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ルークリア共和国

 ルークリア共和国。

 総人口約1400万人で諜報部の調査によると総兵力は60万人程度。

『身分に上下はない』と主張しており、王や貴族は存在せず、市民から選ばれた代議士(だいぎし)と呼ばれる職種の者達が政治を行なっている。

 だが、近年では一部の代議士が職権を濫用し、特権階級と言わんばかりの態度で私腹を肥やし、罪を犯しても権力によって揉み消すことまであるという。

 今回の戦争も南部の街リンドの代議士の子息が遊び半分で国境を越え、それを帝国の国境警備隊が逮捕した事から始まる。

 まだ子息は未成年でもあり、帝国としては謝罪と罰金を払えば釈放するつもりだったが、警備隊詰所に現れた父親である代議士はあろう事か激昂し、不当逮捕だと主張し、逆に領土侵犯の賠償請求をしてきたのだ。

 これに激怒したのはルークリア共和国との国境地帯を治める北の辺境伯、ロバート・フォン・レッドウッド辺境伯だ。

 若い頃は貴族でありながら下町で遊び回り、ゴロツキ共を相手に喧嘩ばかりしていた気性の荒いレッドウッド辺境伯は直接詰所に出向いて、代議士を摘み上げて国境の外に投げ捨ててこう言ったそうだ。


「テメェらの言うことはよくわかった! 要は喧嘩売ってんだな? 上等じゃねえかっ! 首を洗って待っていやがれっ!」


 無様に投げられた代議士は憤慨し、この件を共和国議会にて『帝国からの一方的な宣戦布告を受けた』と報告した。

 これにより帝国と共和国の戦争が始まったのだ。

 ちなみに余談だが、子息の方は注意だけして無事に帰してある。


「さて、現在の戦況だが、我が軍は国境越えて南部のリンドの街を制圧し、占領下においた。そこを拠点として侵攻作戦を継続しているが、その先のベェルト要塞に進軍を阻まれて、侵攻は遅々として進んでいないのが現状だ」


 参謀殿が《仮想映像(ヴァーチャルイメージ)》の魔法で現在のルークリア共和国との戦況を説明してくれる。

 それにしてもベェルト要塞ってかなり堅牢な造りだな。

 魔法映像越しでも頑丈なのがわかるほどの分厚い壁と鉄の扉、おまけに要塞の周囲には堀が2つもある。


「これまでに幾度か侵攻作戦を展開しておるが、ことごとく返り討ちに遭い、撤退を余儀なくされているそうだ」


「それもこれも軍隊司令長官のヴォルドンのせいだ! レッドウッドに任せておけばよいものを出しゃばりおって! あんな猪突猛進な作戦があるかっ!」


 宰相殿の言葉に怒りを露わにする陛下。

 どうやらよっぽど腹に据えかねているようだな。


「陛下、お怒りをお収め下さい。とにかく、今回の特殊部隊による奇襲作戦はウォーレイク元帥の発案における最重要任務である。これに陛下の推薦という形で卿を参加させる予定なのだ」


「ウォーレイク元帥? ヴォルドン長官ではなくてですか?」


「あんな勇気と蛮勇の違いもわからんヴォルドンがそんな作戦を思い立つわけないだろ! 功を焦って突進し、味方に余計な損害を出すばかりではないかっ! 軍令部総長のヘルフォードが止めねば、前線部隊はとうの昔に壊滅していたところだ!」


 俺の些細な疑問にも、陛下は声を荒げてヴォルドン長官に対する不満を述べた。


「とにかく! シュナイデン卿には特殊部隊に参加し、何としてでもベェルト要塞を攻略してもらいたい!」


「はっ! 小官は貴族である前に軍人です。行けと言われれば何処へでも行きますが、一つだけよろしいでしょうか? 特殊部隊の人選なんですが……」


「それについては安心しろ。ウォーレイク元帥府の新進気鋭の才能溢れる者達が参加する事になっている。特殊部隊隊長にはアラン・タウゼン大佐が内定している。それに副隊長は……おいっ! こっちに来い!」


 陛下はそう言って部屋の隅に向かって声をかける。

 まさか、副隊長って……。


「うぅぅ……もう、お嫁に行けない……」


「あれは貴様の不注意であって他の誰のせいでもない! シュナイデン卿、改めて紹介しよう。ソフィア・フォン・リンプトン中佐だ。こう見えても帝国軍魔法兵団の第三席だ」


 陛下が紹介したのはさっきの白いパン……もとい、ローブを着た大人の女性、ソフィアさんだった。


「シュナイデン卿。リンプトン中佐はかつてのワイバーン掃討作戦では《魔力浮遊》を操り、10匹のワイバーン相手に勇猛果敢に戦って部隊の損害を最小限に食い止めた実績で騎士爵を叙爵した才女だ。実力は確かだぞ」


 宰相殿がフォローのような説明をしてくれるけど、さっきのアレがあるからなぁ。

 今だっていじけてるし、本当に大丈夫なんだろうか。

 まぁ、どの道命令だから拒否権はないからいいんだけどね。


「他にあと3人の隊員がいる。連絡はしてやるから明日にでも顔合わせをしておけ。そして出来るだけ早急に出立するのだ。でなければ、痺れを切らしたヴォルドンが全軍突撃命令でも出しかねないからな」


「まさか、そこまでは……」


 陛下の冗談を否定しようとする俺の言葉を遮って、扉をノックする音が室内に響く。

 テラーズさんが応対して中に入ってきたのは若い文官で、かなり慌てているようで転がるように室内に入ってきた。


「へ、陛下っ! 大変です! ヴォルドン司令長官がルークリアに向けて東方方面軍を援軍として出陣させるとの報告がありました!」


「……なんだと?」


 陛下の静かな怒りはその場を完全に支配し、その場にいた全員を凍りつかせた。

 どうやら、事態は最悪な方向に向かっているらしい。


いつも読んでいただきありがとうございます。


気がつけば今回で99話。

ここまでやってこれたのは応援してくださる皆様のおかげです。

本当にありがとうございます。

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