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メアリーカミングアウト

 ど、どうしよう……。

 こういう時はどうしたらいいんだ?

 メアリーさんがシーラン大公国の第三公女だって事はわかった。

 だけど……肝心のシーラン大公国ってのが何処にあるのかがわからない。

 現在の帝国に隣接している国家は三つ。

 西のレギウム王国、北のルークリア共和国、南のナンガァ連邦、あとは東の海を越えたところに海洋国家エルタリアという島国があるだけだ。

 帝国から離れた所には他にもいくつか国があるが、シーラン大公国という国は聞いたことがない。


「……やっぱり驚くよね」


 メアリーさんが自嘲気味に笑いながら小さく言った。

 確かに驚いている。

 なんせ聞いた事もない国の出身だったし、真実かどうかもわからない。

 まさかの妄想って線も捨てきれないしな。


「確かに驚いているんですけど、その……何で公女様がここに?」


 いきなり『そんな国はない』とは言えないし、確認も必要なので、とりあえず他の事を聞いてみよう。


「まぁ、簡単に言えば後継者争いから逃れたくてね……兄も姉も御父様の後継者になるために色々やってて。おかしいよね? 兄妹で殺し合うんだもん。私はそんな事に興味なかったのに、信じてもらえなくて……顔も知らない、年齢も倍以上離れた貴族のところに嫁に行かされそうになったから、国から逃げたのよ」


 跡目争いか、ありがちな話だな。

 帝国でも王国でも、それこそ共和国や連邦にだって権力者の跡目争いが絶えることはない。


「最初は地上の街に住んでたんだけど、追手が来てね……私はダンジョンに逃げ込んだわ。でも、ダンジョンの出入口を追手に押さえられて、出られなくなっちゃったのよ。でも、国から逃げる時に色々持ち出していたお陰で、ここでもなんとか生活できたから、ダンジョンに住む事にしたの」


 そう言うとメアリーさんは周囲に目をやった。


「この家もですか?」


「うん。《拠点創造(クリエイトベース)》って言う拠点を作る魔道具だよ。他にも《永遠の水(エターナルウォーター)》とか《収穫の樽(ハーベストバレル)》とかあって、それで食料もなんとかなったの」


 この魔道具は聞いたことがある。

 確か、軍の兵站について調べていた際に軍機密の古代魔道具(アーティファクト)として載っていた物だ。

 かなり貴重な物で、帝国では元帥府が管理しており、他には存在しない筈なんだけど。

 大公国って言うくらいだからそれぐらいはあって当たり前なのかな?


「正直言うとね、私も一人で生活するのは少し疲れちゃったの……長い間誰とも関わらず、たまにやって来るのはあの破滅(カタストロフィ)巨大虎(グレートタイガー)だけ。魔道具も限界に近いし、もぅ潮時かなって……だから、君の決断に私の将来を委ねる事にしたの!」


 いやいやいやいや、急にそんなの委ねられても困ります!

 第一、何で俺なんだよっ! 絶対嫌だっ!

 そう思って俺が断ろうとすると、メアリーさんはテーブルから身を乗り出した。


「私はどんな決断でも受け入れるから……だから、お願い」


 普段の可愛さとは違った扇情的な色気……。

 そんな上目遣いでおねだりされたら何でもしたくなっちゃうじゃないですか……って、違う! 

 はぁ、もう本人も『正直に』って言ってるし、これ以上は誤魔化せないし、正直に言ってしまうか。


「わかりました。では、言わせていただきます」


「う、うん! だ、大丈夫っ! お姉さんはどんな決断でも君を怒ったりしないから」


 姿勢を正し、精一杯の笑顔を俺に向けるメアリーさん。

 若干、震えながらも眼は真剣そのものだ。


「正直に言います」


「……うん」


「ごめんなさい! シーラン大公国って何処の国ですか?」


 俺の言葉の意味が理解できなかったのか、メアリーさんはしばらくの間、固まったまま動かなかった。


「……えっ? な、何言ってるの? シーラン大公国はヴァランタイン帝国の南方に……」


「あの……帝国の南方はナンガァ連邦ですよ。その中にもシーランって都市は存在しませんし……」


「き、君が知らないだけ……とか?」


 メアリーさんが控えめに聞いてくる。

 どうやら俺の言ってる事が信じられないあまり、俺の知識を疑いだしたようだ。

 ここは一つ、はっきりと断言しておこう。


「いえ、こう見えても軍人です。近隣諸国の地理は把握してますよ。ですが、シーラン大公国って国は聞いた事がありません」


 俺の言葉に益々混乱したようで、頭を抱えるメアリーさん。


「ちょ、ちょっと待ってぇ、おかしいよぉ。だって、三百年前に私が国を出た時には……」


 俺はその小さな一言を聞き流さなかった。


「さ、三百年っ! えっ? えっ? も、もしかして、メアリーさんって三百歳超えのおばあちゃんなんですかっ!」


 ……やってしまった。

 突然のカミングアウトについ言ってしまった。

 メアリーさんの表情がみるみる変わっていく。


「お、お、お、おばあちゃん言うなぁああああああ! もぅ! ばかぁああああああああああ!」


 顔を真っ赤にし、両手を振り上げて、泣きながら怒るメアリーさん。

 うん、やっぱり可愛いなぁ。

 たとえ、三百歳……でも。


いつも拝読ありがとうございます。


可愛いお姉さんはお好きですか?

私は好きです。

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