第5話 初戦闘!?
アタルは建物を出ると今度は草原を左側に向かって採取を開始する。
先ほどは正面に向かって真っ直ぐに進んで行ったので、同じ場所で採取するのを避けるように、今度は大きく左に回り込みながら進んで行った。
薬草やハーブを見付けると嬉しい事は嬉しいのだが、シュガの実を見付けると砂糖の効果を思い出し、思わず変な笑いが込み上げてくる。
調子に乗って採取を続けていると、頭の中で警告音が鳴り響く。採取に集中していたので、警告音を聞いてすぐになんの警告なのか気が付かなかった。
あっ、魔物!?
少し遅れて魔物の警告だと思い出して、立ち上がりながらマップに目を向ける。
えっ! バコッ!
マップを見ると、すぐ近くに黄色い三角があるのに気が付いてが、凄い勢いでその三角が自分に重なるようになり、横腹の辺りに衝撃を感じた。
えっ、えっ、えっ?
混乱しながら自分が地面に倒れているのに気が付く。手を付いて起き上がろうとすると、5メルほど先に、灰色でモコモコした動物が目に入る。
えっ、ウサギ?
少し耳は小さいが、姿形は地球のウサギに似ていて、思わず目がウサギと合ってしまう。何故かそのウサギが悪魔のように笑ったように感じると、自分に向かって走り出してきた。
うわっ!
頭を手で覆うようにしながら、地面に伏せると同時に、何かが背中を走り抜けた。
やばい! やばい! やばい!
パニックになりながら立ち上がると、全力で建物に向かって走り出す。身体強化の影響で足に力が入り過ぎ、何度も足を滑らせながらも必死に走り始める。
後ろの事など考える余裕もなく、全力で走って建物の入口から入ると、奥の壁に手を付いて止まると、すぐに振り返って手を鉄砲の形にして振り返る。
「ハアッ、ハアッ、ハアッ」
建物内に自分の息の荒くなった呼吸音だけ響き、手は鉄砲の形で突き出しているが、ブルブルと震えている。
むりっ! ムリッ! 無理!!!
心の中でそう叫びながら、暫く入口に手を向けた状態で様子を伺う。マップに魔物の印がない事にやっと気が付いたが、それでも恐ろしくて、ガクガクする足で少しずつ入口に向かう。
入口の横の壁に隠れながら、外の様子を何度も伺って、近くに魔物が居ない事を確認すると、そのまま壁に背を付けて座り込んでしまう。
それでもマップから視線を外すことはしないで、自分の体の状態を確認する。
け、怪我は無いみたいだ……、痛い所もない!?
痛みが無い事に逆に驚いてしまう。先程の衝撃は体を吹き飛ばすほどの衝撃で、まるで軽い交通事故にあった気がしたのだ。
全身を手で触り、衝撃を受けた左の横腹を擦るが、怪我もしていないし、打ち身による痛みも感じない。念のためアプル失敗ポーションをコップに入れて飲むと、疲れが取れてスッキリとすると少し落ち着いて来る。
何だったんだ?
落ち着いてきたので、自分に何が起きたのか分析を始める。
あのウサギは魔物だろうなぁ。
襲われた時は悪魔のような生き物と思ったが、冷静になって思い返すと、地球で見たことのあるウサギよりは大きかったが、あれぐらいのウサギはテレビなどで見たこともあるし、頭に少し突起のような角があった気がするが、危険を感じるような角でもなかった。
そう言えば転生の女神の神託で、この建物周辺は結界があると言っていたが、「問題ない弱い魔物は入ってくる」とも言っていた気がする。
念のためもう一度神託を確認すると間違いなかった。
あれが問題ない弱い魔物?
あんな生物が日本で町中に現れたら、猪が町に出たときのようにニュースになりそうだ。
確かに怪我もしなかったので、弱い魔物だと言われると、そうなのかと考えたくなる。ただ怪我をしなかったのが、自分の基礎能力が高いのか、身体強化スキルのお陰なのか分からない。
またあの魔物が最弱だとすると、それよりも強い魔物がこの結界の外にいる可能性が高い事になる。
昨日は危険な検証で意識を失う前に、魔法による攻撃手段を手に入れていたので、どこか安心していた。
小口径の拳銃から大口径のライフルまで手に入れた気になり、本当にそれが通用するのか確認をしていない。
この世界の神々と知り合いで、チートを貰って油断していたなぁ……。
チートと言っても、どちらかと言うと生産チートだし、転生の女神があれでは不安になって来る。
もう一度自分がすべきことの確認をする。
・今日の移動はしない。
(もう一日準備しないと危ないと思う!)
・ポーションを作成する。
(現状ではこれ以上の回復手段は準備できない)
・近場で色々採取してみよう。
(余裕があればもう少し)
・人が来たら情報収集。
(人が来ないと無理!)
・攻撃手段を検討する。
(実戦が必要?)
・さらにスキル検証を進める。
(特に攻撃手段?)
今日移動するのは自殺行為だよね。
取り敢えず攻撃手段を実戦で使えるのか確認してみないと、生きて行けないような気がする……。
自分は戦闘向きだと思えないが、やってみるしかない!
そう決心すると、魔力感知を常時起動するように設定して、油断なく外に出る。マップでは近くに魔物は居ないようだが、少し離れた所に魔力が少し濃いのか、赤い靄が濃い所が所々ある。
目を凝らしてみると、赤い靄が濃い所にウサギのような生き物が居るのが分かった。ゆっくりと周りを警戒しながら、ウサギに近づいて行き、あと40メルほどになると、『遠魔弾』を使う準備をする。
発動まで10秒ほど時間が掛かったが、ウサギは逃げることは無かったので、狙いを付けて『遠魔弾』を発射する。
やはり一回目で当てることは出来ず、ウサギは驚いて逃げてしまった。それから何度も同じことを繰り返し、4回目にようやく当てる事ができた。それも偶然にウサギが動いた事により、頭に命中した。
偶然だろうと、奇跡だろうと初の獲物である。喜びながらも慎重に周りを警戒しながら、獲物の所まで行く。
「グ、グロいな!」
思わず声に出して呟いてしまう。そこには頭が半分ほど吹き飛んだウサギの死体があった。
収納するためには触れる必要がある。
恐る恐る触ると生暖かい感触に鳥肌が立つが、収納して確認すると魔物の『蹴りウサギ』と表示された。
生き物を殺した嫌悪感はそれほどなかったが、やはり血を見ることに抵抗はあり、この世界でも血は赤いんだなと変な事に感心していた。
しかし弱いとは思うが魔物を倒せたことにホッとする。
『遠魔弾』で魔物を倒すことが出来たので、殺傷力は間違いなくあると思うが、発動に10秒も掛けていては、相手に気付かれない遠距離からしか攻撃は出来そうに無い。
燃費と発動時間を考えると、『軽魔弾』が一番有効だと思うが、低い殺傷力と10メルしかない射程では、不安で仕方がない。
それでもやるしかないかぁ。
そう決心すると、ウサギを見付けて慎重に近づいて行く。しかし、20メルほどに近づくとウサギは逃げて行ってしまう。なんとか12メルほどに近づいて、『軽魔弾』を撃とうと構えて魔力を流し始めると、ウサギは逃げて行ってしまう。
『軽魔弾』は10メルを超えると、魔力が分散して15メルで実態が無くなってしまう。それでも12、3メルなら効果はゼロじゃないと思いたい。
結局2時間ほどウサギを倒すことが出来ずにいた。
少し小柄なウサギを見つけ、15メルほどに近づくと、そのウサギはこちらに向かって走って来る。
焦りながらも1発すぐに撃つが外れてしまう、もう一度撃つ準備が出来たときには5メルより近くにウサギは来ていた。
それでも『軽魔弾』を撃つと足に当たったようで、ウサギは目の前まで転がって来た。
鉈で倒そうかと思ったが、ウサギは起き上がることが出来ないようで、もがくように動いていたので、もう一度『軽魔弾』を近距離から発射すると、体の真ん中に当たり、少し痙攣したようになり、何とか殺すことが出来たようだ。
恐々と倒したウサギに触れて収納する。少し手が震えているが、『軽魔弾』でもウサギが狩れると分かっただけで良かった。
ビ、ビビった~!
自分に襲い掛かるように向かってくるというだけで、これほど怖いとは想像できていなかった。
それでも『軽魔弾』で倒せたことと、先ほど怪我をしなかったことで、少し自信が付いたと思う。
それから逃げるウサギは倒すことは出来なかったが、襲ってくるウサギは2匹ほど『軽魔弾』で倒すことができた。
3匹目をストレージに収納している時に、倒したウサギが2種類いる事に気が付く。たぶん襲い掛かって来たウサギは『角ウサギ』で、すぐ逃げるのが『蹴りウサギ』のようだ。
最初に襲ってきたウサギは『角ウサギ』だったんだろう。更に調べてみると『角ウサギ』の方は体が一回り小さく雄だった。『蹴りウサギ』は雌で体が一回り大きい。
詳細な生態は分からないが、たぶん種族的に『角ウサギ』と『蹴りウサギ』は同じで、雄と雌の違いだけではないかと推測する。
それから『角ウサギ』5匹と『蹴りウサギ』を2匹倒して、合計10匹倒すと建物に戻って休憩することにする。
結局、『蹴りウサギ』は『遠魔弾』でしか倒すことは出来なかった。
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