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メアリーの試練

 メアリーさんが戻ってきた。

 彼女は風呂に入ってきたようで、石鹸の良い香りをさせていた。

 それにしても風呂まであるのか。

 風呂なんて帝都でも上流家庭にしかない高級品だ。

 ダウスターみたいな地方だと領主邸にしかない事も多いってのに、こんなダンジョンの中に家を造り、風呂まで作るとは……ダンジョン研究家侮り難し。


「さて、改めて自己紹介するね。私はメアリー・マニング。ダンジョン研究家だよ」


「俺はリクト。駆け出しのGランク冒険者で、ここには落とし穴で落ちてきた」


「それなんだけど……君、何処から落ちてきたの? 普通、この階層まで通じてる落とし穴なんてないんだよ?」


 メアリーさんはちょっと困ったような顔で俺の顔を覗き込んだ。

 そういえば、俺って何階層から落ちたんだ?

 なんせ少しでも金になる魔物だけを目的に進んで行たから、階層なんかよく覚えてないんだよなぁ。


「それがよく覚えてなくて……綿毛兎が出始めたところだったはずだけど」


「わ、綿毛兎っ! それって四階層か五階層だよっ! 君はそこから一気に50階層以上も落ちてきたのっ!」


 50階層? マジか? って事はここは……。


「ここは57階層。フェンドラのダンジョンの最深部だよ」


「さ、最深部っ!」


 まさか最深部まで落ちるとは……道理で長い時間滑り落ちたと思ったんだよ。

 しかし、まいったなぁ。

 どうやって帰ろうか、こういうダンジョンとか遺跡って行きよりも帰りの方が厄介なんだよなぁ。

 持ってきた食料は2週間分、果たして足りるのか。


「ここから帰るとしたらどれくらいかかりますか?」


「地上にって事? 多分、一ヶ月はかかるよ。それに君って一人(ソロ)でしょ? 普通に考えてここから一人で帰るのは無理よ。一ヶ月間、不眠不休する事になるわ」


 確かにその通りだ。

 一人だと見張り役がいないから寝る事も出来ない。

 もし、一人なら結界を張るとか方法はあるけど、生憎俺は使えない。

 さぁ、困ったぞ。

 このままだと俺はこの57階層に取り残される事になる。

 とにかく何か作戦を考えるしかない。


「他にも方法はあるけど、これも一人じゃ無理かなぁ」


「何かあるんですか?」


「うん。ダンジョンの主を倒すこと。そうすれば、地上までの移動魔法陣が稼働するから一瞬で帰れるよ」


「ダンジョンの主? それはダンジョンマスターですか?」


「違うよ。ダンジョンマスターはダンジョンを形成している魔物の事で、ダンジョンの主はそれが創り出したダンジョン内で最も強い魔物の事だよ。ちなみにこのダンジョンの主を倒すとかなり貴重なお宝が手に入るよぅ」


 貴重なお宝とはそそるねぇ。

 いやいや、それより帰れる方法があるんじゃないか。

 なら、焦る事はないな。

 そのダンジョンの主とやらをぶっ飛ばせばいいんだから。


「メアリーさん。ありがとうございます。そのダンジョンの主の居場所を教えてもらえませんか? ちょっと行ってきます」


「……リクト君。お姉さんのお話を聞いてたかなぁ? ダンジョンの主はこのダンジョンで最も強い魔物なんだよ?」


「でも、やってみないとわかりませんから」


「……もぅ、お姉さんを困らせちゃダメだぞ? 君はGランク冒険者でしょ? まだ成人したばかりだし、自信たっぷりなのもいいけど……」


「まぁ、なんとかなるかもしれませんし」


「もぅ! ダメだよ! ダメ! そんな危ない事しちゃいけません! お姉さん許さないぞ! もぅ!」


 メアリーさんは立ち上がり、仁王立ちになって俺を諭すように怒る。

 しかし、俺もずっとここにいるわけにもいかないし、正攻法でダメならこの方法しか帰る道はないのだ。


「もぅ! どうしてもダンジョンの主と戦いたいなら、さっきの虎を倒してからにしなさい。それならお姉さんも主の居場所を教えてあげる!」


「よっしゃ! 約束ですよ! では、行ってきます!」


「えっ? えっ? ち、ちょっと待……」


 何か言いかけたメアリーさんを無視して、俺は家を飛び出し、さっき虎を見かけた場所まで走る。

 ――さっきメアリーさんと出会った場所まで戻ってきた。

 さぁて、あの虎は何処にいるかなぁ。

 ふんふんっ、臭いはするけど……こっちか?

 俺は匂いを頼りにダンジョンの中を進んでいく。

 ……いたいた、あの虎だ。

 匂いの先にはさっきメアリーさんに齧り付いたであろう全長10メートルはある巨大な虎が丸まって寝ていた。

 このまま寝込みを襲ってもいいが、そんな卑怯な戦い方ではメアリーさんが認めてくれないかもしれない。

 ここはちゃんと起こしてから倒すとしよう。

 俺はそう思って近くにあった石を思いっきり虎の顔面に投げつける!

 石は放物線を描く事なく、虎の眉間にぶち当たる。

 虎は痛みの程度を表すかのように激しい悲鳴を上げ、そして忌々しいものを見るかのように俺を睨みつけた。

 寝ている所申し訳ないが、こっちにも事情があるのだ。


「さあ、かかってこい!」


 虎は広間全体を揺るがすが如く咆哮を上げて俺に襲いかかり、俺の目の前には涎塗れの大きな口が迫っていた。


いつも拝読ありがとうございます。


沢山の評価、ブックマークありがとうございます。

最近はアクセス数も増えており、感謝しております。

もっと上を目指して頑張ります。

でも、どうやったら上位の方々のようになれるのでしょうか?

そう思いつつ、他の作家さんの作品読み漁ってます。


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