魔法技術
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「……ごめんね。ありがとう、もう大丈夫よ!」
メアリーさんは流れる涙を拭いながらも気丈に笑い、そう言った。
俺はそれをボーっと眺めている事しかできなかった。
普通、こういう時は抱きしめて胸の中で泣かせるとかするんだろうけど、俺には無理だ。
だって、そんな経験ないからね!
いや、そんな悲しい現実を確認している場合ではないな。
それより今後のことだ。
俺は地上に帰らないといけないが、メアリーさんはどうする?
元々は地上で暮らしてて、追手から逃れるためにダンジョンに入ったんだよな。
でも国が滅びた今、追手ももういないだろう。
なら、メアリーさんがここにいる理由はないはずだ。
「メアリーさん、ダンジョンから出ませんか?」
「えっ?」
俺の突然の話にメアリーさんは驚いているようだ。
「もう追手を気にしなくていいんでしょ? なら、ダンジョンに篭ってる必要もないでしょ?」
「そうね……確かにそうなんだけど。でも、今更どうやって地上で暮らしたらいいかわからないよ……」
そうか。
三百年もダンジョンで暮らしてたんだもんな。
そういう不安もあるか。
うーん、俺が面倒みれるくらい偉かったらいいんだけど、さすがに少尉の俸給、金貨350枚だけじゃ厳しいなぁ。
そうなると、メアリーさんの後見人を探さないといけないんだけど……子爵様くらいしか思いつかない。
うん。とりあえず頼んでみて、駄目だったら俺の金で何とかしよう。
以前の報奨金の残りもあるし、今回の素材を売った金があればしばらくはなんとかなるだろう。
「俺の寄親でもある子爵様を頼りましょう。厳つい顔をしておられますけど、お優しい方なので、きっと力になってくれます」
「でも、急に得体の知れない人なんかの面倒みてくれるのかしら?」
「駄目なら俺が面倒見ますよ。だから……」
「め、め、面倒見る! そ、それって……あ、あの……私達まだ知り合ったばかりだし……そんな事……」
急に顔を真っ赤にしながら大声を出すメアリーさん。
どうしたんだ?
……あぁ、そうか、知り合って間もないからな。
俺を全面的に信用しろって言っても無理だよなぁ。
でも、ここにずっといる訳にもいかないだろうし、なんとか信用してもらえないかな?
「日も浅いのは重々分かりますけど、そこは俺を信じてくださいとしか言いようがないです。どうでしょう? 一緒に地上に戻りませんか?」
「い、一緒……あ、あの……もぅ! 急にそんな事言われても困っちゃうじゃないの! もぅ! もぅ! もう!」
さ、更に顔を真っ赤にして悶えている。
随分取り乱してるけど、大丈夫かな?
とりあえず落ち着いてもらおう。
それに問題が一つある。
「お、落ち着いてください。ここから地上に帰るにはダンジョンの主を倒さないといけないんでしょ? 先ずはそれをどうにかしないと……」
「そ、そうよ! 君と私の2人で一階層ずつ登って地上に出るのはかなり危険よね……そうなると、やっぱりダンジョンの主を倒して転移魔法陣を使うしかないよ。それはどうするの?」
「倒すしかありません。そのダンジョンの主は強いんですか?」
メアリーさんは腕を組んで考え込む。
「名前は《四大精霊龍》。四属性魔法を操る四つ首の龍だけど正直、どれだけ強いかはわからないの。ただ、あの破滅巨大虎より弱いって事はないと思う」
魔法を操る龍って厄介だな。
しかも首が四つか、一つ斬ってる間に他の3つから攻撃されたら一溜りもない。
どうするかな。
「魔法っていえば、君って《魔力操作》上手いよね。魔法は使わないの?」
「魔力操作?」
はて? どこかで聞いたような……あっ、リンテール子爵がそんな事言ってたな。
「《魔力操作》って何ですか?」
「えっ? し、知らないの? だって、さっきの戦いでやってたでしょ?」
さっきの戦い……あの虎でしょ?
なんかやったっけ?
「《魔力操作》は自分の魔力を操作して、身体機能を上げる技術だよ。さっきの高速移動がそうじゃないの?」
「あぁ、あれの事ですか? あれは実家で教わっただけでして。そうか《魔力操作》って言うのかぁ」
「知らずにあれだけの事ができたって事? ……ねぇ、少しだけ魔法の練習してみない?」
何か考え込む仕草を見せたと思ったら、急に修行の誘いとは、どういう事だ?
「魔法……ですか?」
「うん。とは言っても魔法そのものじゃなくて、魔法技術だね。《魔力操作》の他にも《魔力付与》とか《魔力増幅》《魔力放出》って技術があって、極めつけは《魔力浮遊》! なんと空が飛べちゃうんだよ」
なんとっ! そんなに色々な技術があるなんて知らなかった。
おまけに浮遊だって? 風属性の適性がないと難しいと言われてる浮遊ができるなんて夢みたいだ!
「私は剣術も魔法も人並みだけど、魔法技術には自信があるの。君は《魔装刃》の使い手でしょ? 魔法技術が上達すれば、剣の威力も上がるし、《四大精霊龍》にも勝てる可能性が出てくるよ! どうかな?」
これは断る理由がないな。
「よろしくお願いします!」
俺は頭を下げて教えを乞い、魔法技術の修行が始まった。
そして、一ヶ月の刻が流れるのはあっという間だった。
いつも拝読ありがとうございます。
軍人の給料を調べた際に、明治時代の少尉の給料を見てびっくり。
なんと、年収は約170万円だそうです。
皆さん、命をかけて戦ったというのに……。




