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ブラックコーヒー

作者: ヤヤヤ

 コーヒー屋さんに行って、生豆を購入する。二百グラムで、だいたい900円くらい。だいたい、って言うのは、豆の種類によって値段が変わってくるから。高いものだと1500円を普通に超えてくる。1500円だよ? コンビニで100円コーヒーを15回も買えちゃうよ? これにはホントびっくりさせられる。なににびっくりしているかって、それは、いちいちこんなことをしている、私自身に。

 てくてく歩いて自宅へ帰宅。コーヒー屋さんから自分の家まではだいたい15分くらいかかる。これも、だいたい。日によってまちまちなんだよね。気分が沈んでいる時には20分くらいかかるし、上機嫌の時には足が勝手に動いて10分くらいで家に到着する。

 築何十年かのオンボロアパート。ここが、今の私の家。私がこのアパートを「潰れ荘」と呼ぶようになって、もう何年くらい経ったのだろう。そんなことはもう忘れちゃったし、たぶん今後も忘れ続けるのだろう。そういった、私に必要のない記憶、忘れちゃってもいい記憶は、脳のどこかの器官が私に断りもなく勝手に消去していく。どこの器官で、なんで消去していくのか、そんなことももう忘れちゃったけど。

 部屋に上がって、さっそく中華鍋を手に取る。私の家にコーヒー屋さんのような立派な焙煎機なんてあるわけないし、これからもこうやって中華鍋を使ってコーヒー豆を焙煎する……と、思う。確か、誰かもそうやって、コーヒー豆を焙煎していた。そこらへんの記憶はおぼろげなんだけど、なんか、本当に楽しそうに中華鍋を振ってコーヒー豆を焙煎していた……ような気がする。

 中華鍋は本当に重い。私は全身に大量の汗を流しながら無我夢中で鍋を振る。ホント、びっくりしちゃう。こんなことをしている、私自身に。

 豆が爆ぜた。確か、二回ほど大きな音が鳴るまで待てって言われていたから、あと一回。あと、一回。

 パン、パン、っと大きな音が鳴り、潰れ荘の一室にコーヒー豆の香ばしい香りが立ちこめる。これで、完了……だったと思う。豆が冷えるまで待つとかなんとかあったような気がするけど、私はそんな細かいところを気にするほど、コーヒーに対して強いこだわりがあるわけでもない。

 手動のコーヒーミルを使って、ついさっき焙煎を終えたばかりのコーヒー豆を砕いていく。さあ、最後の最後。ドリッパーを用意して、あったかいお湯を注いで。

 よし、これで、出来上がり。香りがあってコクがあって、苦くておいしくて。思い出だらけのブラックコーヒーの、出来上がり。

 私はなぜか、今日も二つのコーヒーカップを棚から取り出して、テーブルの上に並べている。自分でも毎回、ホントおっちょこちょいだなあって思うんだけど、でも、しょうがない。だって私の脳のどこかの器官が、そうしろって毎回私に命令してくるのだから。それがなんでなのか、なんのためなのか、そんなこと私はもう忘れちゃったけど。

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