表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
78/205

終わりと始まり

 魔法技術の修行を始めて一ヶ月が経った。

 正直、これほど変わるとは思ってもみなかった。

 一つ技術を会得する度に戦いの幅が広がり、剣の威力も増していった。

 信じられないほどの力を感じている。

 今ならあの破滅(カタストロフィ)巨大虎(グレートタイガー)にだって楽に勝てそうだ。


「……リ、リクト君って一体何者なの? 《魔力付与》《魔力増幅》《魔力放出》、それに《魔力浮遊》まで……こんなにあっさり会得するなんて……」


 メアリーさんの期待以上だったのは嬉しい。

 さすがに《魔力浮遊》は苦労したけど、《魔力付与》《魔力増幅》《魔力放出》は案外簡単に会得できた。

というか、家で意味もわからずに父親にやらされてた事がほとんどでコツがわかってたのもあるんだけどな。


「もぅ……全部会得するのに何十年もかかったらどうしようかと思ってたのに、まさか一ヶ月とはね。お姉さん、びっくりだよ」


「あはは……ちょっと待ってください。何十年もかかる修行をやらせてたんですか?」


「えっ? あっ、いや……ち、ちゃんと途中で切り上げる事も考えてたよ? うん。ほ、本当だよ? もぅ、そんな人を疑うような眼をしちゃ駄目!」


 本当か?

 その慌てぶりが余計に疑わしい。

 俺は言葉を発さずに疑いの眼差しを向ける。


「と、ところで、《魔力浮遊》なんだけど……」


 パキンッ!


 メアリーさんが強引に誤魔化そうとした時、何かが割れるような音がした。

 魔物の気配はしないけど、なんだろう?


「そ、そんな……」


「? どうかしたんですか?」


 気がつけばメアリーさんは両手を胸の前に当てて、青ざめた顔をしている。

 そして、徐に服の中に手を入れて中からある物を取り出した。

 その手には中央にはっきりと亀裂の入った石が乗っていた。

 これってまさか……。


「時の指針石が……壊れた?」


「そう……つまり、私の時間が動き出したって事よ……」


 メアリーさんは割れた時の指針石を見つめながら、小さくそう言った。


「仕方ないね、もう限界寸前だったんだもん。もぅ、今までありがとうって感じだよ」


 寂しそうな顔で石を撫でている所を見ると、色々思い入れもあるんだろうからショックなんだろう。

 だが、ショックを受けているばかりではいられない。

 こうなってくるとさっさとダンジョンの主である《四大(フォーグレイト)精霊龍(スピリットドラゴン)》を倒して、地上に帰らないとマズい。

 グズグスして女性の時間を浪費させる訳にはいかないのだ。

 ダウスターのおばちゃんが言ってた『女の時間は貴重なのよ』って、だから急がないと。

 そのために今の俺が出来るのは主を倒して、地上への転移魔法陣を起動させることだけだ。


「メアリーさん。ダンジョンの主は何処にいますか?」


「えっ!」


 メアリーさんが眼を見開いて俺を見る。

 これは当然の反応だが、今は時間が惜しいよ。


「も、もぅ戦いに行くつもり? 無理だよっ! 相手はこのダンジョンで最も強い魔物なんだよ? 一人で勝てる訳ないよっ!」


「それでも行きますよ。それしか方法がないんですから」


 俺の願いにメアリーさんは首を横に振る。


「だ、駄目だよっ! お、教えない! 居場所は教えないからね!」


 困ったな。

 そんなに反対されるとは思ってなかった。

 そもそも、戦いに行くために修行してたはずなんだけど……。


「メアリーさん」


「駄目っ! い、いいじゃない! こ、このまま私と君の2人でここで暮らすのも……それで一緒になって……」


 あらら……よくわからない事口走ってるよ。

 随分と混乱しているようだな。

 よほど、あの石が壊れたのがショックだったと見える。

 でも、戦わずに引くってのは俺はやだなぁ。

 なんとか教えてもらえないかな?


「メアリーさん……」


「だ、駄目だからね! ぜっ、絶対に……」


「お願いします! 俺を男にしてもらえませんか?」


「ふぇっ! お、男にって……うええええええええ!

 も、もぅ! 急に何を言い出すのよっ! わ、私だってまだ経験ないのに……そんな……」


 今度は急に照れ出した! こ、混乱がひどいな。

 それに経験って……あっ、まだ主と戦った事がないって意味か。


「俺は地上でやらねばならない事があります。それを果たさずここで安穏と生きる事はできません。それにメアリーさんにもこれまで三百年、ずっと孤独だった分を帳消しにするくらい幸せになってほしいんです。だから、お願いします!」


「し、幸せに……うぅぅ……」


 俺は自分の思いを包み隠さず正直に話した。

 メアリーさんは唸りながら閉眼し、考え込んでいた。

 そして……。


「はぁ、わかったよ! もぅ! 困った子ね! お姉さんを困らせてばかりで……でも、私の幸せまで考えてくれてありがとね! 嬉しかったぞ!」


 仁王立ちしながらも満面の笑みで答えてくれるメアリーさんはめっちゃ可愛かった。

 この人は帝都でもモテるだろうなぁ。

 案外すぐに良い人が現れたりしてね。

 俺は主の居場所をメアリーさんに聞いてから準備を整え、先程の笑顔を励みに戦いに赴いた。


いつも拝読ありがとうございます。


実は先日初めて誤字報告をいただきました。

正直、めっちゃ嬉しいです。

そこまでしっかり読み込んでいただき、更に指摘までしていただけるとは思ってもみませんでした。

ご指摘くださった方、本当にありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ