決闘のはじまり
帝都に悠然と聳え立つヴァランタイン帝城。
その城の一角には帝国が誇る騎士団の詰所があり、闘技場が併設されている。
デッペルス子爵から決闘を申し込まれたんだけど、正直やる気が起きない。
しかし、『決闘を受けないのは貴族の恥』とか『臆病者』とか煩く言うから仕方なく受けることにした。
陛下の御前で喚き散らしている方がよっぽど貴族の恥だと思うのは俺だけなんだろうか?
俺が決闘を受けた事で、周りの列席者は大興奮だった。
謁見の間で闘うわけには行かないので、場所を闘技場に移してきたんだけど、観客が多い。
決闘相手のデッペルス子爵の後ろにはギルテン侯爵とその腰巾着のような小物貴族達がいて、闘技場の観客席には興味本位で見物に来た他の貴族や上級将校、高級文官達が立ち並んでいた。
何人かの騎士団員の姿も見えるが、おそらく警備のためだろう。
陛下や宰相殿は闘技場の特等席から見下ろす形で座っていた。
ちなみにテラーズさんは立会人を務めてくれている。
「さぁ! 覚悟はいいか? シュナイデン卿!」
対面に立つデッペルス子爵が威勢よく吠える。
それにしても珍しいな。
貴族の決闘って代理人を使う事が多いって聞いたけど、デッペルス子爵は自身が闘うつもりのようだ。
大丈夫なんだろうか?
「シュナイデン卿。子爵は第一騎士団所属の騎士でもあります。油断召されませんように」
テラーズさんがこっそり俺に教えてくれる。
へぇ、だから代理人を使わないのか。
しかも、第一騎士団といえば帝国騎士団の中では一番のエリートと聞いている。
対人戦は久しぶりだし、ここは気を引き締めておいた方がいいな。
「ふんっ! 安心しろ。私は帝国第一騎士団のエリート騎士だ。たかが、軍の少尉如きに本気になったりせん! 無様に地面に転がるだけで済ませてやるさ」
ニヤニヤした下卑た笑いを浮かべる相手に俺は嫌悪感を抱く。
どうも闘いを軽んじる奴は好きになれない。
「では、これよりパウル・フォン・デッペルス子爵とリクト・フォン・シュナイデン准男爵の決闘を行います」
テラーズさんが高らかに宣言し、俺とデッペルス子爵は中央に歩み寄る。
そして、一礼した後に再び距離をとって対面する。
その間にギルテン侯爵達は闘技場から出て観客席に移って行った。
「はじめっ!」
開始の合図がなされた。
「覚悟しろっ! はぁああああああ!」
デッペルス子爵は《魔力操作》で身体機能を向上させているようだ。
しかし……遅い。
いつまでかかってるんだ? そんなに力が向上しているようには思えないんだけどなぁ。
とりあえず俺もやっておくか。
「ふっ……えっ?」
《魔力操作》を行った瞬間に自身の異変に気がついた。
力が漲る……いや、漲り過ぎてる!
今までと明らかに違う。
正確にはわからないが、今までの倍以上は力が上がっているのは間違いない。
ど、どういうことだ?
信じられないくらいの力が溢れ出てくる。
一体、これは……そういえば、《魔力操作》をしたのはあいつと闘って以来か。
四大精霊龍。
あいつの《龍仙気》が今まで以上に力を上げているんだ。
今でも四大精霊龍と闘った時の《魔力増幅》した状態くらいの力はある。
もし、今《魔力増幅》したら……。
「いくぞっ!」
怒声にハッとして前を向くと、デッペルス子爵が剣を構えて突進してくるのが見える。
見えるんだけど……これもまた遅い。
なんだろう?
本の頁をゆっくりと捲るようなコマ送りで近づいてくるので逆に怖い。
周りを見ると、観客席の貴族達が割れんばかり歓声を上げており、興奮した老貴族は観客席から闘技場に落ちそうな程に身を乗り出していた。
危ないなぁと思いつつ、俺は視線を戻す。
まだ来ない。
相変わらずのゆっくりとした動作だ。
仕方ない、待っているだけなのも間抜けなのでこっちからも近づいて行こうと歩き出した。
あれ? どういうつもりだ?
俺が近づいても何の反応もしないぞ?
しかも、まだゆっくりとした動作を続けていやがる。
段々と腹が立ってきた。
決闘というから真面目に付き合ってやろうと思ったのに、ふざけるならもう止めだ!
刀を振るうのも馬鹿馬鹿しい。
顔面を軽く殴って、本気にさせてやる!
俺は左拳を未だに反応もしないデッペルス子爵に放った。
ボコンッ!
俺の拳がデッペルス子爵の右頬に当たった瞬間、それは起こった。
デッペルス子爵の顔を中心に身体が錐揉み状に回転し、後方に飛んでいき、そのまま闘技場の壁に激突し破片が周囲に飛び散った。
あまりの衝撃的な展開に俺を含め、口を開く者は誰一人としていなかった。
おかしい、かなり手加減したはずなんだが……あっ、さっきの老貴族が壁から落ちたのが目の端で見える。
2メートルの高さから落ちたらさすがに危ない。
俺は駆け寄って老貴族の脇を抱えて、地面との衝突を防いだ。
「お怪我はありませんか?」
「な、なんじゃっ! な、な、何でお主がここにおるっ! さっきまであそこに……何故ここにおるのじゃ!」
老貴族は取り乱したように騒ぎたてている。
おかげで他の人達まで騒ぎ出した。
一体、どうしたんだ?
俺は落ちたのが見えたから助けただけだぞ?
まぁ、いいさ。
とりあえず怪我はないようだし、放っておいていいだろう。
俺は老貴族にニコリと微笑み返してから、さっきまでいた100メートル先の闘技場の中央に向かって歩き出した。
それにしても、この力ってどれくらいまで上がるんだろう?
いい機会だし、試してみるか。
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