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第28話 商業ギルドの混乱

オルアットはグラスニカの町に到着すると、すぐにグラスニカの商業ギルド支部に向かった。到着すると馬車のことを頼み、商業ギルドの建物に入っていく。


中に入るとすぐに受付の女性に声を掛ける。


「すんまへぇん、オルアットが来たとギルドマスターに伝えてくれまへぇんか?」


受付の女性は初めて見るオルアットに戸惑いながらも答える。


「申し訳ありません。ギルドマスターは不在にしております。ギルドマスターが戻りましたらオルアット様が来られたことをお伝えします。どちらのオルアット様でしょうか?」


女性は丁寧にオルアットに尋ねる。


「なんやねん! 塩会議が明日だというのにギルドマスターが不在とは信じられまへぇん。まあええわ、グランドマスターのオルアットが来たと、話の分かる奴に取り次いでくれまへぇんかぁ」


「グランド、……はっ、すぐに副ギルドマスターに伝えます。こちらにどうぞ!」


受付の女性はオルアットが、商業ギルドのグランドマスターだと気付いて顔色を変える。すぐに案内を始める。他の職員もそれに気が付き、1人が急いで奥に走って行く。


オルアットは対応として及第点だなと思いながら奥に入っていくのであった。



   ◇   ◇   ◇   ◇



オルアットは案内された応接室でソファに座ることなく、部屋の隅々まで確認していた。


案内してきた女性職員はお茶を用意すると、オルアットの行動を見て、また顔色が悪くなった。


オルアットは調度品や家具などの掃除具合を確認するように、隅から隅までチェックしているのである。指で棚や調度品をなぞると、汚れが指につかないかチェックしているのである。


女性職員は心の中で早く副ギルドマスターに来てほしいと叫んでいた。


ノックして副ギルドマスターが部屋に入ってくると、女性職員はホッとして部屋を出ていこうとした。しかし、部屋を出る寸前にオルアットに声を掛けられる。


「応接室は商業ギルドの顔のようなもの。職員に今晩は帰れないと全ギルド職員に伝えてきてくれますぅ。顔がこれじゃあ、全身が汚れてそうじゃない! 徹底して掃除してもらいますわぁ」


「は、はい!」


女性職員は涙目で返事をすると、部屋を出て全員に知らせに走るのであった。


それを横目で見ていた副ギルドマスターは冷や汗をかきながら挨拶をする。


「グラスニカ支部で副ギルドマスターをしているキラノと申します」


「そうよろしくね。それより塩会議のタイミングでギルドマスターが居ないのはどういうこと?」


「は、はい、ギルドマスターは塩会議対策で10日ほど前からヤドラス領に行っております。先程早馬でヤドラス子爵家の嫡男でネストル様とご一緒に行動していると連絡がありました。お戻りはネストル様と一緒になるということで、明日の昼頃になると……」


副ギルドマスターのキラノの話を聞いて、塩会議でヤドラス子爵と一緒に行動するのは、いつものことだと思い出す。塩会議は商業ギルドにとって影響が大きいので、王都にも必ず詳細な報告が上がっているのである。


オルアットは取り敢えず、本来の目的であるエルマイスターの情報収集を始めることにする。移動中にもエルマイスターのダンジョン内で買取が始まった情報を掴んでいた。ますますエルマイスターの調査に来てよかったと考えていた。


「悪いけどエルマイスターの情報をお願いしますわぁ。エルマイスター支部と情報のやり取りをしてはるでしょ?」


オルアットは普通に訪ねたのだが、なぜかキラノは戸惑った表情で答えた。


「最近はエルマイスターで色々と起きているのは聞いているのですが……。何度もエルマイスター支部にその辺のことを伝えて欲しいと連絡をしているのですが、一向に返事がきません。それなりに定期的に連絡をしていたのですが、それもない状態でして……」


オルアットは信じられないという表情になる。商業ギルドにとって情報はもっとも重要なものである。それが滞るとは許されない失態である。


「エルマイスター支部のギルドマスターは何をしているの!」


オルアットは思わず大きな声を出してしまう。


「エルマイスター支部のギルドマスターもここのギルドマスターと一緒に行動しているかと……」


キラノの話を聞いて、少し冷静になる。塩会議が最優先事項なのは仕方がない。しかし、塩会議対策に動く前にダンジョンの情報が入っているはずである。


「エルマイスター支部のギルドマスター、たしかブルハだったはず。彼が塩会議対策で移動する前にここにも寄ったはずだ。その時の報告はどうなっている?」


オルアットは普段の商人っぽい砕けた話し方が無くなってきた。


「それは……」


キラノはどう報告して良いのか分からず戸惑った。ブルハがここに来たのは半年以上前だったからだ。そしてキラノはブルハがほとんどエルマイスターに居ないことも知っていた。それを報告して良いのか迷ったのである。


「どういうことだ? グランドマスターの私に報告できないことなのか?」


それまでも油断できない雰囲気はオルアットにあったが、キラノは部屋が急に冷え込んだと錯覚するほど、オルアットに冷酷な雰囲気を感じた。


「も、申し訳ありません。ブルハ殿の姿を見たのは半年ぐらい前だったと思います。彼はエルマイスターにほとんど戻ることなく、家族もヤドラスに住んでいます!」


オルアットは驚きのあまり暫く反応できなかった。


自分が管轄する町に住んでいない!

半年も管轄する町に戻っていない!

ギルドマスターがそんなことをして許されるはずはない!


「あなたが知っているということは、ここのギルドマスターも知っているということだね?」


キラノは自分の上司であるギルドマスターを糾弾している形になってしまうが、グランドマスターに逆らえるはずなどない。


「はい、……周辺のギルドで知らない者は居ないと思います。出入りする商人も知っていると思います」


「誰がエルマイスター支部を管理しているのかしら?」


「副ギルドマスターが基本的には管理していると思います。月に1度は最低でもブルハ殿からの指示書を転送していました」


あまりにも信じられない話に、だからこそエルマイスターの変化に商業ギルドが情報で出遅れたとオルアットは考えるのであった。


ブルハの処分はもちろんだが、周辺のギルドマスターの処分も必要だと考える。もし、それが原因で商業ギルドに損失が出るようなら、全員に賠償責任を取らせようとオルアットは心の中で決める。


だが今はそれ以上にエルマイスターの情報を収集する必要がある。


「ギルドマスター達のことは別に対処するわ。それよりもエルマイスターで分かっている情報を貰えるかしら。それに集められるだけ集めるようにすぐに指示を出しなさい!」


キラノはすぐに職員に指示を出しに行く。そして戻ってくると、自分で分かっていることや、噂程度の話まで全てオルアットに話したのであった。



   ◇   ◇   ◇   ◇



話を聞いたオルアットは、想像以上にエルマイスター領が商業ギルドにとって重要であると感じた。


ダンジョンの買取は、予想以上に深い階層までだった。いくら買取所が設置できたとしても、輸送の問題もある。それでも儲け話の匂いがプンプンとしていた。


コストが多少かかろうと、ダンジョン内で買取ができるなら、そのコストは間違いなく解消できる。そしてそうなれば冒険者も儲かるので集まり、さらにダンジョン素材がたくさん手に入るのである。


そしてダンジョン周辺に町までできているという。人の動きが増えることを想定した、完璧な戦略だとオルアットは思った。


しかし、現状では商業ギルドが絡んでいる雰囲気もなければ、噂でしかないが商業ギルドに成り代わるような組織が作られているとの話まであった。


それ以外にも犯罪者を特定できるような魔道具や、塩の値下げと販売制限の解除。どれをとってもエルマイスターで何かが起きているのは間違いない。


そしてさらに驚いたのはエルマイスター辺境伯が塩会議に来るのに、馬ゴーレムをたくさん連れて来たことである。


残数が少ない馬ゴーレムをたくさん持っている。それも古くなった様子もない。教会のポーション事件も含め、全て同じ方向に話がまとまっていく。


エルマイスターに大賢者に相当する人物が現れた!


現状ではオルアットの推測でしかないが、それが本当だとしたら商業ギルドは少しでも早く、エルマイスターと繋がりを深くする必要がある。


そしてその事を全く気付いていなかったギルドマスター達……。


塩会議以上に重要な事態だとオルアットは考えた。


まずは何としてもエルマイスター辺境伯と繋がりをつくり、大金を投資してもエルマイスターに入り込む必要がある。


オルアットの頭の中では商人としての計算が次々と浮かんでいたのである。


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― 新着の感想 ―
[一言] ギルマス優秀。最初からまともな人材がエルマイスター領の商業ギルドを差配してたら手を取り合えたかもしれないのに。
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