念話で送ってくれ。守秘義務と罰則も書かれているのでしっかりと検討してくれ」
ハロルドは全員を見ながら話した。
「収納と文字念話以外は使えないようだが?」
ゼノキア侯爵がハロルドに尋ねた。
「他は契約したら使えるようになるはずじゃ。その魔道具で昨日見せた魔道具なんかも購入できるようになる。その前に契約をしてくれないと危険すぎるからじゃ。
それに備蓄の塩も一度公的ギルドに売ってもらうことになる。すべての領地で備蓄の塩を同じ期間販売して、それが無くなってから新しい塩を購入できるようにする予定じゃ」
ハロルドが当然だという感じで話した。
「それも例のアタル殿が考えたのか……。本当に先を見通すようによく考えているようじゃな」
ゼノキア侯爵はハロルドが考えたなどと全く思っていないようだった。しかし、他の皆も同じような考えのようで頷いていた。
ハロルドはいつもアタルの暴走に近い行動に苦労しているのに、アタルだけが評価されていることにいまいち納得できなかった。
少しだけアタルがまた暴走して、他の皆も苦労すれば、自分の気持ちが分かるだろうと思った。それも、すぐに頭から追い払う。アタルが暴走すれば自分が一番大変な思いをすると気付いたのである。
そしてハロルドは、さらに説明を続けるのであった。
◇ ◇ ◇ ◇
商業ギルドに着いたギルドマスター達はグランドマスターが来ていることに驚き、急いでグランドマスターの居る会議室に移動するのであった。
グランドマスターのオルアットは、すでに3人のギルドマスターの解任を決めていた。しかし、今回の塩会議が終わるまでは、その事を保留にすることにしていた。
慌てた様子のギルドマスター達に笑顔を見せると、尋ねるのであった。
「報告をしてもらいましょうか?」
3人のギルドマスターはグランドマスターの反応に驚きながらも報告を始めるのであった。
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