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褪せ続ける3

作者: 二久亥 弍糸

これで終わりです。

目が覚めたらバスの席に座っていた。

運転手側の後ろから三番目の窓側。

窓から見える景色は日本の景色じゃない。と言うよりこの世の景色じゃない。

清々しい空のトッピングにピンク色の雲。

どこまでも続く平地。

なんとも美味しそうな景色だろうか。

私はすぐに気が付いた、あぁここは夢の中なのだと。

私の名前は滑川(なめかわ) 春信(はるのぶ)。架け橋病院小児科の医者だ。

だが最近はあまり仕事に出れてない。仕事帰りに車に跳ねられてしまってねぇ。困ったもんだ。治療中の子達がまだいたのに。治療は別の人に引き継いだよ。

全治六ヶ月の大怪我、すぐに復帰は難しいと言われた。今職場である架け橋病院で寝てるよ。

情けない。

だが最近少しだけ変化があった。治療期間を退屈にしてた私には丁度良い刺激だった。それは眠るときに起こる。

夢。私はこれを自覚することができる。

所謂、明晰夢(めいせきむ)といわれるものである。

事故のせいで歩けない私は、夢の中で歩くことが可能になった。明晰夢が見れるようになった原因はよくわからないが、恐らくは事故だろう。多分。


と、こんなところでバスが停まった。よく見ると田舎にあるようなバス停が佇んでいた。何故こんなところにポツンとあるのか。切ない場所だ。

運転手さん、お駄賃は?あ、いらないのね。よし、降りるぞ。

心地よい風がまさに夢のよう。

降りてすぐにバス停のベンチに目がいった。私は目を疑ったよ。


そこには私が治療を担当していた子供。

ロシア人の母親と日本人の父親の間に産まれたハーフの子供。

七歳のころ階段を踏み外して頭から落ち意識を失い四年経ったいまでも植物状態になってしまっている子供。

真田(さなだ) ユーリがそこにいた。


「あれ、おじさん?大丈夫?」

「あ、あぁ大丈夫だよ」

四年間、診てきて初めて見る元気に走るあの子の姿に私は泣きそうになった。

君は…こんな風に笑うんだね…。

「おじさん!名前は?僕はユー…」

「リでしょ?」

「そう!ユーリ。なんで!?なんで僕の名前知ってるの?!?!」

「え、あぁ…えーと。お、おじさんは魔法…使いなんだよ…」

「え!そうなの?!すごいなぁ…僕も魔法使える?」

「あ、ぁ。多分使えるさ」

マズイ…そろそろ言い訳が。

「魔法!教えてよ!」

来てしまった…この台詞。仕方ない。かなり苦しいが、

「私は教えることはできないんだ。魔法は自分で見つけなければならないんだよ」

く、苦しいか?

「…そっか。しょうがないね」

思ったより残念そうじゃないか?

「いいや!おじさん!あそぼ!」

立ち直り早すぎるぜ。流石は子供か。

「わ、わかった。ただおじさん運動が苦手でね」

「んーじぁかくれんぼしよ!かくれんぼ!」

「かくれんぼか…」

果たしてこの世界に大きな図体の私が隠れられるような遮蔽はあるのだろうか。

「じゃあ!おじさんが鬼ね!」

「私がかい?よーし、ユーリ隠れろぉ!」

「ちゃんと十秒数えてね!」


「なーな。はーち。きゅー。じゅー!」

「おし。探すぞ」

滑川春信三十八歳。この年にもなってかくれんぼをするとは思わなんだ。

「よし。数え終わったぞ、と」

…あいつ隠れるの上手いな。くぅ、骨が折れそうだなぁ。折れてるけど……。


「はぁ、はぁ、良い、はぁ、運どはぁ、なっはぁ…かはっ」

「おじさん見つけるの下手だね」

にひひとユーリは笑う。

「君が、上手いんだ、よ」

息切れがやばい。くるしい。 あ、でも風が気持ちいい。

「あ、あとユーリ…私はおじさんじゃなくてちゃんと名前が」

あ、そういや言ってなかったっけ。


春信は考える。

目の前にいる真田ユーリに伝えるか。

この場所が夢の中であることを。

そして決心した。

「ユーリ…少し話を聞いてくれ」

春信はユーリにユーリの全てを話した。

階段から転落し頭を打ち、四年間ずっと眠って夢の中に閉じ込められてるような状態にあること。ユーリの本名は真田ユーリであること。そして今架け橋病院というところで治療をしているということ。

今までとは違う真剣な顔でユーリは春信の話を聞いていた。


サラサラ…


下を向き話をしていた春信は終わりと同時に顔をあげた。

またも春信は目を疑うことになる。

そこにはユーリはいなかった。

ユーリがいた場所には、ユーリの涙と思われる水滴を子葉が(つら)そうに持ち上げていた。


しばらく呆然としていた春信だったが、すぐに一つの希望を見出だした。

「もしかしたら…ユーリ君は起きたのかもしれない…!」

春信は立ち上がり、何とか現実世界で起床しようとするがやり方がわからずにいた。

すると世界に異変が起きる。

明るかったり暗かったり昼夜が高速で世界を巡る。

バス停を中心に地平線が徐々に収束していく。

芝は枯れて綿菓子は荒れ、大量の飴が降っていた。

「や、やばいぞ。早く起きなければ…、けどどうすれば…」

そこへ世界観を壊す合図(クラクション)が春信の耳に届いた。

「速く乗れ!」

バス停には一台のバスが止まっていて、運転手は搭乗を急かしている。

この運転手こそがこの物語の語り部兼説明役のクラリスである。

「運転手さん!」

「さっさと乗れよ!お前この世界から出れなくなるぞ!」

「は、はい!」

急いでバスへと転がり込む。

春信は収束するユーリの世界から脱出を果たした。


ガバッ

「はぁはぁ…そうだユーリ!」

必死に松葉杖を使いユーリのいる病室へと駆け込んだ。

他の病人もお構いなしにユーリと叫びながら病室のドアを開けた。

春信はその光景に涙した。


「あ、おじ…さん…ま…ほ…しえて…よ」

起きたばかりのユーリの声帯はこれが限界だった。

「…起きたのか…!」

「お…はよう」

「あぁ…!あぁ!おはよう!ユーリ!」


七年後


高校三年生になったユーリは悩みを抱えていた。それは思春期特有のよくある悩みだった。

けど悩み始めた頃からユーリはある夢を見るようになる。

同じような境遇の人と無邪気に遊ぶ夢だそうだ。

ここまで読んでいただきありがとうございました。

新作がでたら読んであげてください。

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