第11話 出自と結婚と魔法
まさか、こんな所で領主に逢う事になるとは想像もしていなかったが、この時点で判明しているのは、自分がこの世界で生きて行くのに、この出会いは悪くないという事だ。
この世界の常識もない、戦闘能力も大してない自分には、暫く情報収集と生活の基盤を作るのに良いと思う。
悪そうな人に見えないし、大丈夫だろう。
「先程のポーションは本当にアタル殿が作ったポーションなのか?」
「はい、そうです。それよりアタル殿は止めてください。アタルと呼び捨てで構いません。それより私は辺境伯様をどのように呼べば宜しいのでしょうか?」
「ふうむ、そうじゃなぁ、ではアタルと呼ばせて貰おう。儂はハロルドで良い」
「では、ハロルド様とお呼びします」
戦闘後に爺さんと呼んだのは許してくれそうで良かった。
「それでポーションの事じゃが、アタルが自分で作ったことは内緒にする方が良いと思うんじゃ。ポーションは教会で作ったのを買うのが一般的な事で、ポーションを作れる者のほとんどが教会の人間じゃ。
アタルがポーションを作れて、何処にも所属していないとなると、正直儂にもどんな影響があるかわからん」
そうなのぉ、聞いてないよぉ!
「そ、それじゃあ、教会の人間以外でポーションを作れる人は居ないんですか?」
「もちろん居るのだが、大体は国か大貴族のお抱えじゃ。アタルもどこかに雇われていたのではないのか?」
どうしよう……。記憶喪失? 使徒になる? 無理だぁ!
「実は他からは隔絶された村の出身で、その村の師匠にポーションの作成方法や魔法の事を教えて貰ったのです。村の詳細は他で話してはいけないしきたりで、嫁を探すために村を出て来たんです」
「だから、ミュウと出会ったんだぁ」
それは違います!
「嘘くさい話じゃのう。しかし、命の恩人を疑って問い詰めるのも出来ないのう……」
はい、嘘です。追求しないで下さ~い。
「ポーションの事は、旅の途中で手に入れたことにしてくれ。それと収納スキルも持っているようじゃが、それも極力使うのは控えてくれると助かる。
収納スキルも比較的珍しいスキルになる。そんなスキルを持つものが、何処にも所属せずにふらふらしておれば、誘拐されて無理やり隷属魔法で奴隷にされるぞ」
イエス、サー!
「了解しました」
「細かい事は町に行ってから話をしよう。3人で生活できるように手を貸すので安心してくれ」
「ありがとうございます」
んっ? 3人?
シャルとミュウが嬉しそうに私の顔を見て笑ってる?
なんか疲れたぁ。細かい事は今度にしよう!
「ところでアタルは何歳になる?」
まだ質問が続くのね……。
「28歳になります」
「もう少し若いと思ったが問題ないようじゃ。どうじゃそこのクレアと結婚せぬか?」
「閣下!」
クレアさんは思わず叫んだ。
「すてき! 命を救ってくれた殿方と夫婦になる。物語のようですぅ~♪ あっ、でも私も命を救われたのだから私が夫婦になっても♪」
「アリスは何を言っておる。お前にはまだ結婚は早い!」
え~と、変な方向に話が進んでいるみたいですが?
「アタルはミュウと結婚する!」
お願いだから7歳のミュウまで参戦しないで下さい。
「なぜ突然クレアさんと結婚の話が出るのでしょうか?」
なぜかハロルド様が驚いた顔をする。
「アタルが嫁を探すために村を出たと言ったからではないか?」
あぁ~、そう言えば言ってしまいましたねぇ。
「クレアは24歳じゃ、普通なら行き遅れと言われる年齢だが、家を再興するために良い男を選んで結婚が遅れておる。
しかしじゃ、しかし先ほどクレアはあと少しで命を落とすところだった。あの時に儂は後悔したのじゃ、なぜもっと早く結婚させなかったのか、なぜ早く跡取りを生ませなんだのかと」
老騎士は最後には叫ぶように話した。クレアさんも俯いて聞いているようだ。
それって、私はあまり関係ないよね?
「アタル殿となら年齢的にも丁度良い感じだ。
アタル殿は戦いには向いていないか、もしくは殆ど経験がないのじゃろう。クレアもそれは見ていたので解るであろう。
それでも儂らを助けてくれたのじゃ。アタル殿は勇気を持って行動してくれたのじゃ。お前の考える強さとは何じゃ!
それに正直に話すがアタル殿は非常に多才だと思っておる。戦いに強い男よりよっぽどお前の婿に向いておる。」
「閣下、お話は解りました。しかし少しお時間を頂けないでしょうか?」
「うむ、すぐに結論を出せとは言わん。領に戻ってから落ち着いて考えてくれ。」
なんでそんな話になるの?
どう考えてもあり得ない展開だよね!
アタルは途中から自分とは関係なく話が進むことに、もう考えるの止めていた。
「アタル殿には関係ない話ばかりですまん!」
「すみません。私も色々なことがありすぎて今は何も考えられない状況です。」
神様、何かしましたかぁー!
「どうじゃ明日一緒に我が領に来てゆっくりと考えてくれるか?」
「………それでお願いします。」
アタルはそう答えるのが精一杯だった。
話が終わるとちょうど他の者も建物に入って来た。その中のヨアヒムと呼ばれた騎士が近づいて来た。
「お嬢様こちらを、まだ夜は寒くなります。閣下にはこれを。」
そう言ってアリスお嬢様にはブランケットをハロルド様には大きなマントを渡すと頭を下げて竈の方に向かって行く。
「アタル様に聞きたいことがあるのですがよろしいでしょうか?」
アリスお嬢様はブランケットを膝にかけるとアタルに問いかけてきた。
「はい、何でしょうか?」
「先ほどアタル様がそこに出したのは灯だと思うのですが、詠唱もありませんでしたし、私やクレアと比べても明るさや色が違うのですが何故でしょうか?」
アタルは自分でも今日初めて魔法を使ったので人と違うと言われても困ってしまう。取り敢えずそれらしく誤魔化そうと考えた。
「え~と、詠唱は頭の中で唱えていました。色や明るさは…たぶん灯のイメージが違うのではないでしょうか?」
「灯のイメージですか?」
「はい、クレアさんの灯は松明みたいだから松明を無意識にイメージしているのではないでしょうか?
私は小さな太陽なイメージで灯を使っています。」
さすがにLED電球とは言えない。
「そうですか…灯」
アリスお嬢様が唱えるとアタルより明るい光が一瞬だけ光って消えてしまった。
「お嬢様!」
アリスお嬢様はテーブルに手をついて気分が悪そうになっている。
「こらアリス、教えられたからと言っていきなり試すのはダメじゃ。魔力切れになって気分が悪くなったのであろう。」
アタルは自分のせいかと思い砂糖の結晶を取り出した。
「お嬢様、これを口の中に入れ舌の上で転がすように舐めてください。」
アリスお嬢様はそれを受け取ると、躊躇なく口の中に入れ舐め始める。
「あみゅーい!すぎょいあみゃいでしゅ!」
(あまーい!すごい甘いです!)
頬に両手を当てアリスは叫んだ。口の中に砂糖の結晶があるので言葉を噛みまくっていた。
そんなアリスお嬢様をアタルは微笑ましく見る。
「それに魔力もすぐに回復しゅました!」
砂糖の結晶を移動させたのか、片方の頬を膨らませながら先程より噛まずに話した。
「アタル殿、先程のあれは魔力回復ポーションのような物なのか?」
「いえ違いますよ。あれは砂糖の結晶です」
「あれが砂糖……? それも驚きだが砂糖で魔力を回復するなど聞いたことがない!」
その話にアタルも疑問に思うことも有ったが説明を始めた。
「空腹だと魔力が中々回復しないことは?」
「確かにそれは知られておる」
「では食べ物の種類によって魔力の回復速度が違うことは?」
「それは聞いたことがないのう」
「私も偶々、果物を食べたら魔力の回復が早くなると気付いて、より甘い果物を食べると回復が早いのではないかと試してみたことがあり、それならば砂糖ではもっと早いのではと試したら、魔力の回復が早くなったので」
「アタル殿は本当に博識じゃのう。やはり儂はクレアと結婚してそばにいて欲しいのう」
えっ、また結婚の話!?
アタルは誤魔化すために話を変える。
「お嬢様は太陽のイメージが強すぎたのでしょう。もっと小さく明るさも弱くしないとダメな気がします。それこそ私の灯を参考に、最初はあれを出来るだけ弱くしたものをイメージした方が良いかもしれません」
「はい、失敗はしましたが、イメージで灯が変えられることは確認できました。」
それ以降は特に問題ない話題で盛り上がり、途中で他の者が食事を用意してくれたが、味のないスープとやたら固い黒パンを我慢して何とか食べる。
自分とは違いシャルとミュウは嬉しそうに食べている。
晩飯を食べているとクレアさんが改めてお礼を言ってきた。この時に初めてクレアさんをよく見ることができた。
髪は薄い金髪でエメラルドグリーンの目は宝石のようである。顔はキリっとした美人だが、笑うと少し幼くなるため可愛らしさもある。スタイルは皮の鎧を付けているが、それでもスタイルの良さが分かるほどである。
神様、何かしましたかぁー!
思わず心の中で叫んでしまうほど、好みのタイプの女性だった。
食後は辺境伯だけではなく他の者たちもLED型灯に挑戦を始め、就寝する頃には全員がLED型灯が出来る様になっていた。
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