第8話 情報収集
何故か真実を話したのに嘘つき認定されてしまった。
そうなると思ってたけどね。
酷い疑いをかけられたが、予想通りの反応に微笑んでいると、シャルは気持ち悪そうに私の事を見る。
「それで、情報料としてこれをあげようと思うだけど、どうかな?」
そう話すと、ウサギの塩焼きをストレージから出す。
良い匂いが立ち込めて、二人はウサギの塩焼きに釘付けだ。
ふふふっ、作戦通り!
ミュウは涎を垂らしているし、シャルも涎が垂れそうになったが、手で拭って誤魔化した。
ウサギの塩焼きをストレージに戻す。
「教えてくれるかな?」
目の前からウサギの塩焼きが消えて、二人を酷く落胆して、物欲しそうに私を見て来たので、チャンスだと思いお願いする。
「も、もちろん、知っていることは教えるさ!」
「ミュウもおしえるの!」
二人の必死な表情に、自分の卑怯な交渉方法に複雑な気分になるが、ここは仕方ないと納得しよう。
「その前に、その汚れた手で食べるのかい?」
全身も汚れているが、手は泥や植物の汁でもついているのか非常に汚い。そんな手で食事をしたら、絶対に体に悪そうだ。
二人も自分の手を見て、ミュウは服で手を拭いている。
「か、川で洗ってくる!」
そう言って急いで立ち上がろうとしたシャルを止める。
「待った! シャルの手を貸して」
手を出してシャルに手を出すように話すが、シャルは手を引っ込めてしまう。
仕方がないので、テーブルの上に手を開いて乗せる。
「この上にシャルの手を乗せてくれるかい」
優しく話すと、少し警戒しながらも、手を乗せてくれた。
想像以上に骨ばった手に胸が痛んだが、すぐに洗浄をシャルに掛ける。
ええええっ!
目の前には真っ白い髪のケモミミ少女が突然現れた。先程までベトついていた灰茶色の毛がフワフワの白い毛にクラスチェンジしたのだ。
シャルもスッキリしたのか、嬉しそうに手や体を確認している。ミュウは期待の眼差しを私に向けて前に出て近づいて来る。
ミュウが近づいて来たので、動揺したのを誤魔化してまた手をテーブルに乗せる。
「ウワォン!」
私の手にミュウが手を乗せた瞬間に、手を閉じて吠える真似で脅かした。
予想以上にミュウは驚き、目に涙を浮かべている。
ま、不味い。やり過ぎたぁ!
「はっはっは、ゴメン、ゴメン。ミュウがあんまり可愛いからつい意地悪を……」
二人がジト目で睨んで来るので。途中で話を止めてしまった。
「早くしないと、食べれないよ!」
仕方がないので、また姑息な手段を利用してしまった。
「アタルのバカ!」
ミュウに罵られたが、食欲に負けたミュウは手を乗せる。今度はすぐに洗浄を掛けてやると、ミュウも嬉しそうな表情に変わった。
ミュウも白かったんだ……。
シャルと同じように、白いフワフワのケモミミ幼女にクラスチェンジした。ミュウは尻尾まで可愛かった。
私はすぐにウサギの塩焼きを、二人の前にそれぞれ出して、フォークを出そうとして金属製か木製か迷っていると、二人は手でつかんで齧り付き始めた。
これは、……ひとつじゃ足りそうにないなぁ。
私は後で食べるつもりだった、ウサギのモモ肉のオーブン焼きをストレージから出すと、ナイフを取り出して切り分け始める。
既に塩焼きの無くなった皿に、切り分けたモモ肉を置いてやると、ふたりはすぐに食べ始める。
途中でミュウが喉に詰まらせる、お約束も無事に乗り越え、既にモモ肉は骨だけになり、ふたりは満足した表情を見せている。
「たくさん報酬を先払いしたし、報酬に見合う情報を教えて貰えるかな?」
二人が落ち着いたのを見計らって、情報収集を始める。
「わ、わかった。何が聞きたい?」
まずはこの辺りがどんな場所なのか確認をする。シャルは本当に私がこの辺りの事を何も知らないので驚いていたが、報酬は既にお腹の中なので、快く説明してくれた。
この建物の前の道を左に進んで行くと、この国の端っこの辺境の町があるが、近くにダンジョンがあり、比較的栄えているようだ。
右に進むと幾つかの村があり、その先に大きな町があるようだが、シャルたちは途中にある村から、別方向に進んだ村に住んでいたらしい。
詳しく聞いてみると、父親が随分前に亡くなって、最近母親も亡くなったそうだが、母親が亡くなると、村長が二人を奴隷商に売り払おうとしたので、逃げて来たらしい。
シャルたちの住んでいた地域の領主と、この先の辺境の領主は違うので、こちらに逃げて来たらしい。
何となく周りの地理的状況は理解できた。
「それで、君達みたいな獣人族は普通に居るのかい?」
シャルに質問すると、少し呆れた顔をしたが説明してくれた。
「アタルは人族だろ、人族は私達の事をまとめて獣人とか獣人族と呼んでいるが、私とミュウは白狼族だ。母さんは白狼族は神獣様の誇り高き眷属だと言っていた!」
神獣なんているんだぁ。
「神獣様はどこに居るの?」
「そ、それは、……知らないわ!」
もしかして『伝説のぉ』とか『物語でわぁ』とかの話なのか?
「獣人族と人族は普通に一緒に暮らしているのかい?」
「一緒に暮らしているし、お父さんは人族だった。でも最近では人族が獣人族を馬鹿にすることが多いとお母さんは言ってた」
異世界あるあるが実際にありそうな感じだなぁ。
「それと、町に入るのに身分証やお金は必要なのかな?」
「身分証はあるほうが良いけど、なくてもお金を払えば入れるはず。あっ、お金!」
シャルは思い出したように急に立ち上がると、建物を出て行こうとする。
「急にどうした、なんか問題でもあったのか?」
私はシャルに声を掛けて問いかける。
「……荷物を橋の下に忘れてきた。角ウサギにミュウが襲われて逃げたから……」
それって、私のせいで橋の下に移動して襲われしまったのか?
「なら一緒に取りに行こう!」
「で、でも……さっきのナイフを貸して! それなら何とか自分で、」
「何言ってる! 私なら角ウサギなら何とかなる。さっき二人も食べただろ。私が自分で倒した角ウサギをご馳走したんだから大丈夫だよ」
私はシャルの話を無視して自慢げに話をする。
「でも、でもアタルは強そうに見えない!」
げふっ、調子に乗ったところに強烈なカウンターを……。
自分でもそれは否定できないが、見た目10歳、本当は12歳の子供に言われると、ダメージが想像以上に大きい。
そう言えばシャルに滅茶苦茶ビビッていたのを見られていたと思い出す。
「つ、強そうに見えなくても、角ウサギぐらい、だ、大丈夫さ…」
シャルさん、その疑いの目は止めてください!
私は収納から無言でナイフを取り出してシャルに渡して、一緒に荷物を取りに向かう事にする。
夕方になり少し景色が赤っぽくなっていたが、橋は建物から右に道を進んだところの見覚えのある橋だった。
橋に着くとシャルは鞘からナイフを抜いて慎重に橋の横を下りて行く。ミュウもシャルの後ろに隠れるようについて行く、その後ろから私もついて行くのだが……。
まったく信用されてな~い!
落ち込みそうになるが、ここで活躍すれば名誉挽回できると気合を入れ直す。
「ああっ」
シャルが悲鳴に近い声を出す。咄嗟に前に出るとそこにはスライムみたいな、ウネウネ動く生き物がいた。
これって危険な生き物なの?
思わず一歩後退ると、後ろのシャルがナイフを私に返してきて、先の尖った木の棒を拾うと、ゼリー状の体に突き刺す。
「スライムは核を潰せば簡単に倒せる。でも生きている間に体液に触ると金属でも簡単に溶ける」
あ、ありがとうございます。
間違いなく私がビビった事がシャルにバレていたのだろう。丁寧に説明してくれた。
それなら少しでも見直して貰おうと、軽魔弾を使おうと思ったが、攻撃力が強すぎてあの体液が飛び散るのは嫌だと考える。
軽魔弾より弱い微魔弾の魔法陣を創ると試しに撃ってみる。
指先に小さな魔法陣が一瞬見えたが、すぐに魔弾は発射出来た。射程は3メルしかないし、威力も小さいが、魔力が軽魔弾の1/10の割には悪くない。
私はスライムに近づくと核を狙って微魔弾を撃つと、距離も近いので狙い通り核に命中する。核の潰れたスライムは、重力の重みで潰れたように平らにデローンと伸びたが、中の体液は漏れてこない。
続けて5体ほどのスライムを倒したが、倒したスライムが邪魔になってきた。
シャルの方を見ると口を開いたまま固まっている。
「この倒したスライムは触っても大丈夫?」
シャルに尋ねる。
「……あぁ、死んだスライムの体は触れても問題はない」
返事を聞いて、死んだスライムを人差し指で軽く触ってみる。特に問題はなさそうだが、意外と感触が良い。何度か指先でぽよぽよ押して楽しんでいたが、シャルがジト目で睨んでいるのに気が付いて、スライムをストレージに収納する。
それからはアタル無双状態だった。
微魔弾でスライムを倒してすぐに収納する。それを次々と30匹以上のスライムに繰り返して、周りにスライムが居なくなる。
私は得意気にシャルたちの方に振り替える。
しかしシャルは橋の下の中央付近でしゃがんで悔しそうにしている。
「どうした?」
「荷物は、ほとんどスライムに溶かされた。お金も少し形は残っているけど、もう使えない」
それを聞いて、少しならお金を渡すことは出来ると思ったが、同情してお金を渡すのは良くないと思い直す。
何か手伝いとかして貰って、報酬として渡すことを考えよう。
落ち込むシャルを連れて道に戻ってくると、突然シャルが顔をあげる。
「向こうで戦闘している音が聞こえる!」
なんだってーーー!
橋を渡った先の道を指差してシャルがそう話す。
私には聞こえないが、シャルはケモミミだし聞こえるのかもしれない。
逃げてよろしいでしょうか!?
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