表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
70/205

メアリーの葛藤

評価、ブックマークしてくださった方々、ありがとうございます!

 バカでかい虎が逃げ去った部屋には微妙な雰囲気が残されていた。

 そりゃそうだろう。

 目の前で喰われたと思った女性が涎塗(よだれまみ)れにされたとはいえ、無傷で立っているんだからな。

 メアリーさんも微妙な空気を察してか、チラチラこっちを見ている。

 さて、どうしたもんかねぇ。


「あ、あの……え〜っと、これはですね……その……」


 メアリーさんが何か言おうとしているが、どうにも要領を得ない。

 どうやらさっきの事は話しにくい事のようだ。

 なら、無理に話させる事もないだろう。

『好奇心は猫を殺す』というし、下手に首を突っ込む必要もあるまい。

 誰にだって言いたくない事やは秘密の一つや二つはあるもんさ。


「言いにくかったら言わなくていいですよ。びっくりはしましたけど、メアリーさんが無事で何よりでした」


「えっ?」


 俺の言葉が意外だったのか、キョトンとした顔をするメアリーさん。

 本当に年上なのか疑うほど、その表情は幼く見える。


「そ、そう? リ、リクト君だったよね? じゃあ、驚かせちゃった代わりにお姉さんの家に招待するよ。あんまり料理は得意じゃないけど、ご飯食べて行かない?」


 意を決した表情でメアリーさんが家に招待してくれた。

 ご飯か、そういえば帝都を出てから何も食べてなかったな。

 食料は魔法鞄に入ってるけど、消費はなるべく抑えたいし、ご馳走になれるなら有難い。


「すいません。じゃあ、遠慮なく行かせてもらっていいですか?」


「うん、いいよぉ。私も着替えないといけないし。ここから直ぐだから付いてきて」


 そう言って涎塗れの服を翻しながら歩き出す。

 はて? 直ぐとはどういう事だ?

 地上に出る直通路でもあるんだろうか?

 まぁ、今はとりあえず付いて行くしかないか。

 俺はメアリーさんの後を付いて行くことにした。


 広間から10分ほど歩いた所にそれはあった。

 家だ。

 紛う事なき家。

 壁は石造りで屋根には丸瓦を使われていて、窓枠には丈夫な木材が使われていて、ガラス戸が嵌め込まれている。

 二階建ての屋根の上には煙突まである。

 帝都の上流家庭の家と言っても遜色ないだろう。


「どうぞ、入って寛いでって」


 扉を開けて手招いてくれるメアリーさん。

 招かれるままに家の中に入るが、これといって特別な事はない。

 居間があって台所があって、本当に普通の家だ。

 ここがダンジョンの中でなければだけど。


「とりあえずそこに座って待っててね。私は着替えてくるから。あっ! 覗いちゃダメだぞっ!」


 そう言って少し顔を赤らめながら可愛らしい笑顔を振りまいて隣室に行ってしまうメアリーさん。

『覗いちゃダメだぞ』って言われたので俺は大人しく待つことにした。

 しかし、なんでこんな所に家があるんだ?

 ここに住んでるんだろうか?

 そういえば『ダンジョン研究家』とか言ってたっけ?

 それってどんな職業なんだろう?

 謎は深まるばかりだ……。


        ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


「ど、どうしよう……と、年下の男の子なんか家に呼んじゃった! もぅ! 私ってはしたない? はしたないよね?  きゃあ! もぅ! どうしよう! 何であんな事言っちゃったの! 何で呼んじゃうのよっ!」


 居間の横にある脱衣室で私は凄く後悔していた。

 だって家に若い男の子なんか呼んじゃったんだよ?

 こんなの駄目よっ!

 軽い女だと思われて……もしよ? もし、あの子が襲ってきたら……ど、どうするのよ!

 さっきみたいに口蓋垂(のどちんこ)摘むわけにもいかないし、こんな下層まで来るぐらいだからきっと飢えてるわ……。

 もぅ! それが分かってて何で家に呼んじゃうのよ!

 私のばかぁ!

 ……でも、あの子は私が齧られた時に本気で怒ってくれてたなぁ。

 私の身体の事も気になってるだろうけど、無理に聴こうとしなかったし……そんな人、初めてだったなぁ。

 あっ! いけない! 彼を放ったらかしにしちゃってるじゃない!

 さっさとお風呂に入って身支度整えないと! 

 えっと、下着はこれなら大丈夫……って!

 違う! もぅ! 何、意識してるのよっ!

 相手はまだ成人したばかりくらいの子でしょ!

 何考えてるのよっ!

 もぅ! と、とにかく急がないとっ!

 私は扉の外を気にしながらも涎塗れに服を脱いで、浴室に入り、お湯で身体を流し石鹸で丹念に髪と身体を洗った。

 途中、気になって何度も脱衣室を確認したけど、そこは物音一つせず、シンと静まり返っていた。

 お風呂から上がって、身体を拭いている時も気になって、ソッと扉を開けて居間を見てみると、彼は()()()()()()()()()()居間の椅子に座っていた。


「あ、あれ? も、もしかして私って魅力ない? おかしいなぁ……街に出れば結構声かけられるんだけど……って! 違う! 何でガッカリしてるのよっ! もぅ! 私の馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿ぁ!」


 結局、彼は私が身支度を整え終えるまで、居間から動く事なく私は複雑な心境のまま居間に戻った。


いつも拝読ありがとうございます。


『事実は小説より奇なり』という言葉がありますが、本当にそう思います。

メアリーの性格は多少誇張してあますが、私の知人がモデルです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ