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貴族達の嘲笑

評価、ブックマークしてくださった方々、ありがとうございます。

これからも毎日更新頑張ります。

「よく帰ってきたな。忽然と姿を消したと聞いておったから肝を冷やしたぞ、シュナイデン卿」


「陛下。御心労を重ねてしまい、申し訳ありません。リクト・フォン・シュナイデン、帰還いたしました。」


 膝をおり、臣下の礼をとる。

 俺は今、帝城の謁見の間において、多数の貴族、上級将校、高級文官が立ち並ぶなかで俺は陛下と謁見していた。

 周りの方々の反応は様々で、表情の険しい者や興味なさげにしている者、小声で悪態を吐く者と好意的な者は少ない。

 この場で好意的な人といえば、陛下と宰相殿くらいかな。

 テラーズさんは案内だけで、謁見の間にはいないしね。


「ところで、ダンジョンから珍しい物を持ち帰ったと聞いたが?」


「はっ! 私の身には過分な物と思いまして、陛下にと持参致しました。どうぞ、お納めくださいませ」


「ふんっ! 陛下を物で釣ろうとは不快にも程があるわ!」


 そう言って俺と陛下の会話に入ってきたのは、小太りの中年貴族だった。

 それに追随する様に幾人かの貴族が列から離れて出てくる。


「陛下っ! このような小賢しい小僧の言うことを信じてはなりません! ダンジョンから持ち帰ったという品も怪しい物なのです」


「ほぅ、ギルテンよ。その根拠は何だ?」


 陛下にギルテンと呼ばれた小太りの中年貴族は俺の横に立って口を開いた。


「シュナイデン卿がフェンドラから帰還したのは間違いございません。しかし、フェンドラから帝都への馬車には女を連れ添っていたと聞いております。これは行者から聞いたことで間違いございません。そして、その女と共にダウスター子爵邸に向かったのですが、その際、大掛かりな荷物は何一つ持っていなかったそうです。つまり、今回の品物はダンジョンからの取得物ではなく、ダウスター子爵が用意した物と考えられます」


「そうです! おそらく、この者はダンジョンに入ったと言いつつ、女と遊んでいたのでしょう! 帝国貴族の面汚しめ! この場にいる事も汚らわしい! 即刻退場、いえ、国外追放すべきです!」


「そうです! ギルテン侯爵とデッペルス子爵の仰る通りです!」


 口々に騒ぎ立てる貴族達……この方々は何を言ってるんだ?

 荷物がないって、魔法鞄に入ってるから当たり前だろ? 

 それに女と遊んでたって、何を根拠に言ってるんだ?

 よく推測だけで人を貶せるもんだな。

 あの、オーマン伯爵を思い出して、イラッとする。


「ギルテン、デッペルス。他にはないのか?」


 陛下が小太り貴族の一団にさらに発言を促す。


「ございます! そもそも、この者がフェンドラの街に着いたのは一ヶ月以上も前です。しかし、その間一度も宿をとった形跡がございません! 考えたくはありませんが、その女の家に居たのではないかと……」


「なるほどな。さて、シュナイデン卿。卿の武勲に異議を唱える者がおるが、反論はあるか?」


 ダンジョンの中だけどメアリーさんの家にいたのは事実だな。

 

「フェンドラのダンジョンには入っていますよ。ただ、その女性の家にいたのも事実です」


「ほら見ろ! 陛下っ! この者は口を割りました! 即刻この不届き者を……」


「待つのだ、デッペルス子爵! このように正直に申したのだ。何も我々も厳罰を求めているわけではない。ただ、由緒正しき帝国貴族としては責任をとるべきだと思うがね。そうだ、寄親のダウスター子爵もここへ呼ばなくてはならんだろうな。さてさて、どのような謝罪を聞けるのやら」


 なにっ! 子爵様を謝らせるだと?

 この野郎……黙っていればいい気になりやがって……。


「よせ」


 俺が殺気を放ちかけた寸前で陛下より言葉が下る。

 それはいつもと違った短くて重い『命令』だった。

 ……危なかった。

 どうやら、イライラして頭に血が昇っていたようだな。

 危うく短気を起こすところだった。


「ギルテン、デッペルス。我はすでに献上物が何か聞いておるのだが、卿らも先ずはそれを見てはどうかな?」


「ふふふっ、陛下もお人が悪い。これ以上、お若いシュナイデン卿を辱める事もないでしょうに」


「よかったではないか、シュナイデン卿っ! 卿とダウスター子爵の自作の手土産を陛下が見てくださるそうだぞ? 名誉な事ではないか、羨ましいぞっ! はははははははっ!」


 やっぱりこいつは殺すか?

 いや、駄目だ駄目だ。

 せっかく陛下のお陰で踏みとどまったんだから、ここは抑よう。

 そんな事を思っていると、後ろの扉が開いてカートを押しながらテラーズさんが入ってくる。

 あれっ? なんかめっちゃくちゃ顔が険しいような?


「シュナイデン卿の献上の品をお持ち致しました」


「おやおや、これは……なんとも古めかしい織物ですな」


「古ければ良いという物でもないでしょうに。やれやれ、田舎者の浅知恵か」


「くくくっ。お、おいおい! これはないだろう? 偽装するならもうちょっとマシな物にしないと。なんなら良い骨董屋を紹介してやるぞ」


 周りの貴族達が嘲笑し、薄汚い間抜け面を晒す中で陛下と宰相は品物を注視している。

 参列している高級文官の中には驚きのあまり目を見開き、口を開けたまま固まる者や腰を抜かす者までいた。

 しかし、そんな人達より俺が気になったのがテラーズさんだ。

 はっきり言って、怖い。

 普段と変わらない表情なのに、静かに燃え上がる魔力や気迫が段違いだ。

 気づいているのは俺だけではない。

 上級将校の中には、冷汗を浮かべている人達が何人かおり、一緒になって嘲笑していた部下を嗜める人もいた。

 どうやら馬鹿なのは列から離れた貴族達だけのようだな。

 いや、違う。

 最初に出てきたギルテン侯爵は献上品を見るやスッと後ろに下がっていた。

 どうやら、性格は悪くても馬鹿ではないようだ。


「テラーズ。それはお前の眼から見て、今も同じか?」


「はっ。間違いなく、本物でございます」


「そうか。なら宰相、予定通りだ」


「かしこまりました。シュナイデン卿以外の者は列に戻れ!」


 宰相の一言で貴族達は元々並んでいた列に戻っていった。

 当然、デッペルスとやらは侮蔑の言葉を小声で吐きながらだったけどね。

 全員が列に戻ったのを確認した後、宰相殿は文官から受け取った書状を読み上げだした。


「シュナイデン卿を此度の功績により准男爵へ陞爵させ、帝都の屋敷を与えるもの也!」


「なっ! しょ、陞爵?」


「馬鹿なっ!」


「廃爵の間違いではないのか?」


 貴族達が一斉に騒めく。

 うん、俺も同じ思いだ。

 屋敷は貰えるって聞いてたけど、陞爵は聞いてない。

 そう思って、テラーズさんをチラッと見る。

 するとそこには、必死に笑いを堪えるテラーズさんの姿があった。

 これは……謀られたな。


読んでいただきありがとうございます。


毎週なんですけど、月曜日はアクセスが少なくて火曜日は多くなる。

皆さんも同じなんでしょうか?

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