最後の一撃
「ったく! いつまで続くんだよっ! ちょっとはダイエットしろよなっ!」
俺は先の見えない肉の壁に悪態を吐く。
それと言うのも精霊龍の横っ腹に飛び込んでからかなり経っているはずなのに、一向に貫通する気配がない。
《貫剣・穿通》は武器の切っ先に魔力を集中させて螺旋を作り出し、己が身体ごと突進する技だ。
しかし、本来は相手が構える盾や籠城している城の扉、壁を破壊する技で、敵の身体を貫く技じゃない。
今はなんとか《魔力放出》と《魔力浮遊》で貫通力を生み出しているが、魔力が枯れたらそこで終わりだ!
「ここで魔力が枯れたら、こいつの腹の中に取り残されるっ! 早く貫いてくれっ!」
徐々に魔力が減っていくのがわかる。
俺の魔力も残りわずか……。
それに、かなりヤバい事が起こっている。
「くっ、頼む! もってくれよ」
刀が軋み始めている。
考えてみればこの前、破滅巨大虎とやり合った時にもかなり無茶をしているんだ。
それに加えて《魔力増幅》状態で《魔装刃》を纏わせ、おまけに硬い龍の肉を貫いているんだから、刀身にかなりの負担がかかっているのは間違いない。
刀からミシミシッと音が聞こえ、刀身に細かい罅が入る。
「や、やばいっ! 刀がもう保たない! どうする! どうすればいいっ!」
俺の不安を余所に肉の壁は未だに終わりを見せず、行く手を阻んでいる。
ちくしょうっ! ここまでかっ!
せっかく出世もして、子爵様にも期待されて、中将や大尉、少尉とも仲良くなったのに!
メアリーさんを地上に返してあげることもできないのかっ!
陛下の勅命も守れない……陛下の勅命……陛下……。
「あっ! そ、そうだ!」
俺は空いている手で魔法鞄の中に手を突っ込む。
えっと……これじゃない……これでもない!
くそっ! こんな事ならもうちょっと整理しとけばよかった!
必死に探してようやく目当てのものに手にした俺は鞄からそれを取り出した。
「陛下から貰った刀……壊れたらマズいと思ってしまっておいたけど、やっぱり刀を使ってこそ刀だよな。
よしっ!」
刀の鞘部分を魔法鞄の入れて、刀身だけを引き抜く。
そこには俺の持つ刀と似ているようで似ていない、奇妙な刀が現れた。
「よく見ると違うけど、今は拘ってる場合じゃねえな。頼んだぞ! うぉおおおおおおおおおおっ!」
俺は左手で陛下より下賜された刀に《魔装刃》を纏わせ、右手に持っていた自分の刀を下げて魔法鞄に放り込む。
そして……。
「貫剣・穿通!」
再び穿通を繰り出す。
すると、切っ先に集められた魔力が螺旋を生む。
しかし、その螺旋はさらに大きな渦となっていった。
「な、な、何だっ!」
さっきまでの螺旋はせいぜいが直径にして2メートル程だった。
しかし、今の螺旋は明らかに倍以上の大きさとなり、貫通力も比べものにならないほど速くなっている。
最初は戸惑っていた俺だが、これなら貫けると確信し、最後の魔力を振り絞って突撃する。
「いっけぇえええええええええええええ!」
魔力を込めたため、さらに速度が上がる。
上がる、上がる、上がる、上がる、上がる、上がる!
そして、ついに。
ブチュブチブチブチッ!
GWAOOOOOOOONNNNN!
肉が捻じ切られる音と精霊龍の明らかに苦しんでいる咆哮が聞こえ、俺は肉の壁を突破した。
空が見える。
「はぁはぁはぁ……や、やったぞ!」
どうやら俺は横っ腹から突入して対角線状に斜め上に突き抜けたようだ。
お陰で空に飛び出してしまった形だ。
その俺を巨大な八つの眼が恨めしそうに睨みつける。
「オ、オノレ! カトウセイブツノニンゲンフゼイガッ!」
さすがの四大精霊龍も尻尾と翼を切断され、横っ腹に風穴を開けられては軽傷とはいかないようだ。
全身血塗れで息も上がっている。
しかし、それは俺も全く同じ状態だった。
血こそ返り血だが、魔力をほとんど使い果たしたせいかかなりしんどい。
肩で息をし、気を抜いたら意識が飛んでしまいそうだ。
お互い満身創痍で余分な力なんか残っていない。
「おい……下等生物下等生物と連呼しやがって! その下等生物にやられた気分はどうだよ?」
「ウヌボレルナ、コゾウ! キサマゴトキガ、ワレニカテルハズガナイ!」
「そうかい……だ、だったら、その下等生物の最後の勝負受けるよな?」
「ナニッ?」
「お互いにもうボロボロだ……これ以上チマチマやっても仕方ない。だから、次の一撃で勝負だ。逃げたかったら逃げてもいいぞ?」
「フザケルナ! イイダロウ。カトウセイブツニシテハ、ヨクタタカッタホウビニワレノサイダイサイキョウノマホウデ、キサマヲケシサッテクレルワ!」
お互いに地面に立って、距離をとり、息を整え、残り少ない魔力を集中させた。
そして、沈黙が流れる。
先程までとはうって変わった静寂のひと時……。
両者の時だけが止まったかのように、互いに動かなかった。
その時、崩れかけた壁から岩が地面に落ちて大きな音をたてる。
それが合図だったかのように時が動き出す。
精霊龍は四つ首を絡め合わせ、四つの頭が花弁のような形となって口を開いた。
「クラウガイイ! ヤブルコトモヨケルコトモデキンゾ! 《全ての終息!」
精霊龍の口から黒い閃光が放たれる。
それに触れた岩や氷柱が、そこだけが無かったかのように消滅していった。
だが、俺にはビビる余裕すらない。
最後の魔力を最後の技にかけることに集中するので精一杯だ。
泣こうが喚こうがこれで最後、悔いは残さない!
唯一、爺ちゃんに教わった技で勝負だっ!
「《破剣・破天荒解》!」
鞘から抜き放たれた刀身から白い閃光が放たれた。
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ちなみに只今、夜中の3時!
変なテンションになっております!




