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地上懐古

 視界を遮るほどの巨大な爪が俺の横を掠め、地面に3本の深い溝を刻み込み、その周囲を抉り取る。

 俺が躱し際に前足に放った刃は硬い皮膚に阻まれ、薄皮一枚を斬り、毛皮に薄ら血を滲ませる程度だった。

 流石に人間相手とは訳が違う。

 なんせ戦い始めて30分、同じ事の繰り返しだ。

 巨体に違わぬ力と巨体に似合わぬ速度で休む間もなく、執拗に襲いかかってくる虎に俺は悪戦苦闘していた。

 裂剣や断剣なら皮や肉を斬り裂けるだろうが、嵐のような猛攻がそれを許さない。

 生半可な力ではこいつを斬る事はできないが、斬撃の威力を増すには刀に力を込める必要がある。

 しかし、下手に力を込める事に集中してしまうと、隙が出来てしまい、攻撃をモロに喰らってしまうのでそれが出来ないのだ。


「やはり人と魔物では勝手が違うな」


 そう思いながら、戦っていると不意に虎が距離を取った。

 何事かと思っていると横から巨大な何かが俺を薙ぎ払った。


「ぐっ!」


 咄嗟に避けたものの全ては躱しきれず、横腹に強い衝撃を受けて俺は吹き飛ばされた。

 吹き飛びながら俺が見たのは縦縞の毛の生えた大木を思わせる太さの蛇のように動くモノ――尻尾だ。

 牙と爪ばかりに注意していて、尻尾の存在を完全に忘れていた。

 俺は空中で体勢を立て直し、地面を転がって壁への激突は避けたが、結構なダメージをもらってしまった。


「いてて……こりゃ、肋骨何本か持ってかれたな」


 痛む脇腹を押さえながら刀を構え、虎を見つめる。

 虎は俺に一撃食らわせたのが嬉しいのか、激しい咆哮をあげている。


「この野郎……勝鬨をあげるにはまだ早いぞ」


 とは言ったものの、このままではジリ貧だな。

 大見栄きってメアリーさんの家を飛び出しておきながら情けない。

 とにかく、こいつの仕留め方をなんとか考えないと。

 昔、家の近所にいた大熊を仕留めた時は身体の細い部分から斬っていったけど、こいつはどこもかしこも刀で斬るには部位が太すぎて刃が肉まで届かないからこの戦法は使えない。

 他には何がいたっけ?


「くそっ! 思い出せ、俺!」


 苛つく俺を嘲笑うかのように虎は少し吠えたり、目の前をウロウロし、時々前足を軽く叩きつけたりしている。


「舐めやがって……」


 頭にくる野郎だ。

 絶対に仕留めてやるからな!

 ええと、今まで他に苦労したやつは……ワイバーンは関係ない。鰐も刀で斬れるデカさだったし、後はなんかいたっけなぁ。

 後は傭兵蟻の大軍とか、軍隊蜂の大軍とか苦労したけど、こいつには意味が……待てよ。


「そうだ。そうだよ! これだ! これならなんとかなるかもしれない! よし! やるか!」


 俺は思い立った作戦を実行するため、魔法鞄から回復薬を取り出して飲み、万全の体制を整える。


「すぐに俺に止めを刺さなかった事を後悔させてやる」


 俺は刀を構えて虎に向かって突進する。

 虎はニヤニヤした表情を浮かべながら、前足を振り下ろしてきたので躱して、その前足を斬る。

 虎の毛皮が少し裂けて、薄ら血が流れる。

 虎はそんな事を気にした様子もなく、また猛攻を繰り返し、壁や床に無数の新しい傷をつけていった。

 俺は猛攻を躱しながら斬る事を繰り返した。

 前足を斬る。肩を斬る。腹を斬る。背中を斬る。後足を斬る。尻尾を斬る。顔を斬る。耳を斬る。眼を斬る。全身をくまなく斬る。


 斬る。斬る。斬る。斬る。斬る。斬る。斬る。斬る。斬る。斬る。斬る。斬る。斬る。斬る。斬る。斬る。斬る。斬る。斬る。斬る。斬る。斬る。斬る。斬る。斬る。斬る。斬る。斬る。斬る。斬る。斬る。斬る。


 小さかろうが、なんだろうが俺は虎の身体を斬りまくった。

 虎の猛攻より早く、俺は速度を維持したまま虎の身体を縦横無尽に駆け回り、すべてを斬り刻んでいく。

 虎も最初は意に介した様子もなかったが、傷が増える度に徐々に動きが鈍くなり、攻撃も精細さを欠いていった。


「まだまだっ! お前が倒れるまで俺は止まらないぞ!」


 虎の動きが鈍くなった事で刀に力を込めやすくなり、俺の斬撃も威力を増していく。

 虎の全身は斬り刻まれ、血が止めどなく流れ出し、床にはすでに血溜まりが出来ていた。

 俺の息が上がり、片膝をついた頃、ついに虎は立っているのがやっとの状態になり、恨みがましい眼で俺を睨みつける事しかできなくなっていた。

 息を整えながら俺は虎の眼前にまで歩き、その眼を見据えた。


「一匹の蟻や蜂の攻撃では貴様の命には届かない。だが、その数が百なら? 千なら? 万ならどうだ? 重ねて続けた無数の斬撃が貴様の命に届いたのだ。俺を矮小な雑魚だと思わずにさっさと殺しておくべきだったな。敗因はお前の傲りだ」


 俺はそう言って虎の背に乗り、残る力を全て刀に込めた。


「断剣《鎌風》!」


 放たれた真空の刃は虎の首を一瞬で通り過ぎさった。

 そして、ゆっくり虎の首が身体から離れて落ち、最後まで雄々しく立っていた巨大な身体もゆっくり床に崩れ落ちていった。


「はぁはぁはぁはぁ……やれやれ、こいつはキツいなぁ。それにしても、また酷い格好だ……はははっ」


 俺は血塗れの自分の身体を見ながら、以前にもあった同じような事を思い出し、地上の人達のことを懐しんだ。


いつも拝読ありがとうございます。


評価、ブックマークしてくださった方々、ありがとうございます。

感想をくださった方、ありがとうございます。

これを糧に私は小説を書いております。

これからもよろしくお願いします。

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