強者の帰還
今回少し長めになっております。
読みにくかったからすいません……。
俺とメアリーさんはダンジョンの家を後にした。
俺が寝てる間にメアリーさんは自身の荷物を纏めていたらしく、手伝いをする間もなかった。
手伝わなかった事を謝ったら、魔法鞄を持っていたからそんなに大変じゃなかったから大丈夫と笑って言ってくれた。
次からは気をつけよう。
そして、準備を終えたので、ダンジョンの主である四大精霊龍の部屋に戻って見ると、中央に転移魔法陣が現れていた。
直径5メートルほどの円形の魔法陣で、全体が淡く青白い光を放っていた。
メアリーさんも実物を見るのは初めてらしく、興味津々だったので小一時間ほど調査してから、魔法陣を使う事にした。
「いよいよ地上へ帰還ですね」
「ええ。ねぇ、お願いだよ? 地上に帰ったら『はい、さよなら』ってのは無しだからね?」
悲しそうな瞳で俺を見つめるメアリーさん。
俺ってそんなに薄情に見えるんだろうか?
いや、それだけ不安だって事だ。
地上に帰ったら先ずは子爵様の所に報告に行って、メアリーさんの今後について相談しよう。
それで少しは安心できるはずだ。
「そんな事はしませんから大丈夫ですよ。帰ったら先ずは子爵様の所に行きましょう。それで従者の件を聞かないといけませんからね」
「う、うん! 良かったぁ……ありがとねっ!」
美人の笑顔は癒しになると思いつつ、俺は魔法陣の中へ足を踏み入れ、メアリーさんも遅れて入ってくる。
すると、魔法陣は眩く光を放ち、部屋全体を覆うほどになって俺達の視界を奪う。
やがて、徐々に光が収まると景色は一転していた。
さっきまでのだだっ広い部屋ではなく、通路の真ん中に2人並んで立っていた。
「ここは……どこだ?」
「あれ? お、おかしいな。あの魔法陣を使えば地上に戻れるって記録があったんだけど……」
一瞬、何処にいるのかわからなくて不安になったが、しばらくすると後ろから人の声がしてきた。
警戒しながら見ていると、角を曲がって現れたのは男と女の2人組だった。
「よぉっ! どうしたい、お二人さん。こんな所に突っ立って。まさか、一階層の入口前で迷子ってわけでもねぇだろ?」
「ちょっと! いきなり失礼でしょ! ごめんなさいね。貴方達に危害を加える気は無いわ」
男はくせ毛の金髪を短く切り揃えた長身の男だった。
身体つきもよく、威風堂々とした風貌ではあったが、親しみのある顔と軽い口調が威圧感を程よく帳消しにしていた。
女性はスラリとしたスレンダーな身体だが、程よく鍛えられており、身体にフィットした服が異様な色気を醸し出していた。
しかも、色っぽい声が凄くいい!
「おいおい、坊主。俺の相棒に惚れんなよ。この見かけに騙されて、痛い目を見た奴は数知れないんだぜ。まぁ、何を隠そう俺もその一人だがね。へへへっ」
「あら? 言ってくれるわねぇ。そちらのお嬢さんに鼻の下伸ばしてる相棒さんには言われたくないわね」
「そう言うなよ! すごい美人じゃないか! この坊主め、いい女をモノにしやがって! 大事にすんだぜ! じゃあな!」
「全く、自由なんだから。じゃあ、またね。また何処かで逢いましょ」
そう言うと、2人はダンジョンの先へと消えていった。
「も、もう! 何よっ! あ、あんな軽い男に美人とか言われても嬉しくないよっ! あんな軽薄な男がダンジョンでやっていけるわけないわっ!」
怒るメアリーさんを他所に、俺は少し驚いていた。
あの人はかなり強い。
メアリーさんは軽い口調に惑わされているようだけど、正直戦って勝てるかどうかわからないほどだ。
引き締まった身体は勿論だが、何よりあの完成された重厚感のある気配、秀でた才能を隠すかのような振る舞い、隙のない動き、もし、あの場で戦いになっていたら……。
あの四大精霊龍と戦った後に、まさか人間に冷汗をかかされるとは思わなかったな。
「世界は広いって事ですね」
「えっ? ど、どういう事?」
「何でもありません。さあ、彼らが言ってた通り、ここが一階層なら出口はすぐです。行きましょう」
俺は新たな覚悟を胸にメアリーさんと一緒にダンジョンの出口へと向かった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「だ、旦那様!」
普段は冷静沈着な家令のヨーゼフが慌てて部屋に来たのは日が暮れ始めた頃だった。
「どうしたのだ、ヨーゼフ? そんなに慌てて」
「旦那様! お戻りです、シュナイデン様がお戻りになられました!」
「なにっ! それは本当かっ!」
それは急な知らせだった。
一ヶ月ほど前に陛下の勅命でダンジョンに行くと言ったまま音信不通になっていたリクトが帰ってきたのだ。
あの馬鹿たれめっ! 心配かけおって! だが……無事で何よりだ。
おおっ、そうだ! 丁度いい。
今日はヴォルガング大尉とリンテール少尉が中将の使いで来るのだったな。
「ヨーゼフ。シュナイデン卿には大変だろうが、すぐにここに呼んでくれ。それともうすぐ大尉と少尉が来るだろう。シュナイデン卿が帰ってきた事を伝えて、ここに寄越してくれ」
「はい、かしこまりました」
そう言って、ヨーゼフが部屋を出て行ってから5分ほどして部屋にノックの音が響く。
「入れ」
私の返事と共に扉が開き、一人の男が入ってくる。
精悍な顔と身体に堂々たる気配を放つその男に、俺は一瞬気圧された。
な、何者だ……いや、あの顔は……まさかっ!
「子爵様、ただいま戻りました」
そう笑って口を開いたのは間違いなく、リクトだった。
だが、明らかに違う。
人として一回り、いや、二回りは確実に大きくなっている。
たかが一ヶ月俺の元を離れていただけで、これほど成長するというのか?
相変わらずこいつは底が知れんな……。
「よ、よく戻ったな。随分と成長したようだが……ん? その後ろの者は誰だ?」
リクトにばかり目を向けていて、その後ろにいる女性に今気づいた。
年の頃は二十代半ば、桃色の髪に眼鏡をかけた美しい女性だが、会ったことはない。
「ダンジョンで出会った方なんです。とてもお世話になりまして、素性については説明が長くなるんですが……ほら、恥ずかしがらずに前に出てください」
リクトが女性の側に寄り添いながら紹介してくれる。
しかし、素性の説明が長引くとは一体……ん?
なんだ、この地鳴りは?
何かが近づいて来るような……。
「失礼します! リク……シュナイデン卿が帰還したと聞きまし……はっ?」
「もぉ〜、アリシアちゃん! 抜け駆けは駄目だよぉ。私だって会いたかったん……えっ?」
ヴォルガング大尉とリンテール少尉が扉を蹴破るような勢いで部屋になだれ込んできて、そして固まった。
何と間の悪い事か。
ちょうどリクトが桃色髪の女性を前に促そうと腰に手を回している時に入ってきおった。
要らぬ誤解を生まねばいいんだが……。
「……おいっ! シュナイデン卿……そちらの女性は誰だ? 貴官はダンジョンで一体何を得てきたのだっ?」
「リクトくん……これは無いんじゃないかなぁ〜。さすがに優しい私でもこれは見過ごせないでしょ〜。説明してくれるよねぇ? するよねぇ? しないといけないよねぇ!」
二人共、凄まじい気迫だ……思わず冷汗が出るわ。
おっ、シュナイデン卿がたじろんでいる。
しかも、以前と変わらぬ感じで。
やれやれ、あの二人にかかればシュナイデン卿もまだまだというわけか。
まぁ、心配させた罰だ。
しばらく助け舟は出さずに様子を見るとするか。
いつも拝読ありがとうございます。
評価、ブックマークをしてくださる方が日に日に増えておりまして、本当に嬉しいです!
しかも高評価くださる方々がほとんどで、たまに夢なのかと思う時があるぐらいです。
本当にありがとうございます。
小説の方はやっと地上に戻って参りまして、しばらくドタバタする予定です。




