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龍仙気

「落ち着きましたか?」


 驚きのあまり時間が止まったかのように動かなかったメアリーさんだったが、その後は堰き止められていた川の水が一気に流れるかの如く、俺に質問責めを繰り返した。

 中には『出会いはいつ頃だったの!』『馴れ初めはっ?』などの意味不明な質問まで飛び出すほど混乱が見られていたので、宥めてようやく今、椅子に座らせたところだ。


「ふぅふぅ……お、落ち着いてないけど、いや、落ち着いていい話じゃないんだけど……君は今、自分がどういう状況にあるかわかる?」


『興奮して息を荒くした年上の美人なお姉さまに迫られてます』って答える雰囲気じゃないな。

 下手な事を言って嫌われたら困るからね。

 ここは首を傾げて誤魔化そう。


「いい? まず魔力の性質の事だけど、魔力には火水風土光闇の六つの性質があって誰でもどれかの性質を持っているのよ。そしてその属性の魔法に対して適性や耐性を持っているの。例えば火の性質なら火属性の魔法の威力が高い、習得が速い、火に対する防御力が高いみたいにね」


「ふむふむ。じゃあ、この龍仙気(ドラゴンオーラ)ってのは……龍みたいに背中に翼が生えるとか?」


 俺が笑って両手をパタパタ動かして見ると、メアリーさんがムスッとした顔をした。

 場を和ませようとしただけなのに……。


「もう! 茶化さないのっ! いい? 龍仙気(ドラゴンオーラ)は龍に認められた者が持つという超稀少な魔力性質なの。全属性に対しての適性と耐性があって、魔力の力も量も今までとは桁違いに強くなっているはずよ」


 そういえばあの龍がそんな事言ってたな。

 確か『力が更に上がるだろう』って。

 そういう意味だったのか。


「それだけ強力な力だから誰でも喉から手が出るほど欲しいのよ! もう! 私だって欲しいくらいなんだから!」


 必死になって訴えるメアリーさんは相変わらず可愛い。

 それにしても、そんなに凄いものだったのか。

 メアリーさんが欲しいって言うくらいだからよっぽどなんだろうけど、俺にはあんまり実感ないんだよなぁ。

 まぁ、帰ってから試してみればいいさ。

 さて、ここからが大事な事だ。


「メアリーさん、この中で一番手取り早く換金できて、まとまったお金になる物はどれですか?」


「一番は君自身だろうけど……んー、古代魔導書とか紋章旗はすぐにお金にはならないだろうし、魔導核も急に言われても買い手がつくかわからないから……このミスリルの短剣ならすぐお金になると思うよ。それがどうかしたの?」


 俺はその答えを聞いて、ミスリルの短剣をメアリーさんに差し出した。


「じゃあ、これはメアリーさんに差し上げます」


「え? な、なんで? 駄目だよ! これは君が命懸けで戦って得た物なんだよ! 軽々しくあげちゃ駄目だよ!」


「軽々しくじゃないですよ。メアリーさんの修行がなかったら俺は確実に死んでました。だから、その御礼です」


「で、でも……これだって凄い価値があるんだよ? 今の貨幣価値はわからないけど、多分帝国金貨なら1000枚は下らないよ?」


 高っ! こんな短剣で金貨1000枚もするのかよっ!

 あっ、でも大尉の魔法剣よりは安いな。


「まぁ、それくらいの価値があるなら十分ですよ。これで生活費はなんとかなるでしょう」


「生活費?」


「ええ、地上に帰りましょう。メアリーさん」


 ハッとした顔をして俺を見つめるメアリーさん。

 金貨1000枚あれば帝都でも何年かは生活できるはずだ。

 その間に身の振り方を決めれば、彼女なら生きていけるはずだ。


「ダンジョンの主を倒した今なら地上に帰れます。一緒に地上に帰りましょう」


「……そうだね。そうだった。君は私と地上に帰るためにダンジョンの主と命懸けで戦ってくれたんだもんね。でも……」


 不安げな表情を浮かべ、落ち着かない様子で部屋をウロウロしている。

 何かあるんだろうか?


「前にも言ったけど、今更どうやって地上で生活すればいいのかわからないのよ。だって、私は三百年前の人間だよ? それに元々帝国の人間でもないし、そんな私が……」


 そうだった。

 あまりにも若くて美人だから忘れていたけど、彼女は今は亡きシーラン大公国の第三公女で《時の指針石》の力で時間を超越していた三百年前の人だった。

 未知の土地ってだけでも不安だろうに、時代まで変わっているとなると……。

 だからといってここに置いていくわけには行かない。

 ここに再び戻って来れるとは限らないからな。

 だけど、どうしたらいいんだろう。


「一つだけ、お願いを聞いてくれるなら、一緒に行くんだけど……」


 メアリーさんがボソッとそう言った。

 なんだ、解決策があるんなら早く言ってくれればいいのに。


「何ですか? 出来る事ならなんでもしますよ」


「わ。私を君の部下……従者にして欲しいのよ」


「従者……ですか?」


「そう。こんな年上の人は嫌かもしれないけど、それなら君の部下として一緒にいられるし、私も心強いのよ」


 なるほど、俺の部下って事にすればとりあえずは一人ではなくなるしな。

 しかし、従者と言われても勝手にしていいもんなんだろうか?

 確かに騎士爵だから従者がいても不思議じゃないんだろうけど、その辺りは子爵様に聞いてみないとわからないな。


「わかりました。俺みたいな若輩者が従者をとれるかわかりませんけど、大丈夫なんだったらお願いします」


「あ、ありがとうっ! これで……うふふっ」


 何か奇妙な笑いをしているメアリーさんが気にはなったけど、納得してくれたみたいだし良かった。

 その後の話し合いで、今日はゆっくり休んで、明日地上に帰る事になった。

 一ヶ月以上過ごしたダンジョンともこれでお別れ。

 地上に帰れる事にワクワクして眠れないかと思ったが、疲れていたのか俺はベットに入るなり、すぐに深い眠りについた。


いつも拝読ありがとうございます。


次回ダンジョンから地上に帰ります。

ダンジョンから美人を連れ帰ったリクトに対する大尉と少尉の反応をお楽しみください。

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