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第31話 羊のお宿のメリーさん

羊のお宿がある路地に入ると子供たちが走りだした。


フォミが先頭で宿と思われる建物の扉を開けて中に入っていくと、キティも肩から降りて追いかけていく。シャルとミュウは戸惑いながらも、他の子達と一緒に中へ入っていった。


クレアとお互いに顔を見合わせて笑うと、子供たちに続いて宿の中に入る。


宿の中は年季の入ったテーブルや椅子が置かれて、1階は食堂になっていた。手入れがよくされているのか中はスッキリとして、暖かい雰囲気の宿であった。


子供たちは受付の羊獣人のふっくらしたおばさんに抱き着いていた。


騒がしい雰囲気に心配して食堂を見ると、2組の冒険者と思われる獣人が、少し警戒するように私達を見ていた。


「おい、お客さんがいるんだから騒いではダメだろ?」


心配して声を掛ける。


「「「は~い!」」」


その返事が騒がしいよぉ。


「大丈夫だよ。子供たちの楽しい声を嫌がる客はウチには来ないさ!」


羊獣人のおばさんが大きな声で子供たちを抱きしめながら話した。客の獣人たちも苦笑いしながらも頷いている。


フォミが私の所へ来る。


「アタル兄ちゃん、お肉を出して!」


私は軽く客の獣人に頭を下げてから、羊獣人のおばさんに話しかける。


「この子達を雇っている者で、私はアタルと言います」


「私はこの羊のお宿の女将でメリーよ。あんたが噂のアタルさんかい?」


え~と、どんな噂なのか気になるぅ~。


「ねえ、お兄ちゃん早くぅ!」


返事をしようとすると、フォミに急かされる。仕方ないので先にそれを済ませることにする。


「実はこの子達と一緒に町の外に薬草の採取に行ったんですが、その時に獲った角ウサギを買い取って、メリーさんにお土産で渡したいとこの子達が言ったので、持ってきたのですが?」


そう説明すると、メリーさんが真面目な顔で返事する。


「それは貰えないねぇ」


「な、なんで!? ちゃんと自分で稼いで、メリーさんにお礼がしたかったんだよ!」


フォミが驚いてメリーさんに言う。メリーさんは腰に手を当ててフォミに理由を話す。


「少しぐらい稼いだぐらいで生意気なことをするんじゃないよ! そういうことは、私より稼いで、金持ちの旦那を見付けてからにしておくれ。それまではこうやって顔を見せてくれるだけでいいんだよ」


メリーさんは豪快に話しながらも、最後は優しい笑顔でフォミに話した。


うん、話を聞いた感じでこうなると思ったよ。


メリーさんは、想像した通りの優しくて暖かく、本当にお母さんと呼びたくなるのが分かる気がした。


「それなら大丈夫よ! 私達はみんなアタル兄ちゃんのお嫁になるからね!」


ちょいちょい、シアさんや、それではハーレム作るために雇ったみたいじゃん!


フォミ「うん、そうだよぉ~」

カティ「たぶんお金持ちぃ!」

キティ「キティもおよめさ~ん!」

ミュウ「わたしは運命なのぉ」

シャル「それなら、私も……」


メリーさんに生温かい視線で見られて困ってしまう。


「みんなは家族も同然だけど、お嫁さんは違うんじゃないかなぁ~」


「でも私の恥ずかしい所を見られたから、お嫁になるしかないの!」


ちょいちょい、シアさんや、それは治療だからね。


「タウロも見たと言ってたぞ。タウロの方が先だから、シアはタウロと結婚するのかな?」


シア「それは、絶対ありえない!」

カティ「あれはお漏らし君だから」

フォミ「あいつ女の子みたいにちっちゃいのよ!」

キティ「ちっちゃいのぉ~」


うん、タウロには優しくしてあげよう。


「本当にアタルさんは噂通りねぇ。体が細いから私好みじゃないけど、モテるみたいねぇ」


色々気になるが、今は聞き流そう。


「みんなぁ、雇い主として今日はここで夕食にしたいと思いま~す。急で申し訳ありませんが、大丈夫ですか?」


「あ、ああ、大したものは用意できないけど、それでもいいなら用意するよ!」


「「「やったー!」」」


「だから他のお客さんが居るから騒がない!」


「「「ごめんなさ~い!」」」


子供たちがお客の獣人たちに謝る。


「気にするな。子供たちの元気な声を聞いて文句を言ったら、メリーさんに俺達が追い出されるよ」


一番厳つい感じの獣人の男がそう話すと、他の獣人たちも同意して笑っている。


「すみません。食材の持ち込みは大丈夫ですか?」


子供たちが獣人たちと楽しそうに話しながら席に座るのを見て、メリーさんに尋ねる。


「本当に噂通りの人みたいね。子供たちのために持ってきた食材を出すのね?」


メリーさんは笑顔で話す。


「いえ、子供たちが買い取る予定だった角ウサギは、あちらのお客さんに迷惑を掛けたお詫び代わりに出してもらえます」


そう言って角ウサギをストレージから出す。


「ふふふっ、中々やるねぇ~」


「それと、子供たちはこの肉を料理して出してもらえますか?」


そう言って今度はオークの肉をストレージから出す。


「こ、これは、オークの肉じゃないのかい!?」


「実は昨日までダンジョンに行っていたので、子供たちへのお土産です」


「「オ、オーク!?」」


羊獣人の2人の子供が驚いて肉を見ている。たぶんメリーさんのお子さんなんだろう。


「お願いがあるけど良いかな?」


「なんでしょうか?」


年上の羊獣人の女の子が返事してくれた。


「みんなと友達になって欲しいから、一緒に食べてくれるかな?」


「「えっ!?」」


2人は驚いたように声を出し、母親のメリーさんを見上げる。


「はぁ~、噂以上のお人だねぇ~。行っておいで」


2人は嬉しそうにシア達のテーブルに行ってくれた。


羊獣人の尻尾触ってみたいなぁ。下の子なら大丈夫かなぁ。


「ゴホン!」


あっ、クレアに見られていたみたいだぁ。


「ククク、噂通りの人みたいねぇ~」


メリーさんにもバレたようだ……。


「え~と、少し多めに渡すのでメリーさんも食べてください」


追加でオーク肉を出して、逃げるように子供たちと合流するのであった。



   ◇   ◇   ◇   ◇



宿の料理は非常に美味しかったが、残念ながやはり塩が足りない感じだ。この町の料理が、塩が足りなくて物足りなく感じていたのは間違いないだろう。


それでも、少ない塩でこれほどの料理を作るとは油断できない料理人である。メリーさんの旦那さんが作っていると聞いたが、オーク肉の火の通し方は絶妙である。


料理系のスキルを持っているのだろう。


「あ、あの、俺たちまでご馳走になってありがとうございます」


獣人の客の1人が近づいてきて話しかけてきた。


「いえ、ご馳走すれば、騒ぎすぎても怒られないだろうと思っただけですよ」


やはり獣人は見た目が恐そうだけど、普通に良い人たちだった。


「いえ、全然大丈夫です。それよりダンジョンから戻ってきたと言ってたけど、少し話を聞いても良いかな?」


「はい、構いませんよ。なんでしょうか?」


獣人の男は恐縮したような顔で質問してくる。


「噂ではダンジョン内で買取をしてくれると聞いたんですが?」


「本当ですよ。1層は食事と買取所だけで、4、7、10層は宿泊もできますよ」


他の獣人の仲間たちも一緒に話を聞き、嬉しそうに声を上げる。


「おい、噂は本当だったよ!」

「来て良かったなぁ~」

「兵士も俺達を馬鹿にしなかったぞ」

「この町は最高だなぁ」


聞くだけで嬉しい話が聞こえてくる。


「あぁ~、やっぱり本当だったんだねぇ~。冒険者が戻ってこないから心配してたけど、噂は本当だったんだねぇ」


ちょうど皿を片付けに来たメリーさんも聞いていたようで、納得した感じで呟いていた。


少し心配になり尋ねてみる。


「冒険者が戻ってこなくなって商売が大変じゃないですか?」


メリーさんは少し考えてから答えてくれた。


「う~ん、確かに客足は減ったけど、噂が広まったのか、彼らみたいに町にやって来る人がちょこちょこと来始めたねぇ。まだわからないけど、もっとそういう人が増える気がするねぇ」


「いや、間違いなく増えると思うぞ。話を聞いただけでも稼げそうだし、冒険者なら絶対に美味しい話だと思うぞ!」


獣人の冒険者は嬉しそうにメリーさんに話した。


「あっ、でも買取しているのは冒険者ギルドじゃないから、冒険者ギルドのランクとかは上がらなくなるよ」


念のために説明しておく。


「へへへ、そんなのは関係ないさ。獣人は冒険者ギルドでは中々ランクを上げてくれないし、ランクを上げても獣人には指名依頼も来ないからな」


まあ、そういうことなら問題ない。


それから何度も質問され答えるたびに、彼らが嬉しそうに話す姿を見て、ダンジョン改革は大正解だったと嬉しく思うのだった。


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