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第3話 旅は楽しく

ヤドラス一行は明るくなり始めた村から出発する。一行といっても馬車1台だけである。


馬車にはヤドラスと裏ギルド職員3名、ギルド職員2名の合計6名しかいない。2頭立ての馬車が1台、誰の見送りもなく村を出発した。


馬車の中ではヤドラスが眠そうな顔をしながら愚痴を溢す。


「タルボットも見送りぐらいしろ!」


タルボットは朝食にも起きてこず、見送りにも来なかった。

彼らは自分達の任務を考えて昼頃まで寝て行動を始めるつもりである。ヤドラスの部下でもない彼らが、無理して起きてくる理由は全くない。


ヤドラスに帯同する者達はタルボットの任務内容は知らないが、別任務で行動している彼らに不満を感じる者はいない。

それどころかくだらないことで愚痴をまき散らすヤドラスに、内心ではうんざりしていたのである。


「おい、護衛もつけないで本当に大丈夫なんだろうな!?」


「大丈夫です。全員冒険者としてもそれなりの腕の者達です」


答えたのは裏ギルド職員の1人である。

無駄に人を増やしても移動に時間が掛かるだけなので、今回は護衛を兼任できる裏表のギルド職員がヤドラスに帯同しているのだ。


「もし私が危険な目にあったら、お前達を処分するからな!」


「「「………」」」


旅に危険はつきものである。それを処分だと言いだされたら納得できない。3人の裏ギルド職員は冷酷な目でヤドラスを睨んで返事もしなかった。


裏ギルド職員の雰囲気にヤドラスは言いすぎたと思ったが、謝罪するつもりはもちろんなかった。


「わ、私は寝る! 昼まで起こすな!」


「「「………」」」


「チッ!」


誰も返事をしなかった。ヤドラスは舌打ちすると寝ようと毛布を顔まで掛けるのであった。



   ◇   ◇   ◇   ◇



ハロルド一行は広い草原で昼食を食べていた。

テク魔車で食べても良いのだが、旅に出たのに馬車内だけでは楽しくないという理由で、テク魔車を止めて休憩することにしたのだ。


テーブルを出して左右にミュウとキティが座り、その両サイドにクレアとラナが座っていた。


子供ができたらこんな感じで食事するのかなぁ~。


そんな未来を想像するとニヤニヤするのが抑えられない。


「アタルは楽しそうじゃのぉ」


正面に座って一緒に昼食を食べるハロルド様は、自分を見て呆れたように呟いた。


「えぇ、気持ちの良い草原で、家族と一緒にのんびりと食事する。最高じゃないですか!」


まるでピクニックに来た感じで楽しかった。それは自分達だけではなく他の人達も同じだと思う。草原に座ってのんびりと食事している人もいる。

兵士たちも警戒しているようだが、それほど深刻な雰囲気もない。時折近くに角ウサギが出ても楽しそうに狩りをしている。


たぶん、テク魔車から念話文字で指示しているんだろうなぁ。


魔物の位置が把握できることで余裕をもって対処しているのだろう。


「それは良かったのぉ。ところでアタルはこの場所がどこかわかるか?」


「いえ、初めてくる場所だから全然わかりませんね」


ハロルド様が何故そんな質問をしてくるのか分からないが、正直に答える。


「そうか……。ここはのぉ、普通なら旅の2日目に昼休憩をする場所じゃ」


「そうなんですかぁ。だからのんびりとできる場所なんですねぇ」


私は感心するようにまた草原を見渡す。


うん、いい場所だ!


「ふぅ~、アタルよ、そういう話ではない。領都から半日でここまで着いたことが問題なんじゃ!」


えっ、なんで?


「え~と、それは良いことですよね?」


ハロルド様の言いたいことがよく分からない……。


「良いことじゃ! だが、この分だと今日泊まる予定の村に随分早く到着する」


「おお、それなら村を観光できそうですね!?」


私はまだ領都以外の町や村を見たことがない。到着が遅ければ寝るだけだったはずだ。早く着くなら村を見て回れる。ハロルド様の話を聞いて楽しみに思う。


しかし、何故かハロルド様が疲れた表情をしている。


「お前の話だと4日で着く旅が2日になると言ったはずじゃ」


「ええ、そうです。計画通りじゃありませんかぁ」


「テク魔車は速度を抑えて走らせたのぉ」


「ええ、あまり速いと乗り心地が悪くなりますからね」


「乗り心地……。乗り心地を考慮せねばもっと早く着くということじゃな?」


「ええ、でも揺れたら嫌じゃないですかぁ」


「馬車が揺れるのは普通だと思うがのぉ……。好き嫌いは別にして、もう少しだけ早くテク魔車を走らせれば、昼頃には目的地の村についたのではないか?」


「う~ん、確かにそうかもしれませんねぇ」


「それなら、急げばグラスニカ領の領都に1日で着けることになる」


「確かにその可能性はありますねぇ」


「はぁ~、それがどれほど非常識なことか分かっているのか?」


まあ、確かにこれまでの常識に比べればそうなるだろうが、今さらそんなことを言われても……。


「た、確かにそうですが、元々1日で進める距離は余裕を持っていましたよね。例えば領都からあの休憩所まで、歩いて1日の距離ではありませんよね。馬だけなら半日も掛からないし、人でも走れば昼前に着くと思いますよ。

馬並みの速度で休憩せずに進めば、当然の結果じゃありませんか。それに、サバルさんが完璧な護衛をして、テク魔車の運行を止めずに進めたからですよ」


一緒に食事していたサバルさんは私に褒められて嬉しそうに答える。


「それもアタル様の護衛マニュアルがあったお陰です。急遽マニュアルを確認しながら、今日に備えて昨日訓練をしただけです」


「いやいや、たった1日で完璧にできるようになるのは、騎士団の能力が高いからですよ。サバルさんの指揮も完璧だったじゃありませんかぁ?」


そう話すとサバルさんは満面の笑みを浮かべる。


「すべてはアタル様の考えが正しいということです!」


こいつぅ~! あの時は随分と私に噛みついてきたのに、まるっきり別人じゃないか!


女性優先の件を勘違いして文句を言ってきた人と、同じ人とは信じられない。


まあ、変に嫌われるよりは良いけど、なんだかなぁ……。


ハロルド「そういう話ではないのにのぉ……」

クレア「アタル様ですから」

ミュウ「アタルだもん!」

キティ「そうだもん!」

ハロルド「そうじゃのぉ……」


なんかいつもの流れになった気がするぅ。


「ま、まあ、本当に1日で移動できるようにするには、道の整備や魔物の対策も必要になりますね。今は無理する理由はないし、このあと行く村も寂れてしまうのじゃありませんか?」


話しの流れを変えようとそれらしい話をする。


「いや、もう良いのじゃ。今さらアタルに常識の話した儂が間違っていたのじゃ……」


くっ、結局、ディスられている気がするぅ!


「ハロルド様、健康ドリンクを飲んで元気を出してください」


ラナが健康ドリンクの入ったカップをハロルド様に差し出す。


「おお、アタルと違ってラナは常識があるのぉ」


そこにどんな常識があるんだぁーーー!


私は見なかったふりをして、食事を続けるのだった。



   ◇   ◇   ◇   ◇



時間的に余裕があるので兵士たちが交代で休憩を終えるまで、草原に留まることになった。


ハロルド様は6人掛けのテーブルでクレアとラナとお茶を飲みながら話している。それ以外のテーブルは片付けてしまった。


私はミュウとキティと草原で追いかけっこをしていた。

2人は獣人だからか動きが早く、身体強化1を使っても、捕まえられそうになる。身体強化2を使って逃げ回るのであった。


しかし、テク魔車に戻っていたサバルさんが慌てたようにハロルド様の下へ走って行くのが見えた。気になったので地図スキルを見ると、馬車が1台こちらに向かってくるのに気付く。馬車には6人ほど乗っているようだ。


警戒するほどではないが、色々とみられるのはまずい。子供たちを危険にさらしたくないので、2人を自分達のテク魔車に連れていく。


2人を中に入れてハロルド様の方を見ると、他の兵士達や公的ギルドの人達もテク魔車に戻って行くのが見えた。


クレアとラナはハロルド様の所に残っているので、心配になってハロルド様の所に行く。


「アタル、商人と思われる馬車が近づいているようじゃ。問題ないと思うが念のため必要以上の人数は見せないようにテク魔車に戻したぞ。

向こうもここで休憩するじゃろう。儂が居ることをハッキリ見せれば変なことはしまい」


テク魔車とウマーレムは隠せないが、詳細な情報をハロルド様も他には教えたくないようだ。過剰な人数が馬車に乗っていることを知られない配慮だろう。


まあ。それでもウマーレムと12人の騎士が残っているのだ。6人ぐらいでは全く問題無いだろう。


「適当にサバルに挨拶させて出発するぞ。領内の商人なら挨拶に来るかもしれん。そのためにもラナやクレアに残ってもらったのだ。領主として余裕を見せんとな」


格好つけのためにラナを残したのか!?


クレアは騎士姿だが、ラナは綺麗な服装をしている。それこそ貴族家の人間に見えるだろう。


そんなことを考えていると草原に馬車が入ってくるのが見えたのである。


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