じゃあな
黒い閃光と白い閃光は空中で激しい衝撃波を生み出しながらぶつかり合う。
四大精霊龍が放つは《全ての終息》。
対するリクトが放つは《破剣・破天荒解》。
両者ともに自身の持つ最大最強の魔法と技を繰り出し、魔力は枯渇していた。
お互いにこの技で決めないと跡がない。
「ヌゥウウウウウ! カ、カトウセイブツガァ!」
精霊龍が最後の魔力を振り絞ってさらに押し出す。
しかし、リクトにはもう余力が残っていなかった。
「くうぅぅぅぅぅ……」
押し込まれたリクトは両足で踏ん張っていたが、それも徐々に後退させられていく。
「く、くそぅ……もう魔力が残って、ない……」
「フハハハハハッ! カトウセイブツメ! ヨクガンバッタトホメテヤルゾ! ダガ、コレマデタ!」
精霊龍の魔法が一層勢いを増してリクトに迫る。
「ぐっ! さっきの穿通で魔力を使い過ぎた…………そ、そうだ! あ、あれを使えば……でも、使えばきっと……」
「ナニヲブツブツイッテイル! ネンブツデモトナエハジメタカ!」
眼前に《全ての終息》が近づいてくる。
「ちくしょう! こうなったら仕方ない!」
俺は魔法鞄から罅割れた自身の刀を取り出した。
この刀はさっき《魔装刃》を纏わせたまま魔法鞄に仕舞っていたため、まだ《魔力付与》状態のままだ。
この魔力を使えばまだ何とかなるかもしれない。
だが、刀身に入った罅は致命傷ではないにしても、かなり傷んでいることに違いはない。
振ればおそらくこの刀は……。
「……へっ! ど、どうせ死ぬなら、戦って死ぬ! そうだろ? 相棒! 行くぞっ!」
右手に陛下より下賜された刀、左手に罅割れた自身の刀を持つ。
「これが本当に最後の力だっ! 《破剣・破天荒解》!」
俺は自身の刀に残された魔力を使って二発目の破天荒解を放つ。
一発目の破天荒解に二発目が合わさり、威力を増した破天荒解は一気に《全ての終息》を押し返していく。
「バ、バカナッ!」
事態を飲み込めていない精霊龍は慌てふためき、避けようとするが、絡め合わせた首はすぐには解けず、避けることもできないまま、反射された己の魔法とリクトの技をモロに喰らった。
GUWOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!
断末魔の絶叫が部屋中に響き渡る。
《全ての終息》により精霊龍の巨体のほとんどが消え去り、残った一部で破天荒解が大爆発を起こす。
「うわぁあああああああああああ!」
その爆発は部屋全体に広がり、リクトも吹き飛ばされる。
吹き飛ばされ、地面に叩きつけられ、転がり廻ってからやっと止まった。
魔力が尽きて、《魔力放出》の消えたリクトの身体は傷だらけになっていた。
「いてててて……爺ちゃん、なんて技教えるんだよ……まさか爆発する技だなんて思いもしなかった……」
ボロボロになった身体でなんとか起き上がる。
そして、前を見るとそこには黒煙を上げながら燃える精霊龍の首があった。
俺は痛む身体を引きずりながら精霊龍の元へ歩く。
近づいて見てわかったが、四つの首の内、三つはすでに灰と化しており、燃えているのは一つだけだった。
「まだ、生きてんのか?」
俺は燃える龍の首に問いかけた。
「キ、キサマラノヨウナカトウセイブツトイッショニスルナ……」
弱々しくも龍は口を開き、話した。
首だけでも直径3メートル以上あるので、普通なら恐ろしいのだろうが、俺にはもう恐れはなかった。
「そうか。でも、俺の勝ちだ」
「マ、マサカ、コノワレガヤブレルトハナ……イイダロウ、ホウビニコレヲクレテヤル」
精霊龍はそう言うと、瞳を輝かせた。
すると、俺の身体に光が降り注ぎ始める。
「これは?」
「ドラゴンオーラ……キサマノマリョクノセイシツヲカエタ。コレデチカラハサラニアガルダロウ」
「魔力の性質を変えた? それってどういう意味だ?」
「ク、クワシクハアノオンナニキクガイイ……ソ、ソレヨリ、コゾウ! キサマニイッテオクコトガアル!」
精霊龍の首はもうほとんどが燃え尽き、頭部にまで燃え広がっていた。
それを気にする様子もなく、精霊龍は俺に語りかけ続けた。
「なんだよ?」
「キ、キサマハマグレデモワレニカッタノダ! ホカノヤツニマケルコトハワレガユルサヌ! ヨイナ?」
精霊龍の頭部も、ほとんど燃え尽きかけていた。
それでも龍の瞳は俺を見据えて離さない。
さっきまでとは違い、強く優しい眼をしていた。
「あぁ、お前を永遠に世界で二番目に強い奴にしといてやるよ」
俺の言葉に精霊龍は何も発さなかった。
だが、最後に少し笑ったかのように眼を細め……そして燃え尽きた。
あとに残ったのは黒い灰と宝箱、それに天に昇る煙だけだった。
「じゃあな。誇り高き、四大精霊龍……」
俺はそう呟くと、煙を見上げ、その場にしばらく立ち尽くしていた。
いつも拝読ありがとうございます。
ダンジョン編ももうすぐ終わります。
宝箱の中身は……どうしよう……。
頑張って考えます。




